院内感染
公開日:2016年7月23日 10時00分
更新日:2020年2月25日 10時18分
院内感染とは
病院には、悪性腫瘍など消耗性疾患の患者や、手術等の感染リスクの高い処置を受けた患者、また化学療法や、臓器移植後に免疫抑制剤の投与を受け感染防御能(のう:能力、働き)が低下している患者など、様々な病原体の感染に対する抵抗力が低下した、いわゆる易感染性宿主が多くいて、感染症が発生しやすい特殊な環境と言えます。
その病院内で細菌やウィルス等の病原体に曝露(ばくろ:さらされること)して生じた感染は、全て院内感染となります。病原体によって発病までの潜伏期間が異なりますが、一般に入院して3日目(48時間以上)以降に発病した場合を院内感染とみなしています。
一方、それに対して入院前に病原体に曝露して感染し発病した場合を市中感染と呼びます。市中感染は、通勤途中や人通りの多い繁華街などでの接触、病原体に汚染されていた食べ物の摂取など、通常の生活の中で起こります。
院内感染を引き起こす病原体
院内感染を引き起こす病原体には、インフルエンザ(リンク1参照)、麻疹、水痘等のウイルス、サルモネラ、病原性大腸菌O-157等の食中毒菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌やバンコマイシン耐性腸球菌など抗生剤の効きにくい耐性菌や結核菌やレジオネラ菌の他にカンジダやアスペルギルス等の真菌、疥癬(かいせん)等のダニがあります。
こうした病原体が身体に付着・定着するだけでは感染ではなく、病原体が組織に侵入し炎症反応を引き起こした場合に感染となるのです。
また院内感染は、人から人へ、または医療器具などを媒介にして拡がるので、感染を受ける対象は、患者だけでなく、医療従事者やお見舞いに訪れた訪問者も含まれることになります。
院内感染の種類には、肺炎や尿路感染、カテーテルに関連した血流感染や手術の術野感染などがあります。
院内感染対策
院内感染は決してゼロにはなりませんが、その伝播を予防するために、各医療施設では感染対策チームが組織され対策がとられています。
患者及び医療従事者を感染から守るための基本的な感染予防対策は標準予防対策です。 これは疾患にかかわらず全ての患者の血液・体液・分泌液・排泄物、傷のある皮膚・粘膜は感染性のあるものとみなし、手袋やガウン等を使用し手洗いを行って防御します。採血検査の時に看護師が手袋を着用するのもこのためです。
この標準予防対策を行った上で、感染性のある病原体を持っている患者からの感染経路の遮断を行います。これを感染経路別予防策といい、接触感染予防策、飛沫感染予防策、空気感染予防策の3種類があります。
各感染対策の対象となる病原体は表に示す通りです。
感染経路別予防策 | 感染対策の対象となる病原体 |
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接触感染対策 | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌などの耐性菌感染症、疥癬、帯状疱疹、0-157感染症、急性ウィルス性結膜炎、クロストリジウム・ディフィシル腸炎、ノロウィルス感染症など |
飛沫感染対策 | インフルエンザ、流行性耳下腺炎、風疹などのウィルス感染症、インフルエンザ菌感染症、髄膜炎菌感染症、ジフテリア、マイコプラズマ肺炎、百日咳、A群溶連菌感染症、SARSなど |
空気感染対策 | 麻疹、水痘(播種性または免疫不全状態での帯状疱疹を含む)、結核 |
接触感染対策では、手洗いや手袋などの使用を徹底して患者自身及び患者が触れるものを介して感染が伝播するのを防ぎます。体温計などの医療器具も、患者専用になります。
飛沫感染対策では、咳やくしゃみで飛ぶしぶきによる伝播を、物理的な遮蔽や個室隔離、患者の半径1m以内には入る時にはマスク、手袋などを着用して防ぎます。
空気感染対策では、病原体が外部に漏れないように陰圧の個室に患者を配置し、入室する場合はN95マスクなどの防御具を使用します。