高齢者によくみられる感染症の種類
公開日:2016年7月25日 15時00分
更新日:2019年6月12日 12時55分
高齢者は加齢に伴って、感染に対する抵抗力が弱くなっており、高齢者が集団で生活する高齢者介護施設などは、感染が広がりやすい環境です。
高齢者介護施設において留意すべき感染症には、職員も発症し、集団感染が起こり得る感染症、高齢者など、抵抗力の低下している人がかかりやすい感染症、血液や体液を介して感染する感染症があります1)。
集団感染の可能性がある感染症
インフルエンザ
インフルエンザの特徴
インフルエンザウイルスに感染することで起こり、インフルエンザウイルスはA型、B型、C型があります。国内で主に流行がみられるのはA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型(香港型)、B型の3種類です2)。
A型は、ウイルスの形を少しずつ変えながら毎年たくさんの人へと感染して、日本では12~3月に流行します2)。
インフルエンザの症状
38度以上の高熱、全身倦怠感(全身がだるい、しんどい)、頭痛、関節痛、筋肉痛の症状が急速に現れ、鼻水、鼻閉、咳、くしゃみ、咽頭痛などの風邪の症状を伴います。B型の場合は、下痢、嘔吐、吐き気などの胃腸症状がみられることがあります2)。
急に高熱がみられ、全身のだるさや関節痛などの全身症状がみられること、高齢者では肺炎を伴うなど重症化することがある点が普通の風邪とは異なります2)。
感染性胃腸炎3)
感染性胃腸炎の特徴
細菌やウイルスなどの感染により、主に嘔吐・下痢の症状がみられます。日本では、ノロウイルスとロタウイルスによる胃腸炎がよくみられ、ノロウイルスは秋から冬にかけて、ロタウイルスは3~5月に流行がみられます。その他、アデノウイルスやエンテロウイルス、細菌が原因となることもあります。
感染性胃腸炎の症状
嘔吐と下痢を主な症状として、脱水、電解質喪失症状※1など、全身症状がみられます。症状の現れ方や程度は個人によって異なります。
- ※1 電解質喪失症状:
- ナトリウムやカリウムなどの電解質が失われ、頭痛、昏迷、錯乱、嘔吐、下痢などの全身症状がみられます。
腸管出血性大腸菌感染症4)
腸管出血性大腸菌感染症の特徴
ベロ毒素を作り出す大腸菌に汚染された食べ物を摂取することで起こり、日本では原因菌としてO157が多くみられます4)。
腸管出血性大腸菌感染症の症状
下痢(軽度~頻回の水様便)、腹痛、発熱、血便、発熱(多くは37度台)などがみられます。下痢や腹痛のどちらかのみがみられるときもあれば、両方伴う時もあり、程度も様々です。溶血性尿毒症症候群や脳症などの重篤な合併症を伴うこともあります。
痂皮型疥癬(かひがたかいせん)5)
痂皮型疥癬の特徴
100~200万匹のヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生して、皮膚どうしの接触や布団などの寝具を介して感染します。
痂皮型疥癬の症状
全身の皮膚や爪に分厚く白っぽいかさぶたができ、かゆみが出ます。
結核6)7)
結核の特徴
結核菌群が気道を介して飛沫感染することで起こります。感染して発病するのは約30%ですが、感染すると数週間で発病することもあれば、数年経過してから発病することもあり、生涯にわたって発病の可能性があります。
高齢者の場合は、加齢に伴う抵抗力の低下によってすでに結核菌に感染している人の発病や、再感染することによる発病が多くみられます。治療の副作用や合併症の影響で治療が十分に行えないことも多く、また、疾患を合併して重症化することもあり、高齢者の死亡率は高くなります。
結核の症状
初期は無症状で経過し、咳、痰が出る、微熱が典型的な症状で、胸の痛み、呼吸困難、血の混じった痰が出る、全身倦怠感、食欲不振などがみられることもあります。
高齢者などの抵抗力の低下した人が特にかかりやすい感染症
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)8)9)
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)特徴
黄色ブドウ球菌はヒトの体内にも存在しているグラム陽性球菌ですが、抵抗力の落ちている高齢者などは、皮膚にできる傷から化膿症や蜂窩織炎(蜂巣炎)※2などの皮膚に起こる感染症や、肺炎、腹膜炎、敗血症※3、髄膜炎、MRSA腸炎などの重症感染症を起こします。
ペニシリン剤やマクロライド剤など、多くの種類の抗菌剤が効かない黄色ブドウ球菌によって起こります。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)症状
急な高熱、血圧低下、咳、下痢、お腹の張り、食欲不振、意識障害、白血球減少、血小板減少、腎機能障害、肝機能障害などがみられます。
- ※ 2蜂窩織炎(ほうかしきえん)(蜂巣炎(ほうそうえん)):
- 皮膚の奥にある組織の間に細菌が侵入し、炎症を起こして赤く腫れる。リンパ浮腫や膿を持つこと、発熱、悪寒などもみられ、菌血症などを起こして重症化することもある10)
- ※3 敗血症:
- 感染を起こして発熱や体温低下、血圧低下、頻脈、意識障害などがみられる
緑膿菌感染症
緑膿菌感染症の特徴
緑膿菌は水回りなどに多く存在している菌で、健康な人には害がありませんが、抵抗力の低下している高齢者などや、抗菌剤を長期服用している人が感染すると、日和見感染症※4の原因となります。高齢者では口の中や気管の分泌液の中に緑膿菌が存在している場合もあります。
セフェム剤やテトラサイクリン系、マクロライド系の抗菌剤に耐性がみられるものを「薬剤耐性緑膿菌感染症」と言い、さらにβ-ラクタム剤、アミノ配糖体、フルオロキノロンなどの抗菌剤にも耐性を示す緑膿菌を「多剤耐性緑膿菌」と呼びます。
緑膿菌感染症の症状
皮膚の傷や褥瘡などが治りにくく、周囲の組織が壊死して骨まで見えるような傷にまで悪化することや、菌血症※5や敗血症を引き起こして多臓器不全を起こすことがみられます。
- ※4 日和見感染症:
- 健康な人では感染症を起こさないような病原体で感染症を発症すること
- ※5 菌血症:
- 菌が体の中に入り、発熱などの症状がみられること
血液や体液を介して感染する感染症
肝炎(B型、C型)11)12)
肝炎(B型、C型)の特徴
血液や体液を介してB型・C型肝炎ウイルスが傷や粘膜から侵入して感染が起こります。B型肝炎では母親からお腹の中の胎児に感染する母子感染もみられます。
肝炎(B型、C型)の症状
B型肝炎で急性肝炎を起こすと全身倦怠感、食欲不振、嘔吐、褐色尿、黄疸などがみられます。多くの場合、症状は一過性で回復しますが、急激に症状が悪化する劇症肝炎で死に至ることや慢性肝炎に移行することもあります。自覚症状がないまま慢性肝炎となり、肝硬変や肝がんを発症することもあります。
C型肝炎では全身倦怠感や食欲不振などの症状がみられますが、気づかないまま慢性肝炎となっていることが多く、肝硬変や肝がんを発症します。肝がんが進行すると腹痛、発熱がみられることや、肝硬変や肝がんが末期まで進行すると黄疸、腹水貯留、意識障害がみられます。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症13)14)
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の特徴
HIVに感染すると徐々に抵抗力が低下していき、日和見感染症や悪性腫瘍などを発症します。指標疾患※6を発症するとエイズ発症と診断されます。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の症状
感染してから初期の頃に発熱、咽頭痛、筋肉痛、発疹、リンパ節腫脹、頭痛などの症状が数日から10週間程度みられます。多くは自然に軽快した後、無症状のまま数年から10年間経過します。その後は徐々に抵抗力が低下して日和見感染症や悪性腫瘍を発症し、食欲不振、下痢、低栄養、衰弱が著明となります。
- ※6 指標疾患:
- AIDSの診断の基準のひとつとなる23の疾患(参照URL:厚生労働省8 後天性免疫不全症候群 指標疾患)