コケイン症候群
公開日:2016年7月25日 13時00分
更新日:2019年8月15日 14時28分
コケイン症候群とはどのような病気なのか?
コケイン症候群とは、"早老症"に分類される疾患の1つです。少し難しい言い方ですが、正確には"常染色体劣性遺伝により発症する光線過敏症紫外線症"のことをいいます。
コケイン症候群が初めて疾患として認められたのは、1936年のことです。イギリスの小児科医であるコケイン医師(Edward Alfred Cockayne)により、「視神経の萎縮と難聴を伴い発育が著明に低下した症例」として報告されました。日本人の間で遺伝する確率は、100万人に2.7人程度で、現在の日本には、約50人の患者がいるといわれています。
コケイン症候群の症状とは?
コケイン症候群の症状は、症状の現れ方によって、3つに分類されます(表1)。
型 | タイプ | 平均寿命 |
---|---|---|
Ⅰ型 | 古典型 | 5歳くらい |
Ⅱ型 | 先天型:生まれた時から著名な発育障害がある | 15~20歳くらい |
Ⅲ型 | 遅発型:成人で発症するが、発症は稀 | 60歳までの生存例あり |
主徴候
主徴候とは、ほぼ全症例でみられ、確定診断の根拠となる症状のことです。次のような症状があります。
- 著明な成長障害
- 精神運動発達の遅延(言葉や歩行の発達が極めて遅い)
- 早老様の特徴的な顔貌(くぼんだ眼と頬、鳥の嘴様(くちばしよう)の鼻など、老人のように見える)
- 日光過敏症状(ひどく日焼けしたような紅斑、浮腫、水疱の形成)
副兆候
副徴候とは、90%以上の症例でみられ、診断上重要となる症状のことです。次のような症状があります。
- 大脳基底核の石灰化
- 感音性の難聴
- 網膜色素が変性する
その他の兆候
その他の徴候とは、病状が進行すると発現しやすい症状のことです。次のような症状があります。
- 白内障(Ⅱ型では生下時から)
- 足関節の拘縮(Ⅱ型では生下時から)
- 視神経の萎縮(Ⅱ型では生下時から)
- 脊椎が後弯(こうわん)する
- 虫歯
- 手足の冷感
- 性腺機能の低下
- 睡眠障害
- 肝機能障害
- 耐糖能異常(糖尿病)
合併症
合併症は、予後に深く関係する病状であり、次のような疾患があります。
- 腎機能障害
- 呼吸器感染
- 外傷
- 心血管障害
コケイン症候群の原因とは?
コケイン症候群の原因は、特定の遺伝子の変異によるものであることが分かっています。人間には本来、紫外線を浴びた後にDNA損傷を修復するシステムが備わっています。しかし、この機能を司る遺伝子が変異することで、損傷したDNAを優先的に修復することが難しくなります。
実際には、この機能には5つの遺伝子が関係していますが、その遺伝子が生まれつき欠損していることで、コケイン症候群を発症するといわれています。しかし、この遺伝子を先天的に持たないことで、なぜ、早老症の症状や発育不全がみられるようになるのか、そのメカニズムは現在も解明されていません。
コケイン症候群の診断とは?
コケイン症候群の診断には、診断基準によるものと、重症度分類によるものがあります。
診断基準によるものでは、未だ明確になっていない部分もありますが、おおよそ次のような流れで診断されます。
- 主徴候のうち、2項目以上あてはまれば、鑑別診断を行う
- 遺伝子検査で関連遺伝子に病的な異変があれば、診断が確定されます。
- 遺伝子検査で関連遺伝子に病的変異は無い、または遺伝子検査を行っていない場合、以下の1から3の条件にあてはまれば診断が確定されます。
- 主徴候が全てあてはまり、DNA修復試験で異常所見(修復能の低下)があるが、関連遺伝子の追加による相補(そうほ)※1を確認していない
- 主徴候が2項目以上あてはまり、DNA修復試験で異常所見があり関連遺伝子の追加による相補が確認される
- 以下の条件のうち(ア)および(イ)または(ウ)があてはまる
- (ア) 主徴候がすべて、かつ副徴候が2つ以上あてはまる
- (イ) その他の所見や検査データで他の疾患を否定できる
- (ウ) 血縁者にコケイン症候群と確定診断された人がいる
- ※1 相補(そうほ):
- 相補とは、お互いを補い合うこと、この場合は関連遺伝子を追加することで、本来の遺伝子の働きが確認できること2)
ただし、必ずしもこの流れだけで確定診断がなされるわけではなく、重症度分類による診断が行われることもあります。重症度分類で診断する場合は、出現している症状を重症度別にスコアリングして評価し
- 日光過敏症の程度
- 視力・聴力の程度
- 知的機能の障害の程度
- 移動障害の程度
- 食事機能障害の程度
- 腎機能障害の程度
などから、グレード1~3に分けられます。グレード2以上は、重症と判断されます。
他の疾患との鑑別診断は?
コケイン症候群にみられる徴候と、似た様な徴候がみられる他の疾患もあります。
コケイン症候群であるかどうかを確定するためには、コケイン症候群と似たような兆候が見られる他の疾患では無いことを確認する(鑑別診断を行う)必要があります。
コケイン症候群と似た兆候がみられる疾患については以下にまとめました。
これらの他の疾患は、それまでの経過や身体所見、血液・尿検査、遺伝子に関連する検査(染色体検査、遺伝子検査など)、光線試験(光に対しての過敏性の程度)などを行うことで、診断することができます。
コケイン症候群との鑑別診断が必要な疾患3)一部改変
低身長など、成長障害を引き起こす疾患
- 内分泌症
- 成長ホルモン分泌不全
- 甲状腺機能低下
- 染色体異常
- ターナー症候群
- プラダ―ウィリー症候群
- 軟骨無形成症
- 子宮内発育不全
大脳基底核に、石灰化が生じる疾患
- 代謝異常
- 副甲状腺機能低下症
- 偽性副甲状腺機能低下症
- 先天性疾患
- ファール病
- 結節性硬化症
- 感染症
- サイトメガロウイルス
- 麻疹ウイルス
- ヒストプラズマ
- 帯状疱疹ウイルス・水痘
- 鉛中毒
- 低酸素症
小児で日光過敏症状がみられる疾患
- 先天性ポルフィリン症
- 色素性乾皮症
- 種痘様水泡症
- ロスムンド・トムソン症候群
- ブルーム症候群
コケイン症候群の治療は?
患者の予後は合併症によって左右されるようです。現在コケイン症候群には根治的治療法はなく、紫外線を浴びないようにする生活、補聴器・眼鏡の使用のほか、合併症に対する対症療法、関節の拘縮や筋の緊張を和らげるためのリハビリテーション等が行われています。
参考文献
- 日本皮膚科学会ガイドライン 色素性乾皮症診療ガイドライン P5 公益財団法人日本皮膚科学会