脂質異常症を改善する運動療法
公開日:2016年7月25日 19時00分
更新日:2024年9月 5日 10時04分
脂質異常症の運動療法とは
脂質異常症は、高血圧や糖尿病、耐糖能異常、喫煙、加齢などと並んで、動脈硬化を促進する危険因子とされています。動脈硬化が進むと、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患、脳卒中、閉塞性動脈硬化症、大動脈瘤などの命に関わることもある疾患を発症しやすくなります1)。
脂質異常症は、偏った栄養バランスの食事や運動不足などの生活習慣から引き起こされていることが多く、脂質異常症を改善するには、食事療法と運動療法を基本とした生活習慣の改善を図ることが必要です。
運動不足により、体力や全身持久力が低いと身体活動量も減少し、動脈硬化が進みやすくなります。食事療法と運動療法とを合わせて継続することが大切です2)。
脂質異常症の運動療法の効果とは3)
脂質異常症の運動療法では以下の効果が得られます。
脂質異常症の運動療法の効果
- 体力、全身持久力の維持・改善を図り、身体活動量が多くなる
- 血中の中性脂肪(トリグリセライド)を減少し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やし、血中脂質を改善する
- 内臓脂肪が減少して肥満の改善・予防につながる
- 筋肉量が増大し、血糖の代謝が促されてインスリン感受性が高まる
- 動脈硬化性疾患やメタボリックシンドロームの予防・改善
- ストレスの解消
- 脳の活性化
- 骨密度の増大
- 生活の質の改善
脂質異常症の運動療法の指針3)
脂質異常症の改善には、中等度の強度※1の有酸素運動を毎日30分以上継続することがよいとされています。
- ※1 中等度の強度:
- 中等度の(運動)強度とは、楽に行える程度からややきついと感じる程度の、息が弾むくらいの運動のことをいいます。脈拍からの推定方法として、心拍数(脈拍/分)= 138 -(年齢/2)があります。
脂質異常症の運動強度、時間・頻度
- 運動強度:中等度の強度(最大酸素摂取量の50%)
- 時間・頻度:1日30分以上、できれば毎日、週180分以上3)
できるだけ毎日運動を行うことが理想的ですが、週3日以上で1週間の運動の合計が180分以上となるようにしましょう。時間がとれない場合は、1日10分でも多く、歩く、階段を上り下りするなどの運動を心がけましょう。内臓脂肪を減らす場合は、1日60分以上の運動が推奨されます4)。
脂質異常症の運動の種類4)
多くの酸素を使って、より多くの脂肪の燃焼を図ることのできる有酸素運動がよいとされます。初めて運動を行う場合は気軽に始められるウォーキングがおすすめです。
有酸素運動の例
速歩き、水中歩行、サイクリング、ラジオ体操、段差昇降(20cm程度の高さ)、スロージョギング(歩くぐらいの速さで走る)、水泳、社交ダンスなどの太ももやお尻の筋肉をダイナミックに動かす運動。
速歩きは、以下のことを意識して行いましょう。
速歩きのポイント
- 肩の力を抜いて胸を張り、背筋を伸ばす。
- 歩幅はできるだけ大きく(身長の45%)とり、踵から着地する。
- 視線は6~7m前方を見て顎を引く。
- 足を蹴り出すときは、お尻と膝を伸ばす。
- 1分間に100mの速さを目安とする。
運動を始める前のチェック
高齢者や心疾患、脳卒中の既往のある方、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの疾患を持っている方や、関節症の方や腰や膝などに痛みがある場合は、運動を始める前に主治医に運動を行ってもよいか、どのような運動をどのくらい行なえばよいかを確認しましょう。また、どのような状態になったら運動を中止するべきかを確かめておきましょう。
運動を始める前に、吐き気やめまい、頭痛、風邪症状、足のむくみ、身体のだるさなどがあり、体調が少しでもおかしいと感じる場合は、その日の運動は中止しましょう4)。
普段の体温や脈拍を測っておき、いつもと比べて体温や脈拍に変化があるときや天候の悪い日も避けるようにしましょう。運動を安全に行うことのできる時間帯や場所、服装を選択して行うようにしましょう。
自分の体力や運動能力と相談して、いきなりハードな運動を行うことは避け、無理なく続けることのできる運動を選んで継続することが大切です。
参考文献
- 一般社団法人日本動脈硬化学会 脂質異常症治療ガイド 2013年版改訂版 43-47p
- 一般社団法人日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版 78p