高齢者の身体的特徴
公開日:2016年7月25日 17時00分
更新日:2024年8月28日 15時43分
高齢者の身体的特徴とは
高齢者は加齢に伴い、身体の各器官を構成している細胞数の減少や細胞そのものの働きが低下することで生理的老化が進行します1)。生理的老化の進行によって臓器機能の低下や恒常性維持機能の低下、病気の併存などの身体的特徴がみられます。
臓器機能の低下
長年の使用によって、各臓器の機能低下が起こります(表1参照)。
予備力・回復力の低下
平常時の状態からストレスが加わったときに対応できる潜在能力(予備力)が低下し、少しのストレスをきっかけに、機能低下や病気を生じやすい状態になります。弱った状態から元の状態まで戻る回復力も低下するため、病気にかかりやすく治りにくくなります2,3)。この状態を、後で説明する「フレイル」と呼んでいます。
恒常性維持機能の低下
「外気の温度に合わせた体温調節能力の低下」、「発熱・下痢・嘔吐などで脱水症状が起こりやすくなる」、「血糖値のコントロール能力の低下」、「血圧が上がりやすくなる」など、恒常性維持機能が低下し、外部環境の変化に適応する能力が低下します3)。
複数の症状や病気を抱えやすい
老化によって病気が治っても障害が残ることや慢性化することもあり、病気や障害を複数抱えていることが多くなります3,4)。
ADL能力が低下しやすい
病気やケガで安静・臥床期間が長くなることによって、関節拘縮・筋力低下などの運動器機能の低下や褥瘡の発症、深部静脈血栓症、尿路感染などを起こし、ADL能力が低下します3,4)。
典型的な症状に当てはまらないことが多い
一般的な病気の症状や徴候には当てはまらない場合も多く、肺炎でも微熱程度のことや、心筋梗塞の痛みが胸部ではなく腹部に出ることなどがあります3,4)。
重篤化しやすい
老化による臓器の機能低下が起こっている状態のため、急に状態が変わりやすく、重篤化しやすくなります3,4)。
加齢に伴う身体機能の変化
加齢に伴い次のような身体機能の変化がみられます。(表1参照)
人体と各器官 | 変化の内容 |
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外観 |
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感覚器系 |
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神経系 |
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消化器系 |
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循環器系 |
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呼吸器系 |
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泌尿器系 |
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筋・骨格系 |
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内分泌系 |
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血液系・免疫系 |
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生殖器系 |
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- ※1 1秒量:
- 深く息を吸って一気に吐き出すときの最初の1秒で吐き出せる空気の量
加齢に伴う身体機能低下とフレイル
2020年の高齢社会白書で65歳以上の介護が必要になった主な原因をみると認知症、脳血管疾患に続いて高齢による衰弱(フレイル)(13.8%)が3番目に多くなっています。また、骨折・転倒(12.5%)や関節疾患(10.2%)もサルコペニアやフレイルと密接に関連している原因です5)(表2)。
原因 | 割合 |
---|---|
脳血管疾患(脳卒中) | 15.1% |
心疾患(心臓病) | 4.7% |
関節疾患 | 10.2% |
認知症 | 18.7% |
骨折・転倒 | 12.5% |
高齢による衰弱 | 13.8% |
その他・不明・不詳 | 24.9% |
加齢に伴って臓器の機能低下や予備力の低下、恒常性維持機能の低下が基盤にある高齢者は、身体活動量の低下や低栄養、サルコペニアなどの要因が加わることでフレイルとなります6)。
高齢者は多面的に機能低下がみられる状態であり、些細な出来事をきっかけにして健康障害や身体機能障害を生じます6)。それぞれの障害が悪循環を起こしてフレイルは進行し、要介護状態に至るため、プレフレイル(フレイルになる前)の状態で改善を図り、フレイルへの進行を予防することが大切です。
身体機能の低下の原因
健康な状態からフレイル、要介護状態へと進んでいくきっかけとなるのは「社会とのつながりの低下」です7)。
社会とのつながりがなくなり、生活が不活発になることで身体活動量の減少や食事の質の低下、うつ・気分の落ち込み・認知機能の低下など、多面的な機能低下がドミノ倒しのように次々と起こります(参照リンク1)。
参照リンク1 健康長寿ネット フレイルが重症化しないための生活習慣(社会活動に参加する)
活動量が低下し、十分な栄養を摂ることができないと体力の低下、筋肉量の減少・筋力低下などのサルコペニアや身体機能低下につながります。活動量の低下、身体機能の低下、サルコペニア、低栄養は相互に影響し合い、フレイルを進行させます(参照リンク2)。
参照リンク2 健康長寿ネット フレイルの予防(フレイルサイクルとは)
身体機能低下を防ぐには
身体機能の低下を防ぐには「生活の中で少しでも動く時間を増やすこと」食事からたんぱく質をしっかり摂ること」「社会参加を積極的に行うこと」です。
筋肉量減少や筋力低下を防ぎ、サルコペニアやフレイルを予防するためには、筋肉を鍛えるレジスタンス運動と、筋タンパク質の合成に必要なタンパク質をバランスのとれた食事の中でしっかりと摂取していくことが大切です。
身体活動・運動の基準値
加齢に伴う生活機能低下と生活習慣病のリスクを予防し、健康を維持するために、「健康づくりのための身体活動基準2013」8)では次のような身体活動・運動の基準が提示されています。
表3 65歳以上の身体活動の基準と全年齢層における身体活動・運動の考え方
- 65歳以上の身体活動(生活活動・運動)の基準
- 強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行う。具体的には、横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行う。
- 全年齢層における身体活動(生活活動・運動)の考え方
- 現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。
- 全年齢層における運動の考え方
- 運動習慣をもつようにする。具体的には、30分以上の運動を週2日以上行う。
具体的には、椅子に座ってテレビを見ることや横になって休む時間を減らし、家事、買い物、庭の手入れ、散歩、ウォーキングなどで動く時間を増やすことです。日常生活でよく動くことに加えて筋力トレーニングをプラスします。とくに生活機能の低下や転倒・骨折の予防に必要な、下半身と体幹の筋力やバランスを強化するプログラムを意識して行いましょう。
タンパク質をしっかり摂る食事
高齢者は食が細くなり、食事から必要な栄養素を十分に摂りにくくなります。また、タンパク質から筋肉をつくる効率が悪くなるため、十分にタンパク質を摂ることが必要です。フレイルを予防するには体重1kgあたり1.2~1.5gのタンパク質を摂ることが必要とされています7)。食事は、可能であれば、ひとりではなく誰かと一緒に食べることも大切です。
積極的な社会参加
身体を良く動かし運動習慣を持つこと、栄養に気を付けることとともにボランティアや地域活動、趣味活動・スポーツグループなどにも積極的に参加し、社会とのつながりを維持することを意識しましょう。
文献
- 東康祐, 渡辺道代:高齢者に対する支援と介護保険制度-高齢者福祉・介護福祉【社会福祉士シリーズ13】第4版,弘文堂, 2017年3月15日:23-24P
- 鈴木隆雄. 超高齢社会のリアル 健康長寿の本質を探る 初版,大修館書店,2019年8月10日,22P
- 飯島勝矢.在宅時代の落とし穴 今日からできるフレイル対策 初版,KADOKAWA,2020年8月20日