ウェルナー症候群
公開日:2016年7月25日 15時00分
更新日:2019年8月15日 14時15分
ウェルナー症候群とは?
ウェルナー症候群とは、1904年にドイツの医師"オットー・ウェルナー氏"によって報告された、常染色体に劣性遺伝する疾患です。"早老症"を代表する疾患の1つで、思春期以降に白髪やとがった鼻、小顔などの見た目の老化や、若年性白内障など、本来であれば老化に伴ってみられる老人性の疾患を合併するなど、さまざまな老化の徴候がみられることが、特徴です。
ウェルナー症候群は思春期以降に発症することが多く、がんや動脈硬化といった合併症にかかり、40歳半ばで死亡する例が多いとされていますが、現在では医療の進歩により、平均寿命がプラス10歳前後伸びています。
日本でのウェルナー症候群の推定患者数は、約2,000人といわれています。世界で報告されているウェルナー症候群患者のうち、およそ6割が日本人であることから、早老症の中でも特に日本での研究が進んでいる疾患です。1994年に、原因となる遺伝子が特定されましたが、老化の兆候が早期にみられるメカニズムはまだ解明されておらず、根治療法も確立されていません。
ウェルナー症候群の症状とは?
ウェルナー症候群では、以下のような見た目で分かる症状が、20歳以降にみられます。
- 白髪・脱毛・禿頭などの毛髪変化
- 鳥様顔貌(ちょうようがんぼう:鼻がとがってくる)
- 音声の異常(高調性の嗄声(させい):高音域の声を出そうとすると声がかすれてしまうこと)
- アキレス腱などの軟部組織の石灰化
- 皮膚の萎縮や角化・潰瘍
- 四肢の筋・軟部組織の萎縮
また、見た目だけでなく、白内障(両側の場合と片側のみの場合がある)、四肢末梢の難治性皮膚潰瘍など、高齢者特有の疾患を、合併することがあります。さらに老化が進むと、高インスリン血症を伴う耐糖能障害(糖尿病)、悪性腫瘍(がん)、動脈硬化、性腺機能低下症(男性の場合はインポテンツ)などが出現します。ウェルナー症候群によって死亡する場合、多くの例がこれらの"高齢者特有の疾患の合併"が原因となることが多く、特に悪性腫瘍と動脈硬化は、ウェルナー症候群の二大死亡原因と考えられています。
また、ウェルナー症候群の患者は低身長である場合が多いのですが、知能は衰えることなく、年相応に経過します。
ウェルナー症候群の原因とは?
ウェルナー症候群の原因は"第8染色体短腕上に存在する RecQ 型の DNA ヘリカーゼ(WRNヘリカーゼ)のホモ接合体変異"と考えられています。ヒトの染色体は、常染色体22対(44本)+性染色体2本の計46本で成り立っていますが、このうち、常染色体の8番目の染色体に異常がある、ということです。
WRNヘリカーゼは、自分のDNAが傷ついたときに修復するという働きがあります。WRNヘリカーゼに関連する遺伝子は、ヒト1人が2つもっており、両親から1つずつ遺伝します。この遺伝子が2つとも異常である場合に、ウェルナー症候群を発症します。しかし、この遺伝子の変異が、なぜウェルナー症候群に特徴的な早期の老化兆候をもたらすのか、糖尿病や悪性腫瘍など合併するのか、詳しいメカニズムは分かっていません。
また、このWRNヘリカーゼは両親から1つずつ遺伝しますが、1つだけに異常があっても、ウェルナー症候群は発症しないといわれています。そのため、ウェルナー症候群を発症している患者の姉妹や兄弟では、4人に1人が発症する可能性がありますが、ウェルナー症候群の患者の子どもがウェルナー症候群を発症する確率は、200~400人に1人といわれています。
ウェルナー症候群の診断とは?
ウェルナー症候群の診断基準は、最新版が2012年に発表されています。
項目 | 診断基準 |
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Ⅰ 主要徴候(10歳以後、40歳まで出現) |
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Ⅱ その他の徴候と所見 |
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Ⅲ 遺伝子変異 |
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- ※1 ヘリカーゼ:
- ヘリカーゼとは、DNAの2本鎖、RNAの二次構造を、ほどく(分離させる)酵素のこと<
表1に記載されている主要兆候が3つ以上(またはすべて)当てはまり、遺伝子変異を認める場合は、診断が確定します。
主要兆候の1、2が当てはまり、さらに主要兆候もしくはそのほかの徴候から2つ以上が当てはる場合は、ウェルナー症候群疑いという診断になります。
遺伝子検査については、実施できない施設の方が多いことから、診断に対し、遺伝子検査は必須ではないという基準が設けられました。