高齢者の脂質異常症の診断
公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2023年8月 1日 10時48分
脂質異常症は、診断基準が総コレステロール値からLDLコレステロール値へと変わったため、2007年4月に高脂血症から脂質異常症に呼び方が変わっています。高脂血症という呼び方も並行して使われています。
脂質異常症の診断基準1)
脂質異常症の診断基準を以下に示しますが、動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療を開始するための基準値ではありません(表1)。
LDLコレステロール※1(LDL-C) | 140mg/dl以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
LDLコレステロール※1(LDL-C) | 120~139mg/dl | 境界域高LDLコレステロール血症 |
HDLコレステロール※2(HDL-C) | 40mg/dl未満 | 低HDLコレステロール血症 |
トリグリセライド※3(TG) | 150mg/dl以上 | 高トリグリセライド血症 |
- LDLコレステロールはFriedewaldの式(TC(総コレステロール)-HDL-C-TG/5)を用いて算出する。(TGが400mg未満の場合)
- TGが400mg/dL以上でFriedewaldの式を用いることができない場合や食後採血では、LDL-Cの代わりにnon HDL-C(TC-HDL-C)を使用し、その基準はLDL-C+30mg/dLとする。
- 10~12時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし、水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
- スクリーニングで境界域高LDLコレステロール血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
- ※1 LDLコレステロール(LDL-C):
- 悪玉コレステロールとも呼ばれ、増えすぎると血管の壁に溜まって動脈硬化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります2)。
- ※2 HDLコレステロール(HDL-C):
- 善玉コレステロールと呼ばれ、増えすぎたLDLコレステロールと血管の壁に溜まったコレステロールを肝臓へ戻す役割をしています3)。
- ※3 TG(トリグリセライド):
- 中性脂肪(脂肪)とも呼ばれ、肉、魚、食用油、バターなどに含まれる脂質や体脂肪の大部分を占めている物質です。摂り過ぎは肥満を招きます4)。
診断の方法
絶対リスクによるカテゴリー分類
動脈硬化性疾患は性別、年齢、喫煙、脂質異常症、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)などにより発症します。個人によって背景は大きく異なるため、絶対リスクを評価してカテゴリー分けをし、それぞれのカテゴリーに対応した脂質管理目標値を定めます。絶対リスクに基づくカテゴリー分類は図1のフローチャートに基づいて行われます。
- まずは冠動脈疾患の既往歴の有無を確認し、「あり」の場合は二次予防のカテゴリーとなります。「なし」の場合は下に進みます。
- 糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)の有無を確認し、いずれかが「あり」の場合はカテゴリーⅢ(高リスク)となります。「なし」の場合は下に進みます。
- 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(一次予防)(図2 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(一次予防)参照)を参照し、性別、年齢、喫煙、収縮期血圧、TCを用いて、絶対リスクの大きさに基づいてカテゴリーⅠ(低リスク)、カテゴリーⅡ(中リスク)、Ⅲ(高リスク)の管理区分に分類します。
- リスク評価チャート(一次予防)でカテゴリーⅠかⅡの場合は追加リスクをカウントします。低HDL-C血症、早発性冠動脈疾患の家族歴、耐糖能異常のいずれか、または複数がある場合は一段階上のカテゴリーに変更されます。追加リスクがない場合はそのままのカテゴリー分類となります。
カテゴリー分類に基づく管理目標値の設定
カテゴリー分類に基づいて脂質の管理目標値が設定されます(表2)。
治療方針の原則 | 管理区分 | LDL-C | HDL-C | TG | nonHDL-C※4 |
---|---|---|---|---|---|
一次予防 まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する |
カテゴリーⅠ | <160 | ≧40 | <150 | <190 |
一次予防 まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する |
カテゴリーⅡ | <140 | ≧40 | <150 | <170 |
一次予防 まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮する |
カテゴリーⅢ | <120 | ≧40 | <150 | <150 |
二次予防 生活習慣の改善とともに薬物療法を考慮する |
冠動脈疾患の既往 | <100 | ≧40 | <150 | <130 |
- これらの値はあくまでも到達努力目標値である
- LDL-Cは20~30%の低下を目標とすることも考慮する
- nonHDL-Cの管理目標は、高TG血症の場合にはLDL-Cの管理目標を達成した後の二次目標である。
- TGが400mg/dL以上および食後採血の場合は、nonHDL-Cを用いる。
- ※4 nonHDL-C:
- 総コレステロールからHDLコレステロールを差し引いたもので、心筋梗塞や脳梗塞のリスク予想には、LDLコレステロールよりも優れているとされます5)。
高齢者の脂質異常症の診断
脂質異常症のリスクの評価では、「図2 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(一次予防)リスクの評価」の補足事項(4)において、「75歳以上は本ガイドラインを適用できない」とあります。
75歳以上の一次予防症例の場合は、脂質異常症の治療の基本である食事や運動などの生活習慣の改善は低栄養となる危険もあり、予防効果が明らかとされていません。そのため、主治医の判断に基づいて脂質管理目標値の設定や治療方針が決定されます。
引用・参考文献
- 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版 一般社団法人日本動脈硬化学会
- 1-1 25P 7脂質異常症の診断基準 表7-1脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
- 1-2 27P 8管理目標値 図8-1 LDL-C管理目標値のためのフローチャート
- 1-3 28P 8管理目標値 図8-2 冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(一次予防)
- 1-4 29P 8管理目標値 表8-1 リスク区分別脂質管理目標値
- 平成25~27年度厚生労働科学研究non-HDL等血中脂質評価指針および脂質異常症標準化システムの構築と基盤整備に関する研究 研究代表者 寺本民生(帝京大学医学部臨床研究医学講座)研究分担者(疫学担当) 岡村智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)