高血圧の運動療法とは
公開日:2016年7月25日 18時00分
更新日:2019年2月 1日 15時52分
高血圧とは
高血圧の診断基準では収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上が高血圧となります。高血圧の状態が続くと、血管が傷ついて硬く狭くなり、動脈硬化を進行させ、脳卒中(脳梗塞・脳出血)や狭心症・心筋梗塞・心不全、腎臓病になるリスクが高くなります。高血圧はメタボリックシンドロームとの関係もあり、収縮期血圧135mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上は正常高値ですが、メタボリックシンドロームの診断基準とされます1)。
高血圧には本態性高血圧と二次性高血圧とがありますが、日本人の高血圧のほとんどは本態性高血圧が占めています(90%以上)。二次性高血圧は何らかの原因疾患によってみられる高血圧ですが、本態性高血圧は高血圧となりやすい遺伝体質を持っているうえに、塩分の摂り過ぎ・肥満・過剰なアルコール摂取、ストレス・運動不足などの生活環境要因が合わさることで起こると考えられています1)。
高血圧の運動療法
高血圧の治療は運動療法と食事療法を基本とした生活習慣の改善と薬物療法があります。
生活習慣の改善は減塩(1日6g未満)、野菜・果物の積極的摂取、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控えて魚油の積極的摂取を行うこと、適正体重(BMI25未満)の維持、運動、節酒、禁煙が言われています2)。
高血圧などの生活習慣病の予防や治療には速歩のような有酸素運動が優れているとされています3)。運動強度については論文によって、その評価の尺度が一定していませんが自覚的所見から推定するボルグ・スケールでは「ややきつい」程度であることが言われています3)。運動は定期的に(できれば毎日30分以上行うことを目標とし、少なくとも10分以上の運動で,合計して1日30分を超えればよいとされています3)。
高血圧における運動療法の効果
運動療法によって血管内皮機能が改善し、降圧効果が得られる2)とされています。他にも、運動は脂質や糖の代謝、インスリン感受性の改善、循環器合併症による死亡率の低下の作用もあると言われています4)。
1日60分間、週3回(1日おき)、10週間の運動、または毎日30分間の運動によって、収縮期血圧20mmHg以上、拡張期血圧10mmHg以上の降圧が患者の50%にみられたという研究報告があります4)。高血圧患者の長期的な身体活動によって収縮期血圧7.4mmHg、拡張期血圧5.8mmHgの低下がみられた2)という報告もあります。最近では、1回30分、週2回程度の有酸素運動や、軽症の高血圧患者に対して1日8,000歩程度の身体活動を3カ月間実施した場合でも降圧効果がある2)という結果が得られています。
高血圧のための運動療法の種類
ウォーキング・速歩・ランニング・サイクリング・水中運動・水泳・レクリエーションスポーツなどの有酸素運動が推奨されています2)。
厚生労働省では、食事療法も併せて、高血圧を含む生活習慣病患者は強度が3~6メッツの運動を10メッツ・時/週(歩行と同等できついと感じない程度の30~60分の運動)を週3回以上行うことが望ましいとされています5)。
また、有酸素運動に加えて,レジスタンス運動やストレッチ運動を補助的に組み合わせると、前者は除脂肪体重の増加や骨粗鬆症・腰痛の防止、後者は関節の可動域や機能の向上が期待でき、有用であるとされています3)。
高血圧の運動療法の注意点
運動療法の対象者はⅡ度以下の血圧値(Ⅲ度を超える血圧の者は降圧後に運動療法を施行する)で心血管病のない高血圧患者であるとされています3)。
運動を開始する前にメディカルチェックを行い、虚血性心疾患や心不全などの疾患の有無、運動療法の可否を確認する必要があります。個人の年齢や基礎体力・健康状態・体重などから適切な運動量・運動内容・運動強度・運動時間・運動頻度を設定することが必要です。運動療法と併せて、塩分制限やアルコール摂取の制限、禁煙、食事療法などの生活習慣の改善も行うとより降圧に効果的とされています2)。
参考文献
- 身体活動と生活習慣病 日本臨床増刊号 高血圧の運動処方 荒川規矩男 366-371