ADL低下(日常生活動作)
公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2019年6月19日 17時04分
高齢者におけるADL低下(日常生活動作の低下)とは
ADLとは、移動・排泄・食事・更衣・洗面・入浴などの日常生活動作(Activities of Daily Living)のことを言い、ADLが低下する背景には身体機能と認知機能の低下と精神面・社会環境の影響があります。ADLと身体・認知機能、精神面、社会環境は相互に作用し合っており、一つでも機能が低下するとADLの低下へとつながります(図1)。
体力、筋力、筋肉量、骨密度、内臓機能などの身体機能が低下すると、立位・歩行の障害、バランス能力の低下、巧緻性・協調性の低下、易疲労性、食欲低下などが起こり、具体的には、動作や歩行時のふらつきや転倒しやすくなる、箸の使用やボタンかけが困難となるなどの症状がみられます。
認知機能が低下すると、物忘れや記憶障害、見当識障害※1、遂行機能障害※2、判断力・コミュニケーション能力の低下が起こり、具体的には、人や物の名前が思い出せない、料理の手順がわからない、季節や目的にあった洋服を選べない、買い物でお金の計算ができない、道に迷うなどがみられるようになります。
身体機能や認知機能が低下すると、活動性が低下して精神的にも塞ぎこみがちとなります。運動を行うことや脳を使って考えること、コミュニケーションの機会が失わると、身体や脳の機能は低下して、「寝たきり」の状態へと進行しやすくなります。
- ※1 見当識障害:
- 見当識障害とは、現在自分がいる場所や時間、誰と何をしているかが理解できないこと
- ※2 遂行機能障害:
- 遂行機能障害とは、物事を順序立てて行うことが難しいこと
ADL低下の原因
老化や、脳血管障害、糖尿病などの生活習慣病、心臓・血管疾患、パーキンソン病などの神経疾患、関節疾患、認知症、精神疾患などの各疾患、薬の副作用などによって起こります。歩行障害やもの忘れなどの老化に伴うADL低下から、廃用症候群や認知症などの疾患へとつながる場合もあり、ADLの低下予防のための対策を早期から行うことが望まれます。
診断
基本的ADLと手段的ADL(IADL)
ADLには基本的ADLと手段的ADL(IADL)とがあります。
基本的ADL
基本的ADLとは、日常生活上必要な動作のことです。具体的には起居動作、移乗動作、更衣、食事、排尿、排便、トイレ動作、整容、入浴、移動、階段昇降などです。
手段的ADL(IADL)
手段的ADL(IADL: instrumental activities of dairy living scale)とは、基本的ADLよりも高次の日常生活動作のことです。具体的には食事の準備、買い物、掃除、洗濯などの家事、金銭管理、交通機関の利用、服薬管理、電話の使用、書類を書く、趣味や余暇活動などです。
基本的ADL、手段的ADL(IADL)は評価指標を用いて、各項目の動作がどのくらい自立して行えているかという自立度を評価します。自立度が低いほど介助量が必要な状態であると考えられます。
基本的ADLの評価指標
- Barthel Indexバーセルインデックス:図2を参照
- FIM:Functional Independence Measure(図3)
基本的な10項目の日常生活動作のチェックで0~100点まで点数化し、100に近いほど自立度が高く、0に近いほど介助が必要な状態となります。
日常生活動作18項目からなり、自立度は7段階でチェックします。Barthel Indexに比べて細かい変化を捉えやすいという特徴があります。
手段的ADLの評価指標
- Lawtonらによって提唱された尺度の手段的日常生活活動(IADL)尺度(図4)
- 手段的自立、知的能動性、社会的役割の評価が行なえる指標の老研式活動能力指標(図5)
できるADLとしているADL
評価の場面では環境が整っているためにできているADLも、実際の日常生活の場面ではしていないことも多く、高齢者のADLの診断には「できるADL」と「しているADL」の双方を評価することが大切です。
治療
リハビリテーション
- 理学療法:体力向上、筋力増強訓練、関節可動域訓練、立位・歩行訓練、装具の作成、杖や歩行器などの導入・調整など
- 作業療法:日常生活動作訓練、上肢機能訓練、認知機能の改善、自助具の作成など
- 言語療法:コミュニケーション訓練、嚥下機能訓練、高次脳機能訓練など
原因疾患・合併症の治療
ADLの低下が疾患から起こっている場合や合併症がある場合は、原因疾患や合併症の薬物療法などの治療が行われます。
環境調整
福祉用具の導入や家屋改修、社会的資源(介護保険のサービスなど)の導入が行われます。
ADL低下のケア・予防
身体機能、認知機能の低下予防には、運動と栄養、そして家事や趣味活動を含めた日常生活の遂行そのものが予防となります。家から外へ出て、他人とのコミュニケーションの機会や社会的な役割を担うことで、より生活の幅は広がり、予防としても大きな意味を持ちます。活動性を維持する介入がADLの低下予防へとつながるのです。