PHR(パーソナルヘルスレコード)について
公開日:2019年8月 9日 09時10分
更新日:2019年8月 5日 11時05分
個人の健康や医療にかかわる情報の取り扱いについて
わたしたちが心身の不調で医療機関にかかった場合、その時の診療の記録や検査結果などは、診療を受けた医療機関だけにカルテ(診療記録)として保存・保管されます。処方されたお薬の情報や別の医療機関を利用した場合も、それぞれの場所に保存・保管されています。
ここ数年、個人の健康や医療、服薬に関わる、バラバラに保存・保管される情報を、1か所に集約しようとする取り組みが始まっています。
ICTを活用した取り組み1)
日本では医療や健康の分野において、医療データの取り扱いについて積極的にICTを活用していこうと、大きく3つのことに取り組んでいます。
地域医療連携ネットワーク(EHR)の高度化に向けた取り組み
1つめは、地域医療連携ネットワーク(EHR)の高度化、標準化を進め、低コスト化を図ること、相互接続を推進することです。EHRとはElectronic Health Recordの略で、地域の病院や診療所などをネットワークでつないで、患者情報等を共有し活用する基盤のことをいいます。
PHR(パーソナルヘルスレコード)とAIの利活用
2つめは、医療データの利活用です。病院や薬局ごとに保存・保管している個人の医療データであるパーソナルヘルスレコード(PHR:Personal Health Record)を、自らが管理し、具体的なサービスモデルや情報連携技術モデルを構築していこうとしています。いずれはAIを活用することも視野にいれられています。PHRの利活用が、散在している診療の記録などを1か所に集約しようという動きのことです。
高精細映像技術の活用
3つめは、高精細映像技術(8K技術など)を用いた、8K内視鏡の開発や診断支援システムの構築や遠隔医療の実現を推進しています。診断支援にもAIの活用が考えられています。
PHRの活用とは?1)2)
先述のとおり、いま国として取り組んでいる3つの大きな柱のうちのひとつが、PHRを中心とした医療データの活用です。
PHRとは、Personal Health Recordの頭文字をとった略語で、個人の健康・医療・介護に関する情報のことをさしています。個人の健康・医療・介護に関する情報を一人ひとりが自分自身で生涯にわたって時系列的に管理・活用することによって、自己の健康状態に合った優良なサービスの提供を受けることができることを目指すとしています。
私たちはこれまで、たくさんの健康や医療に関する情報を、種々の手帳や書類の紙媒体に記録を残してきました。それらの記録はその時のライフステージ(人生の節目)によって、記録が残る媒体や場所も違っています。たとえば、出産に際しては「母子健康手帳」、学校教育を受ける時期には「学校健康診断の結果」、就職に際しては「定期健康診断の結果」などです。また、体調によっては「疾病管理手帳」や「お薬手帳」などによって、自身の健康管理をすることになりますし、高齢層になれば「介護予防手帳」や「かかりつけ連携手帳」に記録する、記録されることもあります。
こうした、もともとある「手帳文化」をデジタル化し、データとして一元的にまとめることで自分で管理・活用していこうということなのです。
PHRの活用にはどんなメリットがあるのか1)
総務省が平成28年(2016年)度から研究を進めているPHRモデルによれば、まずは個々が自分のライフステージに応じたアプリケーションを取得します。アプリケーションは関係団体や組織から配布される形です。
自治体からは「母子手帳アプリ」、「学校健診アプリ」、「介護防止アプリ」が、加入する健康保険の保険者からは「健康管理アプリ」や「生活習慣病手帳アプリ」、医療機関や介護施設などを経由したEHRからは「かかりつけ連携手帳アプリ」、というように配布されます。
これらのアプリを通じて、本人同意のもと、個人の医療情報や健康情報が時系列で収集されます。収集先は「PHR事業者」と呼ばれる専門業者です。
こうしたデータはさまざまなことに活用されると予想されています。
たとえば、災害や救急時の処置では、幼少期の既往歴や現在のアレルギー情報などを参照した上で処置がおこなわれ、転出入の際にはこれまでの診療情報を把握した上で診察されることになります。民間の保険会社では、個人の健康状態に応じたきめ細かい保険料や新しいサービスの提供にもつながります。
PHRには脈拍、血圧、体温などの身体から取得できる情報であるバイタルデータも含まれます。バイタルデータや健診・検診結果を統合し、よりその人の健康状態にあわせた良質な健康増進プログラムや予防プログラムを提供することも可能になります。
また、蓄積されていったデータは臨床研究機関などに分析・活用され、今後の医療の発展に役立てられます。(図1)
さらに、平成29年(2017年)度からの3年間では、保険者である自治体に蓄積されている健診・レセプトデータ(保険診療データ)、事例データ、エビデンスデータ(臨床結果などによる科学的根拠)等を収集し、AIによる解析を行い、地域や個人が抱える課題に応じた適切な保健指導施策の提案実施も行われています。
既に事業として進められているPHRの活用ですが、課題も残されています。デジタル機器の利用を難しいと感じる人・世代への対応や、仮にそうした機器の取り扱いができる場合でも、PHRは非常にデリケートな情報である点などです。インターネットを介する情報のやり取りが前提になるため、個人情報保護やセキュリティの確保が必須であると考えられます。