健康長寿ネット

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オーラルフレイルと栄養

公開日:2023年1月13日 09時00分
更新日:2024年8月13日 16時22分

尾関 麻衣子(おぜき まいこ)

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック管理栄養士

はじめに

 オーラルフレイルを放置すると、栄養不良、特に低栄養状態に陥る可能性がある。そして、低栄養は余命、また健康余命に対する独立したリスクである1)。したがって、高齢期の健康のためには、オーラルフレイル予防のための食事の摂り方を実践するとともに、オーラルフレイルになったとしても低栄養に陥らないための食事の摂り方を実践することが望まれる。

高齢者とたんぱく質

 高齢者では、加齢により筋肉量が減少することで、成人期に比べて基礎代謝量が低くなり、必要エネルギー量(kcal)は減少するとされている。しかし、たんぱく質に関しては、骨格筋量と筋力の維持のためにたんぱく質を十分に摂取する必要がある。高齢期であっても、食事から摂取したたんぱく質を自分の筋肉に合成することはできるが、成人期に比べるとその同化作用は弱くなる。しかし、十分にたんぱく質が摂取されれば、高齢者においても成人期と同等の筋肉が合成されるといわれている2)

 表のたんぱく質の推奨量は、摂取する上限量を示しているのではなく、フレイル予防のためには、この推奨量より多い量を摂取することが望まれる。

表 性別・年齢別の1日の推定必要量食事摂取基準
(出典:厚生労働省, 日本人の食事摂取基準(2020年版)2)より一部抜粋)
男性男性女性女性
推奨量エネルギー量(kcal)たんぱく質量(g)エネルギー量(kcal)たんぱく質量(g)
30~49歳 2,300~3,050 50~65 1,750~2,350 40~50
65~74歳 2,050~2,750 50~60 1,550~2,100 40~50
75歳以上 1,800~2,100 50~60 1,400~1,650 40~50

※エネルギー量は、身体活動レベル(低い・ふつう・高い)により幅がある。

 十分なたんぱく質の摂取のポイントは、朝食、昼食、夕食、間食のすべてにたんぱく質を含む食品を取り入れることである。図1では、矢印で指し示しているものがたんぱく質を多く含む食品である。

図1、朝食、昼食、間食、夕食で十分なたんぱく質量合計78.9g摂取できる献立例を表す図。
図1 十分なたんぱく質の摂取例(たんぱく質量:78.9g)

フレイル予防のためのバランスのよい食事

 フレイル予防には、十分なたんぱく質の摂取に加えて、多種多様な食品からバランスよく栄養素を摂取することが望ましい。そのためには、まず自分の食事から多様な食品の摂取ができているかをチェックする。そのチェック機能を果たすのが「食品摂取の多様性スコア(Dietary Variety Score; DVS)」(図2)1),3)である。

図2、食品摂取の多様性スコア(Dietary Variety Score; DVS)を表す図。
図2 食品摂取の多様性スコア(Dietary Variety Score; DVS
(出典:熊谷修他,地域在住高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連.日本公衆衛生雑誌 2003;50(12):1117-11243)より作成)
(図の提供:東京都健康長寿医療センター研究所(新開省二他,地域在住高齢者における栄養の特性と課題.地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会,20161)より))

 DVSは、10品群の1週間の摂取頻度を得点化するもので、DVSの得点が高いほど、筋量が多く、身体機能が高いことがわかっている。多様な食品摂取を確保することは、多様な栄養素の摂取や筋量・身体機能の低下抑制に関わることから、改めてバランスよく食べることには意義があるとわかる。食品摂取の多様性を意識することは、栄養面からの主体的なフレイル予防対策となる。フレイル予防のためには、DVSは7点以上で、かつたんぱく質を多く含む5つの食品群(肉、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳)すべてが含まれることが望ましい4)

 以下に、「DVSから考えるフレイル予防のための食事のポイント」をまとめる。

DVSから考えるフレイル予防のための食事のポイント

DVSが低くバランスのよい食事を摂れていない場合
  • 栄養の"ちょい足し"(例 ごはん+ちりめんじゃこ、インスタントラーメン+卵):今の摂れている食事をベースとして、不足しがちな食品群が何かを認識し、少量でもよいので追加できるようにする。たんぱく質源を優先して追加する。
  • スーパーマーケットにどんな食材・料理が並んでいるか探索し、情報を得ておく。
DVSが7点以上のバランスのよい食事を摂れている場合
  • 今の食事内容を継続する。
  • 今の食事内容を継続できなくなることを想定し、継続するための対策を考えておく。(例:体力づくり、調理技術の習得、レトルト・冷凍食品・惣菜の活用、食品・食事へのアクセス方法の確認)

口腔機能に合わせた食事

 健常な状態においては、口腔機能を維持し、オーラルフレイルまたはフレイルの予防を意識した食事を摂る。そしてオーラルフレイルの状態においては、口腔機能に合わせた食事の摂り方を実践し、栄養状態の維持・改善を目的とする。

 よく噛めるグループに比較して、噛めないグループは多くの栄養素、食品群の摂取が低下する5)。摂取栄養量を確保するためには、"噛める"ことを維持することと、"噛めない"としても食べやすい形態に調整することが必要である。

1.口腔機能の低下なし(健常)

 肉や野菜など噛み応えのあるものを積極的に取り入れる、具材を大きめにカットするなど、あえてよく噛む、あるいは食感を楽しむことで、咀嚼機能を維持する。また、咀嚼が億劫になると口の中に残っている食べ物を水分の力を借りて流し込んでしまいがちだが、それをしないようにする。十分な咀嚼機能をもって、必要な栄養素、特に動物性たんぱく質量の摂取を積極的に行う。

2.器質的問題(歯が痛い、義歯が合わない、など)

 口腔内に痛みや違和感が生じることで、食欲低下や食品摂取の多様性低下につながることもあるため、一時的にでも食事を食べやすくする。特に硬いものやペラペラしたものは調理段階で工夫が必要である。例えば、肉の筋を切る、野菜の繊維を断ち切るように切る(小松菜などの葉物野菜では、茎の部分が噛みづらいので、葉の部分を使用する)、煮込み料理にする、などがあげられる。また、食事量の減少、体重減少がある場合は、食事に負担感を持たないように少ない食事量で効率よく栄養補給できるようなメニューにしたり、栄養補助食品を活用したりする。

3.巧緻性(こうちせい)の低下(舌が巧みに動かない、など)

 舌の巧緻性が低下すると、口腔内で食べ物がまとまらずに散らばって食べづらくなる。それにより食事に時間がかかるようになり、食事を摂ることに苦痛を覚える場合もある。そのため、あんかけにする(あんかけチャーハンなど)、マヨネーズなどで和える、納豆ご飯や卵かけご飯にする、などにより、口腔内でバラバラになる食べ物をまとまりやすくする。

4.筋力低下(舌圧低下など)

 舌圧が低いことは硬いものが食べづらいだけでなく、全身の筋力低下も疑われる。硬いものに関しては、器質的問題の場合と同様、軟らかくする工夫が求められる。また全身の筋力低下については、十分なエネルギー量を確保し、毎食たんぱく質を摂取する(図3)と同時に、筋力アップのレジスタンストレーニングを併用する。

図3、積極的なたんぱく質が摂取できるそうめんに牛肉、卵、かに風かまぼこをプラスした料理を表す図。
図3 積極的なたんぱく質の摂取例:そうめん+(牛肉、卵、かに風かまぼこ)

5.食が細い場合の栄養摂取方法

 もともと小食であったり、オーラルフレイルにより食べやすい食品が限られたりする場合、通常の食事だけでは十分な栄養摂取がむずかしくなる。そこで、少量でもエネルギー量やたんぱく質量を摂取できる栄養補助食品を活用してもよい。

オーラルフレイル予防のための動機づけ

 地域高齢者に対し、オーラルフレイル予防のための栄養の考え方や食事の摂り方などを伝える取り組みが実施されている。

 オーラルフレイル予防のための講演会やイベントなどに参加する地域高齢者の多くは、生活習慣病予防のための栄養・食事に関する教育を何らかの形で受けていると思われる。参加者のほぼ全員が「メタボ」という言葉とその概念を認識している。一部の参加者は、日常的に生活習慣病の予防や改善に対して高い関心を持っている。彼らが受けてきた栄養教育は、まさに「病気にならない」ためのものである。また、食べることで被る不利益には敏感だが、食べないことによる不利益についてはそれほど気にしていないように見受けられる。その彼らを「メタボ予防」から「オーラルフレイル予防」にシフトチェンジさせるには、大きな動機づけが必要となる。

 人が死を迎えるまでのモデルとして2つ示されている(図4)6)。1つは「疾病モデル」で、自立して生活していたのが、心筋梗塞や脳卒中などの大病になることで要介護状態となり、骨折や肺炎などによってさらに介護度が上がり、最終的には死に至るというものである。もう1つは「フレイルモデル」で、自立して生活していたのが、加齢に伴って筋力低下や低栄養をきたし、フレイル状態を経て要介護状態となり、最終的には死に至るというものである。いずれのモデルも、自立した生活から要介護状態となって死に至るという点と、いずれも予防できるという点については同じである。しかし、地域高齢者が恐れているのは「疾病モデル」で、「フレイルモデル」に対しては恐怖感を抱いていないという印象を受ける。むしろ「フレイルモデル」は加齢に伴う自然現象と捉えてしまっているかもしれない。

図4、疾病モデルとフレイルモデルを表す図。
図4 疾病モデル(上)とフレイルモデル(下)(出典:葛谷雅文, 高齢者医療におけるサルコペニア・フレイルの重要性.日本内科学会雑誌 2017; 106(3): 557-5616)

 地域高齢者が、主体的にフレイルあるいはオーラルフレイル予防のための食事の摂り方を実践するためには、病気にならないことを目的とするのか、あるいは自立した生活の継続を目的とするのかを問い、自分の健康とは何か、自分はどのように人生を過ごしたいと思っているかを明確にすることが重要であると考える。

文献

  1. 新開省二,成田美紀,横山友里他:地域在住高齢者における栄養の特性と課題.地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理の在り方検討会,2016.(PDF)(新しいウインドウが開きます)
  2. 厚生労働省: 日本人の食事摂取基準(2020年版),2020.(PDF)(新しいウインドウが開きます)
  3. 熊谷修,渡辺修一郎,柴田博他:地域在住高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連.日本公衆衛生雑誌 2003:50(12):1117-1124.
  4. 成田美紀,北村明彦,武見ゆかり他:地域在宅高齢者における食品摂取多様性と栄養素等摂取量.食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連,日本公衆衛生雑誌 2020;67(3):171-182.
  5. 本川佳子,枝広あや子,渡邊裕他:地域在住高齢者における咀嚼機能と栄養素・食品群別摂取量および低栄養との関わり.第59回日本老年医学会学術集会(名古屋).
  6. 葛谷雅文:高齢者医療におけるサルコペニア・フレイルの重要性.日本内科学会雑誌 2017;106(3):557-561.

筆者

おぜきまいこ氏の写真。
尾関 麻衣子(おぜき まいこ)
日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック管理栄養士
略歴
2012年:神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科卒業、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック入職、現在に至る。摂食嚥下障害を有する外来・在宅患者に対する栄養指導および食支援に従事。
専門分野
摂食嚥下リハビリテーション栄養

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2023年 第31巻第4号(PDF:6.3MB)(新しいウィンドウが開きます)

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