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運動不足は死亡率に影響するか

公開日:2016年7月25日 18時00分
更新日:2023年8月 9日 14時29分

運動不足の影響

 運動不足であると体力や全身持久力が低下し、身体活動量が減少します。身体活動量の減少はさらに体力や全身持久力の低下、筋力や筋持久力の低下も招きます。

 筋力が低下すると立つ、歩くなどの移動能力が低下し、仕事や家事に励む、外出や趣味を楽しむなどの活動機会が減少して生活の質が低下します。家に閉じこもりがちとなると気持ち的にもふさぎ込みやすくなります。

 運動不足は、耐糖能異常、脂質異常、高血圧、肥満などの生活習慣病の発症リスクを増大させ、心筋梗塞や脳卒中などの命の危険のある疾患にもかかりやすくなり、死亡リスクをも増大させます。

メタボリックシンドロームが疑われる肥満男性の写真。運動不足であると体力や全身持久力が低下し、身体活動量が減少します。移動能力が低下し、外出などの活動機会が減り生活の質が低下することで肥満や脂質異常などの生活習慣病、癌(がん)などの病気の発症リスクが高くなる。

 平成25年の厚生労働副大臣の会見では、日本では運動不足による死亡者数は、喫煙、高血圧に次ぐ第3位でその数は年間約5万人であるということが発表されています(グラフ1)。

グラフ1:2007年の日本における危険因子に関連する非感染症疾病と外因による死亡数を示す棒グラフ。運動不足による死亡者数は第3位であることを表す
グラフ1:2007年の我が国における危険因子に関連する非感染症疾病と外因による死亡数1)

運動不足と死因

 厚生労働省、平成26年人口動態統計によると、生活習慣病での死因別死因割合では、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧性疾患で全体の半数以上の55%を占めています(グラフ2)。それぞれの死亡者数は悪性新生物で約37万人、心疾患で約20万人、脳血管疾患で約11万人と10万人を超えています。特に1位の悪性新生物は2位の心疾患の約1.9倍の死亡者数となっています2)

 運動、禁煙、節酒、減塩、適正体重の5つの健康習慣の中で実践している習慣の数が多いほど、がんの発症リスクが低くなることがわかっており、運動不足ががんの発症リスクやがんによる死亡率を高くするひとつの要因となっています2)

グラフ2:生活習慣病の死因別死亡割合を示す円グラフ。悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧性疾患で55%を占めている
グラフ2:生活習慣病の死因別死亡割合(平成26年)2)

 さらに、運動不足による関連死亡者数をみると、循環器疾患、悪性新生物、糖尿病の死亡者数が多いことがわかります(グラフ3)3)

グラフ3:リスク要因別の関連死亡者数を示す棒グラフ。運動不足と循環器疾患、悪性新生物、糖尿病は関連していることを示す
グラフ3:リスク要因別の関連死亡者数(2007年)3)

身体活動量と死亡率

 運動を含めた身体活動量が多いほど、がんだけではなく、全死亡リスク、心疾患や脳血管疾患での死亡リスクを低下することが報告されています。

 運動強度指数(MET)値に活動時間をかけた「METs×時間」を身体活動量として、活動量の多さによって4つにグループ分けした対象者の身体活動量と全死亡、がん、心疾患、脳血管疾患での死亡との関連を調査した研究があります。身体活動量が最大の群では、がん死亡リスクは、男性は0.8倍、女性は0.69倍低下し、心疾患死亡リスクは男性で0.72倍低下することが報告されています。男性の脳血管疾患死亡リスクの低下はみられませんでしたが、女性では心疾患と脳血管疾患の死亡リスクの低下傾向がみられたとされています(グラフ4)4)

グラフ4:1日の身体活動量と死亡の関連を示すグラフ。身体活動量が高まると疾病による死亡リスクが低下ことを示す
グラフ4:1日の身体活動量(METs)と死亡との関連4)

運動が全身にもたらす効果とは

 厚生労働省の健康づくりのための身体活動基準2013では、メタボリックシンドロームを含めた循環器疾患・糖尿病・がんといった生活習慣病の発症及びこれらを原因として死亡に至るリスクや、加齢に伴うロコモティブシンドローム(運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態)及び認知症などを発症して生活機能低下を起こすリスクを下げることができるとあります5)

 また、生活活動や運動を行うことで得られる効果は将来的な疾病予防だけではなく、日常生活においても気分転換やストレス解消につながり、メンタルヘルス不調の一次予防としても有効であることが言われています5)

 ストレッチや筋力トレーニングでは、腰痛や膝痛が改善する可能性が期待できること、中強度の運動によって風邪に罹患しにくくなること、健康的な体型を維持することで自己効力感が高まることも言われています5)

 運動は身体面だけでなく精神的、心理的、社会的効用などは幅広い効用が期待できます。

運動が全身にもたらす効果6)

  1. 動脈硬化性の病気、特に心筋梗塞の危険性を減少
  2. 体脂肪を減らし体重のコントロールに有効
  3. 脂質異常症(低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症)の予防・改善に有効
  4. 高血圧の予防・改善に有効
  5. 糖尿病やメタボリックシンドロームの予防・改善に有効
  6. 骨粗鬆症による骨折の危険性を減少
  7. 筋力を増し、色々な身体活動の予備力が向上
  8. 筋力とバランス力を増やし、転倒の危険性を減少
  9. 乳がんと結腸がんの危険性を減少
    • 男女とも、身体活動量が高い人ほど、何らかのがんになるリスクが低下します。がんの部位別では、男性では、結腸がん、肝がん、膵がん、女性では胃がんにおいて、身体活動量が高い人ほど、リスクが低下することがわかっています7)
  10. 認知症の予防・改善に有効
  11. 睡眠障害の改善
  12. ストレスの解消、うつ病の予防・改善に有効
  13. シェイプアップし、自己イメージが改善
  14. 家族や友人と身体活動の時間を共有
  15. 良い生活習慣が身につき、悪い生活習慣を止めるのに有効
  16. 老化の進行を防ぎ、QOL(生活の質)の改善に有効

参考文献

  1. 日本:国民皆保険達成から50年「なぜ日本国民は健康なのか」36p 図3 2007年の我が国における危険因子に関連する非感染症疾病と外因による死亡数 THE LANCET 日本特集号(2011年9月)
  2. 平成26年(2014)人口動態統計(確定数)の概況 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 平成26年度 厚生労働省白書 15p 図表2-2-1リスク要因別の関連死亡者数(2007年)厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 国立がん研究センターによる「多目的コホート研究」HPより(身体活動量と死亡との関連について)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 健康づくりのための身体活動基準2013 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  6. 運動基準・指針の改定のための検討会資料 疾病予防および健康に対する 身体活動・運動の効用と実効性に影響する要因 武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科 内藤義彦 2p 運動の効用 厚生労働省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス 科学的根拠に基づくがん予防 がんになるリスクを減らすために 9p

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