終末期高齢者の経口摂取の工夫
公開日:2016年7月25日 16時00分
更新日:2019年6月21日 13時21分
経口摂取をすることの意味とは
終末期である高齢者が、経口摂取をすることの意義としては、次のようなものがあります。
- 口から食事を摂ることにより、十分な栄養を摂取する
- 口腔機能や摂食嚥下機能を維持する
- 経口摂取をすることで、中枢神経を刺激し、覚醒度を上げる
また、解剖生理的な機能だけでなく、幼少期からの好きなものを食べて懐かしい、心地よい気持ちに浸ったり、食べることで生きている自分を支えるなど、心理的な効果も期待できます。食べることは、生きることと直結すると考えられるのです。
しかし、嚥下困難である場合では、経口摂取を行ったことで、生命予後を縮めてしまう可能性もあるため、終末期の本人や家族、担当医などの医療者の意見を十分に聞き、その方法などを検討することが必要となります。
終末期の経口摂取の工夫とは
「終末期」と一言で言っても、その病態や維持している機能は様々です。そのため、その人に合った経口摂取の工夫が必要となります。
嚥下機能が維持されている場合は「食べたいものを食べる」ための工夫が必要です。気軽に食べられるように一口サイズにカットして保存をしておいたり、いつでも「食べたいときに食べたいものを食べられる環境」を作ると良いでしょう。特に呼吸困難感を併発していたり、疲労感が強かったり、痛み が出現している場合は、食べるだけでそれらの症状が悪化してしまったり、精神的な負担から食べることを拒むことも考えられます。食べる側の負担が少ないように、食物の形態を工夫することも必要です。
また、終末期の高齢者の中には、抱えている疾患により、医師から食事内容が制限されている場合もあります。しかし、その制限されている種類の食事が好みであった場合、医師の許可をとり、少量であれば好みの食事を提供することも、精神面の安定という意味では、効果的であると考えられます。本人に食べたいものを聞き、食べたいものを食べたい人と一緒に食べることで、栄養摂取のみならず、心理的な効果を得ることもできます。
しかし、以上の工夫をするにあたっては、必ず、主治医へ相談してから実行するようにしましょう。また、誤嚥の危険を加味し、咳が出たらすぐに中止する、食後は口腔ケアを念入りに行うなど、食事前・食事中・食事後のケアも重要になります。
終末期の嚥下障害患者における経口摂取の工夫とは
高齢者の終末期患者では、嚥下障害を併発しているケースが非常に多くなります。多くの場合、経鼻経管栄養や胃瘻(いろう)造設、静脈栄養法など、医療的行為による栄養補給が選択されますが、わずかでも嚥下機能が残っていれば、栄養補給という目的ではなく、経口摂取をすることで心地よい思いに浸ったり、生きている自分を支えるといった、心理的効果を期待して経口摂取をすることもあります。
その際には嚥下の程度を考慮した食形態とすることが必要です。ヨーグルトやゼリー、プリンなど市販で形状を変えなくていいものでは、患者本人が見た目から味やそのものへの思い出を想起しやすく、懐かしさを感じることができます。また、普段家庭で食べていたスープやみそ汁にとろみをつけたり、本人の好きな食べ物をペースト状にすることも、食べる意欲を刺激することにつながります。
量をたくさん摂取することを考えるよりも、本人が「味わえる」ということを大切にしてあげると良いでしょう。この場合も、必ず主治医に相談してから実施し、医療者の見守り下で行います。誤嚥には十分注意し、強く継続的な咳が見られたり、顔色が悪い、呼吸困難感が出現しているなどの場合は、すぐに食事を中止する必要がありますので、十分に観察を行うようにしましょう。
嚥下障害が低下している場合は、舌に舌苔が付着してしまっており、味がわからないという場合もあります。そのため食後だけでなく食前にも念入りに口腔ケアを行ってから経口摂取をするという工夫をすると良いでしょう。