健康長寿とAI(人工知能技術)
公開日:2019年8月 9日 09時15分
更新日:2019年8月 5日 11時04分
健康長寿とAI
近年、テレビや新聞などのメディアにたびたび登場する「AI(人工知能技術)」。AIは近い将来、私たちの生活と深い関係がつくられるであろう、新しい技術です。すでに日本や世界では、AIを取り入れた様々な取り組みやサービスが始まっています。
AIとは何か1)
まずは、AIについて基本的なことを見ていきましょう。
AIとは「Artificial Intelligence」を略した言葉です。AIは日本語に訳すと文字通り「人工的な知能」という意味があります。知的な機械、特に知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術のことを言います。
AI開発に関する歴史2)
AIの開発はイギリスの数学者Alan Turingが先駆者と言われています。その後、コンピュータープログラム技術やロボット技術が進化し、1950年に「ロボット3原則」というものが生まれました。ロボット3原則とは次の通りです。
- 人間を傷つけてはならない、傷つくのを見過ごしてはならない
- 1つ目の原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない
- 1つ目と2つ目の原則に反しない限り、自分の身を守らなくてはならない
ロボット3原則が生まれてから5年後、日本ではAIを搭載したロボットが主人公となった漫画、手塚治虫の「鉄腕アトム」が出版されました。
1960年代以降、AIやコンピューター技術はさらに進化を遂げ、1979年には、最新AIを搭載したコンピュータープログラム「DeepBlue」が、当時のチェス世界チャンピオンに勝利しました。1980年代になると日本でもAIの研究がさかんに行われるようになり、現在では世界的なIT企業によるAIの研究開発が加速しており、日常生活においてパソコンやスマートフォン、スマートスピーカーなどの情報機器にAIが活用されるほどになりました。AIは人間の思考や処理能力を超えるところまで進化してきています。
AIは何ができるのか2)
現在行われているAIに関する研究は、その多くが「人間が知能を使って行う処理や作業を機械に代行させよう」とする研究だといわれています。具体的な研究はさまざまですが、例えば次のようなものが挙げられます。
- 音声認識:マイクに向かって話した声を元に、何を言っているのか、誰が言っているのかなどを判断する
- 画像認識:カメラで撮影した画像を認識し、その内容を理解する「画像理解」と、その画像をより良い画像に加工する「画像処理」がある
- 情報検索:膨大な量の情報のデータベースの中から、目指す情報をごく短時間で探し出す。
- ゲーム:前述の「チェス」と同様、人間とのゲーム対戦をする
ほかにも、AIに関する研究の分野はたくさんありますが、私たちの生活に比較的近しい研究が、すでにたくさん行われています。
例えば、音声認識については、スマートフォンやスマートスピーカー、カーナビゲーションシステムに目的地を告げると、その目的地までの道のりを探しだすという仕組みがあります。「誰の声か」まで認識し、その人の趣味嗜好まで勘案できるようになれば、電車移動が好きな人には電車でのルートを、車での移動を基本とする人には車でのルートを提示できるようになるかもしれません。
医療・健康分野でのAI3)
実用化されるのはまだ少し先の未来ですが、AI技術の応用は、すでに医療・健康分野でも研究が始まっています。そのうちのいくつかをご紹介します。
医用画像診断支援
画像検査で得られた画像データから、「周りとは少し違う状態の組織」を見つけ出し、医師の診断を支援しようというシステムが研究されています。医師の負担軽減、診断制度の向上などが期待されています。
新薬の開発
新薬を開発するとき、どの成分がどういった効果が期待できるのかなど、その過程では膨大なデータを扱うことになります。必要なデータを膨大なデータの中から探し出すというAIの仕組みが、人によって行われていた処理を支援し、新薬開発の過程を大きく短縮することが期待されています。
遺伝性の病気の原因を究明
遺伝性の病気の原因は、遺伝子のどこに問題があるのかを探し出すことが必要です。従来の人による探索では、遺伝子上に複数の要因があっても単一のものしか見つけられず、複合的な要因を解析するのが難しかったといわれています。AIの高速な処理能力や、複雑な計算を瞬時に行う能力が、こうした分野で期待されています。
健康長寿とAI
健康長寿に向けた考え方として、予防医学があります。病気になってから、動けなくなってからどうするかを考えるのではなく、病気になる原因、加齢により動けなく理由を知り、そうならないように生活を改善するなど「予防」することで、健康長寿を目指そうというものです。2012年に厚生労働省が開始した「スマートライフプロジェクト」はこうした考え方の下、生活習慣の改善、適切な食生活、禁煙を3つの柱としています4)。
また、日本は現在高齢化が進行し、医療費・介護費などの社会保障費が増大しており日本の財政状況が深刻化しています。そこで、実際に支払われた医療費や介護費のデータ、特定健康診査の結果などから、生活習慣病や認知症をAI技術を駆使して予測するという大学と企業の研究が始まっています5)6)。
こうした研究が実用化されるようになれば、私たちの生活そのものとAIには、深い関係ができるでしょう。例えば、近い将来AIが次のように私たちの健康を支援してくれるようになるかもしれません。
- 毎日の食事内容を画像で残すと、カロリーや栄養バランスをAIが考え、次の食事のメニューを提案する
- さまざまな生体センサーから得たデータを元に、AIが運動することを提案する
- AIが自分でも気づかない体調不良に気付いて受診を勧めてくれる
センサー技術が今よりもっと進化すれば、採血せずに血糖値や血中コレステロール値などを測定し、適切な医療機関をAIが探してくれる日がくるかもしれません。私たちが適切なセンサーを身に付けて生活することで、AIが毎日の生活の中でちょっとした変化に気付き、健康を維持できるように助けてくれるということです。
このようなAIの働きは、予防医学の考え方に則ったものであり、病気の早期発見・早期治療、ひいては健康長寿につながります。AIとともに健康長寿を目指す世界は、すぐそこまで来ているのではないでしょうか。