心臓病の運動療法とは
公開日:2016年7月25日 17時00分
更新日:2024年2月16日 11時06分
心臓病とは
心臓病の中には虚血性心疾患とも呼ばれる疾患が多数をしめ、その中には狭心症と心筋梗塞があります。
狭心症は動脈硬化が進んで、心臓の血管の内腔が狭くなり血流が悪くなった状態です。心臓を動かす血液が不足すると心筋虚血となって動悸や息切れ、胸を圧迫されるような痛みがみられます。痛みは激痛まではいかず、数分以内におさまります1)。
動脈硬化によってさらに血管の内腔が狭くなり、血栓(血の塊)ができて詰まると血流が途絶えて心筋の壊死(細胞が壊れる)が起こります。動悸、息切れ、胸の激痛、呼吸困難、不整脈、吐き気、冷汗、顔面蒼白などの症状がみられます。胸の痛みは長く続き、20分から数時間続くこともあります1)。
狭心症からさらに動脈硬化が進んで心筋梗塞となりますが、狭心症の症状がみられないまま、突然、心臓の血管が血栓で塞がれて心筋梗塞となって死に至る場合もあります1)。
心臓病の運動療法
狭心症や心筋梗塞を起こす要因となる動脈硬化の治療・予防として、速歩やウォーキング、ジョギング、水泳などの軽い有酸素運動を30分以上、週3~4回程度行うことが推奨されています2)。
昔は心臓病がある場合は運動を行うことで、より心臓の状態が悪化し、心臓を拡大すると考えられていましたが、運動療法は心機能を悪化させることはないことがわかり、心臓病に対しての運動療法として心臓リハビリテーションが積極的に実施されています。狭心症や心筋梗塞では、運動機能や持久力・体力の低下もみられ、生活機能も低下します。QOL※1の向上、予後の改善を目標とした運動療法が行なわれます3)。
- ※1QOL:
- Quality of Lifeの略。生活の質を表すが、心臓リハビリテーション領域で用いる場合には日常生活の健康感を表すHealth-related QOL:HRQOLの意図で使われることが多い4)
心臓病における運動療法の効果
QOLの改善と予後の改善
運動療法による最大の効果は運動耐容能※2の増加です。呼吸困難や疲労感などの心不全症状や狭心症発作などを軽減し、QOLを改善します。心不全の増悪を予防し、死亡のリスクを減らして予後を改善する効果もあります。心不全症状や発作などが減少することで日常生活での不安や抑うつなどが軽減して精神的な効果が得られることも言われています4)。
- ※2運動耐容能:
- 運動耐容能とは、全身を使う持久的な運動に耐えられる能力のこと
狭心症発作の軽減
運動療法によって心拍数の減少、収縮期血圧の低下がみられ、心臓にかかる負担が軽減します。心筋の酸素需要量が軽減し、心筋虚血の閾値が上昇(心筋虚血になるまでの許容が拡大する)して狭心症発作が軽減します4)。
動脈硬化の危険因子の改善
動脈硬化の危険因子となる糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、ストレスなどの改善には運動は必須であるうえ、運動不足も動脈硬化の危険因子となります4)。
自律神経機能の改善
心臓病の患者では交感神経の緊張が持続してみられ、心不全症状が進み、重症不整脈が生じることも言われています。運動療法によって交感神経の緊張の低下と副交感神経の緊張が増加して自律神経機能の改善に効果があります4)。
レジスタンス運動による筋力増強
レジスタンス運動は、心拍数の増加に伴って血圧が上昇しやすく、不整脈や虚血を起こしやすいので昔は避けられてきた運動ですが、低負荷のレジスタンス運動では、心臓への負担が増すことなく筋力の向上を図れることがわかっています。日常生活活動や運動を行うためには大臀筋などの抗重力筋の筋力向上が必要であり、歩行などの有酸素運動とともにレジスタンス運動も実施されます4)。
心臓病の運動療法の種類
心臓病の運動療法は、準備運動、有酸素運動(持久性運動)、レクリエーション運動、レジスタンス運動、整理運動があります。
準備運動
準備運動では、上肢・体幹・下肢のストレッチを行い、運動を行うために筋肉の柔軟性を高めて関節の可動域を広げ、怪我の予防に努めます。血液循環を促し、徐々に運動強度を高めて次の運動を行うための準備を行います4)。
有酸素運動(持久性運動)、レクリエーション運動
歩行やランニング、サイクリング、水泳などの有酸素運動を20~60分間行います。運動強度は体力や運動への慣れ、疾患の有無、疾患の重症度によって調整し、「ややつらい」と感じる強度を上限とします。一般的には全身をバランスよく使い、身体への負担も少ない歩行が実施さることが多く、有酸素運動後にレクリエーション運動を行い、運動を継続するための動機づけとすることもあります4)。
レジスタンス運動
大臀筋(足をお尻から後ろに伸ばす)、大腿四頭筋(膝を伸ばす)、下腿三頭筋(つま先立ち)などの下肢の筋肉、三角筋(ショルダープレス)、上腕二頭筋(肘を曲げる)、上腕三頭筋(肘を伸ばす)などの上肢の筋肉、腹筋・背筋の体幹の筋肉を鍛えるレジスタンス運動をひとつの運動につき8~15回、1~3セット行うことが推奨されています4)。
心臓病の運動療法の注意点
心臓病では適切な運動では効果が得られますが、身体への負担の大きい運動は心臓の機能や体調の悪化につながります。運動開始前に主治医に運動の種類、時間、強度、頻度、運動中止の基準の確認、服薬状況の確認が必要です。
体調や天候がよい時に運動するようにし、運動を行うのに適した服と靴を着用します。運動時の胸部の不快感や息切れ、腰痛や膝痛の出現に注意し、無理をしないことが大切です。運動後に疲労感が残る場合や運動をした夜に眠れないなどの症状がみられる場合は運動の負荷量を調節する必要があります4)。
参考文献
- 生活習慣病対策および健康維持・増進のための運動療法と運動処方 虚血性心疾患 175-181 野原隆司 佐藤祐造編著 東京文光堂本郷
- 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改定版)日本循環器学会