自立生活の指標:日常生活動作(ADL)とは
公開日:2016年7月25日 13時00分
更新日:2022年4月27日 09時53分
自立した生活とは
高齢化社会に突入している我が国では、高齢者が要介護状態となることの予防、介護状態の悪化の予防を図る取り組みとしての介護予防の重要性が強調されるようになっています。
介護予防を図るためには生活機能を高めることが必要とされており、身体や精神の機能である「心身機能」、日常生活動作(ADL)や家事、屋外歩行などの「活動」、生きがいや仕事などの「参加」の3つの要素にバランスよく働きかけることが重要であるとされています1)。
介護予防とは
介護予防とは、人が生きていくための生活機能を高めることによって自立した生活を送り、生活の質の向上を目指すものです。自立した生活を送るためには、心身の機能の向上を図るとともに、日常生活動作(ADL)の維持・向上を図り、活動性の向上や社会参加を促して、生きがいや役割を持ってその人らしく活き活きと生活していくことが重要なのです2)。
日常生活動作(ADL)とは
日常生活動作(ADL)とはActivities of Daily Livingのことで、ADLのAはアクティビティー(動作)、DLはデイリーリビング(日常生活)を指します3)。日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことです。
高齢者や障害者の方の身体能力や日常生活レベルを図るための重要な指標として用いられており、リハビリテーションの現場や介護保険制度ではひとつひとつのADL動作を「できる・できない」、「どのような、どのくらいの介助が必要か」、「できるADL・しているADL」などの項目で評価します。
ADLの種類4)
日常生活動作(ADL)には、基本的日常生活動作(basic ADL=BADL)と手段的日常生活動作(instrumental ADL=IADL)とがあります。
基本的日常生活動作(BADL)
基本的日常生活動作(BADL)とは、一般的に日常生活動作(ADL)のことを指し、日常生活における基本的な「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことを指します。
手段的日常生活動作(IADL)
手段的日常生活動作(IADL)は、基本的日常生活動作(BADL)の次の段階を指します。「掃除・料理・洗濯・買い物などの家事や交通機関の利用、電話対応などのコミュニケーション、スケジュール調整、服薬管理、金銭管理、趣味」などの複雑な日常生活動作のことを指します。
基本的日常生活動作(BADL)が食事や更衣そのものの動作を指すことに対して、手段的日常生活動作(IADL)では、買い物へ行って食事の準備・調理・配膳を行い、食べて片付けること、季節や場所にふさわしい衣服を選んで、身だしなみを整えて着ることまで含まれます。
ADLの評価方法5)
基本的日常生活動作(BADL)の評価
基本的日常生活動作(BADL)の評価にはBarthel Index(バーセルインデックス)、Katz Index(カッツインデックス)、DASC-21(ダスク21)があります。
Barthel Index(バーセルインデックス)
Barthel Indexは食事・移動・整容・トイレ・入浴・歩行・階段・着替え・排便・排尿の10項目で構成されており、項目によって不能から自立までの2~4段階に分けて評価します。点数が高いほど自立していることを表します(リンク1参照)。
リンク1: Barthel Index(基本的ADL) 日本老年医学会(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
Katz Index(カッツインデックス)
Katz Indexは入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域のADLに関して自立・介助の関係より、AからGまでの7段階の自立指標という総合判定を行います5)。
DASC-21(ダスク21)
DASC-21は地域包括ケアシステムにおける認知症の評価であり、21の質問から構成されており、その中に入浴、着替え、トイレ、身だしなみ、食事、移動の項目があります。できるから全介助までの4段階評価となっています(リンク2参照)。
リンク2:DASC-21 日本老年医学会(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
手段的日常生活動作(IADL)の評価
手段的日常生活動作(IADL)の評価には、Lawton(ロートン)の尺度、老研式活動能力指標、DASC-21があります。
Lawton(ロートン)の尺度
Lawtonの尺度は電話・買い物食事の準備・家事・洗濯・交通手段・服薬管理・財産管理の8項目から成り、3~5段階評価で点数が高いほど自立度が高くなります(リンク3参照)。
リンク3:Lawtonの尺度 日本老年医学会(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
老研式活動能力指標
老研式活動能力指標はバスや電車の利用、買い物、食事の用意、請求書の支払い、預金・貯金の出し入れ、書類記入、新聞を読む、本や雑誌を読む、健康についての関心、友人宅への訪問、相談に乗る、お見舞いに行く、若い人に話しかけるの13項目の質問から成り、はい・いいえで答えて点数が高いほど自立度が高くなります(リンク4参照)。
リンク4:老研式活動能力指標 日本老年医学会(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
DASC-21(ダスク21)
DASC-21は地域包括ケアシステムにおける認知症の評価であり、21の質問から構成されており、一日の計画や服を選ぶ、交通機関の使用、買い物、金銭管理、電話、食事の準備、服薬管理、問題解決などの項目が含まれています(リンク2参照)。
ADL低下による日常生活の影響
日常生活動作(ADL)が低下すると、活動性が低下して、社会参加の機会も少なくなります。生きがいや役割を見いだせなくなると家に閉じこもりがちとなり、身体的、精神的にも機能が低下していきます。心身の機能が低下すると日常生活動作(ADL)がさらに低下し、自立度も下がり、介護が必要となって、やがては寝たきりとなってしまいます(図1)。
手段的ADLを保つには
身体機能、精神機能の回復や維持を促すばかりではなく、現状の能力を最大限活かすことのできる手段の提供や生活環境の調整をリハビリテーション専門職の支援によって行い、生活している地域で生きがいや役割を見出せるような居場所や参加の機会をつくることなど、個人への取り組みだけではなく、個人をとりまく地域の環境をも同時につくっていくことが必要です。