事前指示
公開日:2016年7月25日 12時00分
更新日:2019年6月21日 13時39分
事前指示書とは?
事前指示書とは、ある患者や健常な人が、将来自らが判断能力を失った際、自分に行われる医療行為に対する意向を、前もって意思表示するための文書です。米国では、患者自己決定権法といい、医療機関など医療ケアを提供する機関に対して、患者が望む医療に関する基本方針と実施方法を文書によって提示し、維持される支援を、1991年に法的に義務付けています。しかし、日本では倫理的な観点、死について話題にすることを避けるという文化的な観点から、まだ十分に認知されていないのが現状です。2005年の時点では、事前指示書の作成状況はわずか3.2%となっています。事前指示書は何回でも書き直すことができます。また、事前指示書の内容と家族の意見が異なる場合、基本的には事前指示書に記載されている本人の意思が最優先となります。
さらに、日本での事前指示書は、未だ法的な拘束力がないとされており、仮に医療者が事前指示書通りの医療を実施しなかったとしても、法的な罰則はありません。
事前指示書の目的とは
事前指示書はその定義の通り
- 自分自身が治療の選択について自分で判断できなくなった場合に備えて
- どのような治療を受けたいか、もしくは医療処置を受けたくないか
- 自分で判断ができなくなった場合は誰に今後の治療について自分の代わりに判断してもらいたいかを、事前に明示しておく
という目的の下に作成される文書です。最期まで自分らしく自分の望んだ治療を受けられることを目的としています。
事前指示書の内容とは
事前指示書の書式は、全国的に統一されているものではありません。しかし、事前指示書を作成する施設や個人によって、文書形式(フォーマット)に違いはあるものの、記載されている内容は似通っています。
必ず記載する項目としては、2つの機能である代理人指示と内容的指示の記載が必要です。
代理人指示とは、自分に判断能力が無くなった際に、自分の医療やケアについて代わりに判断をしてほしい人を明示しておく機能です。
内容的指示とは、リビングウィルともいわれ、個別的な医療やケアの内容について、その医療やケアを受けたいか受けたくないかなど、自分の意思をあらかじめ表明する項目となります。その内容は、
- 心臓マッサージなどの心肺蘇生
- 延命のための人工呼吸器の使用
- 抗生物質の強力な使用
- 胃ろう増設による栄養補給の可否
- 鼻チューブ(経鼻からカテーテルを挿入し経管栄養材を投与する)からの栄養補給の可否
- 点滴による水分補給
- その他の希望
となります。
また、基本的な希望として、痛みや鎮痛に対する希望や、最期を迎えたい場所について記載する欄がある場合もあります。
事前指示書の作成方法とは
事前指示書は、自分が作成したいと考える文書形式(フォーマット)を入手し、自己で作成します。現在、医療機関等のホームページでフォーマットを無料で提供しているところがありますし、役所で書類を提供してくれる場合もあります。事前指示書を入手したら、その書式に沿って自分の意思を記入していきます。基本の書式は決まっていますが、前述したように代理人指示と内容的指示が記載されていればよいため、代理人の人数を増やしたり、内容を自由に記入することは可能です。
しかし、事前指示書がなかなか普及しない理由の一つに、医療に対する十分な知識が浸透していないという現状もあります。基本的に、本人の意思を尊重するとはしているものの、医療者の観点から無理難題であると思われる要望については、採用されないことがあります。そのため、どんな処置ならば受けられるのか、可能であれば、事前指示書の記入に際して、医療職者やソーシャルワーカーなど医療従事者に相談をするという手段も有効です。
記入が終わったら、信用できるところに保管しておき、自分にもしものことがあった時に、家族や近親者の目に触れることができるようにしておきます。
何度も書き換えができますので、家の書棚などに置いておき、家族にその所在を伝えておくと良いでしょう。1人暮らしや高齢者のみ世帯の場合は、作成したにも拘わらず見つけ出してもらえない、忘れてしまうということがないよう、あらかじめ後見人やかかりつけ医に手渡しておき、自分が判断不可能となった時に使用してもらう、依頼しておくと良いでしょう。
関連リンク 高齢者のエンドオブライフ・ケア ー最後まで自分らしく生きるために
参考文献
- 亀井隆太:患者の事前指示書について ――民法との関わりを中心に――, 千葉大学法学論集 第30巻第1・2号(2015)
- 杉野美和ら:高齢者への事前指示書の普及に関する文献的考察 山陽学園大学 山陽論叢 第22巻 (2015)
- 1.アドバンス・ディレクティブとリビング・ウィル(総論)一般社団法人日本老年医学会 208頁