肥満の運動療法とは
公開日:2016年7月25日 15時00分
更新日:2024年9月 5日 10時16分
肥満とは
肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数BMI※1が25以上のものと定義されています1)。肥満の判定は身長あたりのBMIをもとに判定します。BMIが18.5未満の場合は低体重、BMIが18.5以上25未満の場合は普通体重、BMIが25以上の場合はBMI値によって肥満1度~4度に分類されます。BMI35以上は高度肥満と定義されます1)(表)。
- ※1 BMI:
- BMIとはBody Mass Indexの略で、体重と身長の関係から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数のことです。指数の計算式は以下の通りです。
BMI=体重(kg)/身長(m)2
BMIは身長と体重から計算された値であるため、BMIが25以上であっても筋肉量か脂肪量のどちらが多いかまでは区別がつきません。BMIが標準であっても筋肉や骨よりも脂肪が多い隠れ肥満の場合もあります。体脂肪率では男性15~20%、女性20~25%が普通、男性25%以上、女性30%以上で肥満と判定されます2)(表)。
BMI(kg/m2) | 判定 | WHO基準 |
---|---|---|
<18.5 | 低体重 | Underweight |
18.5≦~<25 | 普通体重 | Normal range |
25≦~<30 | 肥満(1度) | Pre-obese |
30≦~<35 | 肥満(2度) | Obese classⅠ |
35≦~<40 | 肥満(3度) | Obese classⅡ |
40≦ | 肥満(4度) | Obese classⅢ |
身体のどこに脂肪がついているかによっても健康障害のリスクが変わってきます。下半身中心に脂肪がつく皮下脂肪型肥満よりも、腹囲に多く脂肪がつく内臓脂肪型肥満では、高血圧・糖尿病・脂質代謝異常などの生活習慣病を発症するリスクが高くなります2)。
BMI25以上で、肥満によって、もしくは肥満に関連して健康障害を合併する場合、または、健康障害を伴いやすいリスクが高い肥満(内臓脂肪型肥満)は、医学的に減量を必要とする病態で疾患として取り扱われ、肥満症と呼ばれます1)。
肥満の運動療法
肥満の予防・治療は食事と運動を合わせて行うことが重要です。食事によるエネルギー摂取を減らすことと運動によるエネルギー消費を増やすことを行います。極端な食事制限では、身体活動が思うように行えず、脂肪以外の筋肉量を減少させます。極端な食事制限を続けていると身体の保護作用が働き、安静時のエネルギー代謝率が悪くなってしまいます。運動を併用することにより、安静時のエネルギー代謝が促され、脂肪を燃焼しやすい身体をつくることができます3)。
肥満の運動療法は、有酸素運動とレジスタンス運動が適しています。有酸素運動は糖や遊離脂肪酸を燃焼し、持久性の向上、インスリン感受性※2の改善を望むことができます。レジスタンス運動では筋肉量が増大し、基礎代謝の維持を図ることができます3)。運動を行う機会を改めて持つことばかりではなく、日常生活の中で活発に活動する工夫も大切です。
- ※2 インスリン感受性:
- インスリン感受性とは、インスリンの分泌や働きは正常であるが、インスリンの作用が十分でない状態のこと。
肥満における運動療法の効果
食事療法と運動療法を併用して食事による摂取エネルギーよりも運動による消費エネルギーを増やすことにより体蛋白を減らさずに体脂肪を減少させ体重減少効果が得られます。肥満ではインスリン抵抗性がみられますが、運動により、インスリン抵抗性が改善されることで、血圧や血糖、血清脂質の改善がみられることも言われています3)。
肥満の運動療法の種類
有酸素運動は速歩、ジョギング、水泳、サイクリングなどの種類で、「ややきつい」と感じる運動強度の運動が良いとされています。運動時間・運動頻度は厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では30~60分の運動を週3日以上行う4)こととされています。
レジスタンス運動は、筋肉量を増大させて基礎代謝量を向上させること、運動を行うために必要な筋力をつけることを目的に行われ、大臀筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋、体幹筋などの大きな筋群を中心とした筋力トレーニングが適しています。
運動の前後には準備運動、整理運動でストレッチや軽い体操などを行い、徐々に運動量や運動強度をあげるようにします。運動だけではなく、日常生活での活動量を増やし、1日の歩数の目標を1万歩以上としてできるだけ歩くようにすることも大切です3)。
肥満の運動療法の注意点
肥満では、さまざまな疾患を合併することも多く、突然死につながることもあります。運動療法を開始するにあたってメディカルチェックを行い、睡眠時無呼吸症候群や虚血性心疾患、骨・関節障害、皮膚疾患などの有無をチェックし、必要に応じて専門医による精査や治療を受けましょう3)。
運動開始時や終了時には十分に関節周囲の筋肉のストレッチを行うこと、足に合ったシューズの使用や運動を行う環境などに注意して関節への負担をやわらげる工夫が必要です。初めは、水中歩行など関節への荷重の負担が少ない運動から開始することもよいでしょう3)。
参考文献
- 生活習慣病対策および健康維持・増進のための運動療法と運動処方 肥満・肥満症 山之内国男 155-159