肝がん末期
公開日:2016年7月25日 16時00分
更新日:2019年6月20日 10時32分
肝がん末期の症状
肝臓には自己修復・自己再生機能があるため、がんなどの異常が生じた場合でも、ある程度進行するまでは自覚症状がみられないことがほとんどです。しかし、肝がんが末期の状態にまで進行すると、肝臓の自己修復機能も限界を迎え、様々な症状が出現するようになります。
肝がん末期では、肝臓の機能が障害されることで著しい体重減少や黄疸、腹水、全身のかゆみ、むくみ、疲労感のほか、腹痛や下痢などの多彩な症状が見られるようになります。さらに、肝臓特有の有害物質を解毒する作用が低下することで、脳の神経が有害物質によって障害される「肝性脳症」と呼ばれる症状が出現することもあります。肝性脳症をひきおこすと認知症のような状態になったり、こん睡状態に陥ってそのまま命を落としたりすることもあります。
肝がん末期になると、リンパ節や骨など、他の臓器へのがんの転移も起こります。転移したがんは、それぞれの臓器に応じた症状をもたらします。例えば、骨転移した場合は、骨の激しい痛みや、病的骨折などを起こしやすくなります。
肝がん末期における診断
肝がんの進行の程度やがんの広がりを確認するためには、腹部超音波検査や腹部血管造影、CT、MRIなどの画像診断と、血液検査の組み合わせが有用です。
腹部血管造影では、血管内へがんの侵襲があるかどうかを確認や、がんの組織に栄養を与えている血管の同定を行うことが可能です。
CTやMRIでは他臓器へのがんの広がりや、腹水の有無などを調べることができます。CTやMRIでは造影剤を併せて用いることで、より精度の高い診断が可能となります。
血液検査においては、腫瘍マーカーの量によってがんの進行度や治療効果を確認したり、ALT(GPT)、AST(GOT)、γGTPなどの値から肝臓の機能を確認したりできます。
肝がん末期の治療
肝がんの代表的な治療には、がんの切除や肝臓移植などの外科的な治療、皮膚の上から針を刺して肝臓のがん組織を直接治療する局所療法、肝臓へ流れ込む血流を遮断することでがんを壊死させる肝動脈塞栓術、抗がん剤などを用いる化学療法などがあります。
肝がん末期の状態で全身にがんの転移が見られる場合は、通常、がんの切除は行ないません。肝臓は人体にとって重要な臓器であるため、切除できる範囲は限られているからです。肝がんの場合、残された肝臓の機能を損なわないために、あえて部分切除等を行わず、全身化学療法や放射線療法によって転移したがんの進行や、がんによる症状を抑える緩和的な治療が行われることがほとんどです。しかし、肝臓は放射線に弱い臓器でもあり、肝がんには化学療法も効きづらいとされていますので、抗がん治療そのものを行わないケースもあります。
肝がん末期の予後・ケア
肝がんは他のがんに比べて治療の難しいがんです。そのため、肝がんの末期の場合、既に行える治療がないという場合もあるのです。
肝がんの末期の状態ともいえるステージⅣでの5年生存率は10%を切っており、その予後は不良であると言わざるをえません。肝がん末期には、身体に現れる様々な症状や辛い痛みだけでなく、こうした厳しい現実とも向き合わなければならなくなります。
この時期にご本人やご家族の身体的・精神的苦痛を癒し、より良い療養生活を送る助けとなるのが「緩和ケア」です。緩和ケアでは辛い痛みや多様な症状に対する医療的ケアに加え、死への恐怖、社会的な不安など精神的・社会的な苦痛に対しても、トータルでケアを受けることができます。
緩和ケアの専門家たちの手を上手に借りて、がん末期の様々な苦痛を取り除くことは、QOL(Quality Of Life:クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)を高め、残された時間を自分らしく過ごすことにつながるでしょう。