ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群
公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2019年2月 1日 20時35分
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とは
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とは、乳児期に発症し、低身長や成長遅延など、小人症様(こびとしょうよう)と呼ばれる症状がみられる疾患です。
この疾患は、1886 年にハッチンソン氏により報告された症例が最初だといわれています。その内容は"毛髪や乳腺の先天性欠如と皮膚ならびにその付随器の委縮を伴った 3 歳児例"というものでした。それからおよそ10年後の1897 年に、ヘイスティングス・ギルフォード氏もこれと似た様な症例を発見しました。その後の1904 年に、ギルフォード氏により"ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群"と命名されました。現在では単に"プロジェリア症候群"と呼ばれることもあります。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群は、生後6ヶ月から2歳くらいの間に発症し、現在では、世界中でおよそ200から250人の子ども(乳幼児)が発症していると推測されています。乳幼児のうち、およそ400~800万人に1人の割合で、性別・人種に関係なく発症し、平均寿命は13歳程度です。多くの場合、成人前に、心疾患や脳卒中で死亡しているようです。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群は、患者数が非常に少なく、現在日本での患者数は不明とされています。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の症状
生後半年程度の乳幼児期に発症するため、図に示す頭頂部大泉門の閉鎖不全を生じ、頭が大きく見えます。
見た目の特徴的な症状としては、
- 水頭症のような顔貌
- 禿頭、脱毛
- 強皮症のような皮膚
- 歯牙の形成不良
- 尖った鼻(鳥のような顔立ち)
- 皮下脂肪の減少
- 小顎症
などがあります。
病状が進行すると、内科的な症状として、全身の動脈硬化性変化や糖尿病を合併します。この他、関節の拘縮、股関節の脱臼、骨の変形、白内障などの合併症がみられるようになります。
特に動脈硬化による血管障害の進行が非常に早いことから、重篤な循環機能障害を起こしやすいという特徴があり、死因の多くは心疾患や脳卒中(脳梗塞)によるものとされています。一方で、神経器官や脳の働きは、正常に成長して機能しているという特徴もあります。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の原因
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の原因は、簡単にいえば遺伝子の異常によるものです。ヒトの常染色体の 1番目にあるLMNA(ラミンA)と呼ばれる、遺伝子の変異が原因であることが分かっています。
LMNA遺伝子は、細胞分裂を行う際に、ラミン A という"細胞核の骨格となるたんぱく質を作る"という働きがあります。このLMNA遺伝子の異常により、プロジェリンと呼ばれる異常たんぱく質が作られてしまい、細胞核の構造異常や、クロマチン構造の変化を引き起こします。結果的に、全身での老いを早めることになり、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群に特有の症状を引き起こしているのです。
原因遺伝子は2003年に特定されていますが、老いを早めるメカニズムや、合併症を引き起こす理由などは現在も解明されていません。今後、老化が促進されるメカニズムの解明や、治療薬の開発など、診断・治療における進歩が期待されています。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の診断
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群は、すでに原因遺伝子が特定されていますので、この疾患を研究する機関には、診断テストプログラムがあります。これによって、原因となる特定の遺伝変異を見つけることができ、確定診断も可能になります。
診断までには、
- 診察:患者の外見的特徴や、過去の診察記録をみる
- 検査:血液検査により、遺伝子変異を確認する
という過程を経ることになります。確定診断のためには、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の研究機関での遺伝子検査や、専門家による診断が必要です。
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群の治療
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群は、未だ有効な治療法が確立されていませんが、研究機関を中心として、治療薬の研究が進んでいます。
2005年からスタートした臨床試験は、引き続き行われています。現在、日本での患者数は公表されていませんが、治療薬の発見と普及に、期待が寄せられています。