せん妄
公開日:2016年7月25日 08時00分
更新日:2019年8月14日 13時45分
せん妄とは、時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まる場合が多く、注意力や思考力が低下して様々な症状を引き起こします。通常は継続しても数日間ですが、まれに数ヵ月間続く場合もあり、的確な処置が行えないと昏睡や死に至ることもあります。1日の中でも症状の強弱があり、夕方に悪化する傾向がみられます。
せん妄の症状
せん妄の症状には、睡眠障害、幻覚・妄想、見当識障害、情動・気分の障害、神経症状があります。
睡眠-覚醒リズムの障害
不眠、生活のリズムの昼夜逆転、覚醒している時は半分眠っているような、寝ぼけた状態となり、睡眠中は落ち着きがなく良く動きます。
幻覚・妄想
実際にはいない虫・蛇などの小動物や人が見える幻視や恐ろしい幻覚、記憶や経験を本来の出来事とは違って解釈してしまう妄想などがみられます。
見当識・記憶障害
現在の時間や場所が急にわからなくなることや最近のことを思い出せなくなります。
情動・気分の障害
イライラ、錯乱、興奮、不安、眠気、活動性の低下、過活発、攻撃的、内向的など感情や人格の変化が起こります。
不随意運動などの神経症状
手の震えなどの神経症状はアルコールせん妄に多くみられます。
せん妄の原因
せん妄の原因には、各疾患、加齢、薬、入院・手術によるものがあります。
疾患によるもの
脳卒中、認知症、パーキンソン病、神経変性疾患、髄膜炎、脳炎、電解質異常、腎不全、癌、甲状腺機能異常、インフルエンザなど
加齢によるもの
- 高齢者では、若年者では影響のない疾患や薬剤でもせん妄が起こりやすくなります
- 脱水、尿路感染症、便秘、インフルエンザ、睡眠不足、ストレス、チアミン・ビタミンB12欠乏症、合わない眼鏡や補聴器の使用や社会とのつながりを絶たれることによる感覚遮断など
薬の副作用によるもの
- 違法薬物の使用や急性アルコール中毒、モルヒネ、鎮静薬、睡眠補助薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、コルチコステロイド薬、筋弛緩薬、パーキンソン病治療薬(レボドパ)など。
- 長期間服用していた薬剤を急に断った時にも症状が出ることがあります。
入院・手術によるもの
特に外からの情報が遮断され、夜間は機械音が響いて不眠となりやすい環境のICU(集中治療室)や、手術で使用する酸素や鎮静剤の影響、ストレスなど
せん妄の診断
問診・情報収集
せん妄状態にあると本人は会話の受け答えができないことが多いため、家族などの付き添い人が、いつから症状が起こったか、症状の進行・変化の内容、身体面・精神面の健康状態、薬の服薬状況などの問診を受けます。その他、過去の診療記録や警察や救急隊からの情報収集、現在に至るまでの行動が把握できる証拠物などの収集を行い、いつから変化が起こったのかを見つけます。
診察・検査
せん妄が起こっていれば注意力や判断力、見当識が低下するので、単語や短文の復唱、理解力、記憶、物品の呼称、文章を書く、図形を書き写す、空間認知、計算力などのテストを行います。
せん妄の原因となる脱水や感染症などの徴候がないかの診察、脳や脊髄、神経の疾患がないかCT、MRIなどの画像検査や脳脊髄液を調べる検査、尿検査、血液検査、心臓・肺の機能評価のための心電図検査、血中酸素濃度、レントゲン検査などが行われます。
高齢者のせん妄は認知症と間違われやすく、鑑別をする必要があります。せん妄は意識レベルの変化を伴い、一過性の症状ですが、認知症は意識障害がなく、慢性的な経過をたどります。他にもうつ病や他の精神疾患との鑑別を図るための診断をします。
せん妄の治療
せん妄が起きている原因に対しての処置・治療を行い、患者が落ちつき、安心できる環境を整えます。ほとんどの症例で入院治療を行います。
薬物療法
ブドウ糖(低血糖)、抗生剤(感染症)、水分と電解質(脱水)、ベンゾジアゼピン系薬剤(アルコール依存からの離脱症状)、抗精神病薬・鎮静薬(興奮状態の鎮静、睡眠導入)
環境調整
医療者や家族から話しかけ、時間や場所を伝えることで患者を安心させます。部屋は明るくして、部屋にあるものや人が把握しやすいようにし、患者が落ち着ける環境に整えます。時間、日にち、場所、家族関係などがわかりやすいように、時計やカレンダー、写真などを掲示し、必要であれば眼鏡や補聴器も手の届くところに準備しておきます。
せん妄の予防とケア
- 高齢者の場合は、脱水や便秘、尿路感染症や睡眠不足が原因となることもあります。昼間活動をして、夜に眠る生活リズムを崩さないようにし、水分補給やトイレを促して体調を整えましょう。
- 環境の変化によるストレスも原因となることがあるので、住み慣れた環境を大きく変えないように注意しましょう。
- 興奮状態にある場合や幻覚がある場合は、周りの人や患者自身の怪我に気を付け、手にして危ないものは置かないようにしましょう。点滴やチューブ、カテーテルなどを抜いてしまう恐れもあるので、家族や代理の人が付き添うようにします。あらかじめ、抑制帯で対応する場合もあります。
- 高齢者では脱水、転倒、褥瘡(じょくそう)、失禁、低栄養などを起こしやすいので医師、看護師、理学療法士、作業療法士などのチームで対応し、二次的な障害を予防します。