健康長寿ネット

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第8回 8050問題の現場

公開日:2019年7月12日 09時00分
更新日:2019年7月12日 11時02分

宮子あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業


 高齢の両親(80代)が中年になった無職の子ども(50代)を扶養し続け、支えきれなくなって破綻する「8050問題」。いわゆる引きこもりの男性が起こした通り魔事件を機に、この問題がクローズアップされている。

 私は、引きこもりと犯罪を安易に結びつけるのは事実と異なる上に、当事者の生きづらさを増すと懸念している。その一方で、中高年の引きこもりが60万人を超えると言われている今、何らかの対策が必要と思わざるを得ない。

 実際、私が勤務する精神科病院では、「8050問題」はすでに表面化しているように思う。若い頃精神疾患を発症した子どもを、親が家の中で抱え込み、老いた親がギブアップ。やむなく病院に繋がるケースが見られているからだ。

 もちろんこれは、「8050問題」の一部に過ぎない。個々の事情は複雑で、どのくらいの割合で精神疾患が引き金になっているのかさえ、判然としないのである。

 逆に言えば、私たちが関わるのは、精神疾患が絡んだケースのみ。考えようによっては、原因がはっきりしているだけ、打つ手があるはずなのだが.........。実際は、そうそううまく事は運ばない。

 通常、新たな発症の患者さんの多くは、3ヶ月以内の短期で退院していく。薬物療法の改善が大きな理由で、長期入院は過去のものとなりつつある。

 しかし、老いた親がギブアップし、初めて治療に繋がった中年の患者さんの中には、発症が10代、20代の人もいる。こうした人では、すでに発症から40年以上。すでに慢性化しているため、治療効果が上がりにくい傾向にある。

 さらに、これまで支援をしていた親が高齢になっているため、退院先や退院後の支援体制も、検討しなければならない。

 精神科病院は、長期入院が社会的批判に晒され、退院促進に邁進してきた。これは奏功し、長期入院の患者さんは激減。新たな発症も早く帰るので、全体として、入院期間は短くなってきた。

 しかし、今後「8050問題」のなりゆきによっては、長期入院の患者さんがでないとも限らない。仮に精神疾患が絡んでいる場合、早期発見早期治療によって、効果が期待できる。この事実を多くの人に知ってもらいたい。

 そして、気がかりなことがあれば家庭内で抱え込まず、周囲に相談してほしいと思う。

写真:訪問看護のルートにいる仲良くなった猫の写真。
今年の春。訪問看護のルートには、仲良くなった猫が何匹かいます。ほっとするひととき。

著者

写真:著者宮子あずさ氏

宮子 あずさ(みやこ あずさ)

看護師・著述業

1963年生まれ。1983年、明治大学文学部中退。1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業。1987~2009年、東京厚生年金病院勤務(内科、精神科、緩和ケア)。看護師長歴7年。

在職中から大学通信教育で学び、短期大学1校、大学2校、大学院1校を卒業。経営情報学士(産能大学)、造形学士(武蔵野美術大学)、教育学修士(明星大学)を取得。2013年、東京女子医科大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。

精神科病院で働きつつ、文筆活動、講演のほか、大学・大学院での学習支援を行う。

著書

『宮子式シンプル思考─主任看護師の役割・判断・行動1,600人の悩み解決の指針』(日総研)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。ホームページ:ほんわか博士生活(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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