腰痛を改善する「これだけ体操」とは
公開日:2016年7月25日 12時19分
更新日:2024年2月14日 13時18分
腰痛とは
腰痛とは、腰からお尻にかけての痛みや張りといった不快に感じる症状のことです。がんの転移や多発性骨髄腫という病気、骨粗鬆症に伴う骨折等が原因のこともあり、頑固な痛みの場合は医療機関を受診すべきです。
一方、多くの腰痛は、不良姿勢に関連する"腰の不具合"に伴い、心配する必要がなく、さらには自分でコントロールすることが可能です。
重篤な病気がないにもかかわらず、腰痛がなかなか良くならない理由として、腰痛を気にしすぎたり、不安感からコルセットを常時着けていたり、といった腰や体を動かすことの恐怖感から回避しがちになることが挙げられます。
ここでは、腰を動かすことを怖がっている人でも取り組みやすい、いつでもどこでもできる腰痛体操の「これだけ体操®」を紹介します。特に、最初に紹介する腰をそらす腰痛体操は、介護職や看護師の方々の腰痛予防に大変役立つことが証明されています。この腰痛体操を正しいフォームで行えば、猫背姿勢の改善、ひいては転倒予防にもつながりますので、是非、毎日の生活に取り入れてみてください。
代表的な腰痛のメカニズム
現代の生活では、パソコンやスマホ作業、家事などで"猫背・前かがみ"の姿勢や動作が多くみられます。猫背や前かがみの姿勢は、腰が丸まった姿勢、つまり腰椎は後方へ弯曲し、骨盤が後側へ傾いた状態になりやすくなります。腰の骨と骨の間(椎間)にはクッションの役割を担う椎間板があり、前かがみの不良姿勢により、椎間板の中央にある髄核という組織が後ろへずれる方向に負荷がかかり、さらにはある衝撃が加わった拍子に髄核を囲む線維輪が傷つく急性腰痛症(ぎっくり腰)や、髄核が線維輪を通過して後方へ飛び出してしまう椎間板ヘルニアを引き起こしてしまいます。また、猫背が常習化すると、背中の筋肉が常に緊張して血流不足になります。
腰痛改善のこれだけ体操®とは
「これだけ体操®」とは、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座の松平浩特任教授が考案した、腰痛の予防と改善に役立つ腰痛体操です。松平先生は、前かがみ姿勢により椎間板への負担が強まった状態、言い換えれば、髄核が中央からずれた状態を"「腰痛借金」がある状態"とし、腰痛借金を積み重ねて重度の腰痛になる前に、髄核を元の良い位置に戻す、すなわち「腰痛借金」をその場で解消するための方法として「これだけ体操®」を考案されました。
猫背や前かがみによる「腰痛借金」を無くすためには、「これだけ体操®」の3種類のうち、腰を反らせる動作の体操が効果的です。
猫背や前かがみの姿勢が多い人におすすめの「これだけ体操®」
猫背や前かがみの姿勢が多い人におすすめの「これだけ体操®」は、パソコン作業や家事、育児など前かがみの姿勢が続いた後や、重い荷物を持った後に行うことが推奨されます。
図1のとおり、足をやや広めに開いて立ち、両手を腰の下の方(骨盤のすぐ上辺り)に当てます。両手を支点にして、息を吐きながら骨盤を前へ押し出します。上体が後ろに倒れますが、腰を反らせるのではなく手を当てた骨盤を前に出す意識を中心に行います。このとき、両手はできるだけ近くに揃えるようにします。そうすることで肩甲骨を寄せることができ、胸が開き姿勢の改善にもつながります。膝は曲げず顎が上がらないよう注意してください。
腰を反らせた状態を、ゆっくりと息を吐き続けながら3秒間保ち、1~2回繰り返します。「痛気持ちいい」程度の感覚であれば良いですが、殿部から太ももにかけてしびれたり強い痛みを感じたりする場合は中止してください。
今回は、現代の生活に多い猫背・前屈みの姿勢による腰痛対策の基本である体操について解説しましたが、他にも長時間立ったり反り腰が続いたりした場合に効果的なこれだけ体操®、日ごろ脚を組んだり片方だけでカバンを持つ癖があり、腰の左右どちらかに違和感や痛みが出やすい人に意外と役立つこれだけ体操®があります(図2、3)。反らす基本のこれだけ体操®に加え、自分の生活スタイルや仕事、姿勢などによって合いそうな別メニューも時々でよいので取り入れてみてはいかがでしょうか。
これだけ体操®は、動きや姿勢のくせに合わせて行える簡単な体操です。意気込んで運動の時間をつくって行う必要がなく、日常生活の中で思い出したとき、手軽に行うことができます。腰痛の予防と改善に効果的な体操で、丁寧に行うことで、凝り固まった背筋群の血流の改善、さらには姿勢改善にもつながることが期待できます。また、これだけ体操®を行う際に、「この辺りの背中の筋肉が張っている」「太ももの付け根辺りが伸びている」などと心の中で実況中継しながら行うと、より効果的にストレッチをすることができます(意識性の法則)。
腰痛が慢性化している方には、腰の前屈(かがめる)や後屈(反らせる)の動きに不安や恐怖感があったり、動かすことを制限していることが多々あります。その場合は、専門家の監視下でゆっくりと正しく丁寧に10回程度行うことで、前屈・後屈の可動範囲が拡がり、「動かすことができた」と恐怖感が解消し自己効力感(腰が多少痛くても体を動かすことへの自信)を高めることにも役立ちます。
これだけ体操®を習慣的に取り組めば、「腰痛借金」を増やさずに済み、腰痛の予防・改善に役立つこと請け合いですので、是非、日常生活に取り入れてみてください。
参考文献
- 東京大学22世紀医療センター運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座「これだけ体操®」HP