健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

高齢者の社会参加・社会関係はどう変わったのか:JAGES2010-2022より

公開日:2025年1月18日 15時00分
更新日:2025年1月18日 15時00分

渡邉 良太(わたなべ りょうた)

日本福祉大学健康社会研究センター主任研究員

はじめに

 2024年度から国民健康づくりの基本方針である「健康日本21」の第三次が開始された1)。そこでは、社会とのつながりの維持・向上が掲げられ、地域組織や就労などの社会参加者の増加や、地域の人々とのつながりという社会関係の強化を目標に設定している。今後ますます社会参加や社会関係の向上が進むことが予想される。

 小論では、1.社会参加・社会関係と健康について、2.2010年度から2022年度までの社会参加・社会関係の動向、3.社会参加の変化が高齢者の健康にどのような関連を示すのかを紹介する。

社会参加・社会関係と健康について

 健康日本21(第三次)では人々の健康が周囲の環境の影響を受けることを背景に環境の整備が重要であると指摘し1)、その一部として社会参加者の増加や社会関係の強化が進められている。社会参加の定義は、年数回のスポーツや趣味、町内会なども含む地域組織参加と就労もあわせたものとしている。この理由は、地域在住高齢者を対象とした研究において、年数回の社会参加も含めて死亡発生リスクや要介護認定発生リスク低減2)が示されているためである。人々とのつながりなどの社会関係においても、つながりが豊かな者はそうでない者と比較し、健康へ好影響であることが示されている3)。厚生労働省は2015年から地域づくりによる介護予防を進めており、社会参加や社会関係が増加していると予想される。

社会参加・社会関係はどう変わったのか

 ここでは、健康長寿社会を目指した予防政策の科学的な基盤づくりを目的とした日本老年学的評価研究(JAGES)4)のデータを用いて、2010年度から2022年度に実施した調査結果を基に、追跡期間12年間での社会参加・社会関係の変化を示す。JAGESはこれまでに全国の30〜76市町村と共同し、数十万人の65歳以上高齢者から回答を得て、その分析結果から様々なエビデンスを発信している。

 図1は2010年度から2022年度の5回(2010・2013・2016・2019・2022年度)のすべての調査に参加した17市町村の要介護認定を受けていない65歳以上高齢者を対象に社会参加・社会関係の変化を示したものである。図中の社会参加の定義は、地域組織への参加(スポーツの会、趣味の会、ボランティアの会、老人クラブ、町内会の年数回以上の参加)および就労を用いた。社会関係の定義は月1回以上友人と会っている者と情緒的・手段的サポートの受領者割合とし、65〜74歳(前期高齢者)、75歳以上(後期高齢者)に分けて示した。

図1、前期後期高齢者別の社会参加・社会関係の経年変化を表す図。
図1 前期後期高齢者別の社会参加・社会関係の経年変化

JAGES(日本老年学的評価研究)による健康とくらしの調査の2010~2022年全ての調査に参加した17市町在住の要介護認定を受けていない高齢者(2010:54,225人/2013:63,103人/2016:65,357人/2019:66,669人/2022:70,488人)より回答を得たものを解析した。
スポーツ・趣味・ボランティア・老人クラブ・町内会は年数回以上ありで参加ありとした。友人と会うのは月1回以上でありと判定した。
情緒的サポート、手段的サポートはいずれかからサポートを受けている者をありとした。

 社会参加について、前期高齢者では、いずれかに参加している者が2010年度から2022年度にかけて2.5%ポイント増加しており、その内訳をみると就労割合が約14%ポイントと大きく増加した反面、趣味の会や老人クラブ参加割合が減少していた。後期高齢者では、いずれかに参加した者は8.9%ポイントの増加と前期高齢者よりも増加幅は大きかった。増加が大きかったものから順にスポーツの会、就労、ボランティアの会と並び、減少したのは老人クラブのみであった。厚生労働省が進めている地域づくりによる介護予防が社会参加割合増加の一要因であると考えられる。なお、本集計には含まれていないが、厚生労働省が集計している住民主体の通いの場では、通いの場の箇所数が多い地域ほど参加割合も多いことが示されている5)。居場所が増えることで近所に通うことができたり、それぞれに合った通いの場に参加できたりするのかもしれない。

 就労においては、2021年に高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会を確保するために、1.定年を70歳まで引き上げること、2.定年制を廃止すること、3.再雇用や勤務延長などの制度の導入、4.業務委託の継続制度、5.社会貢献事業に従事できる制度の導入という5つの努力義務が新設されている6)。今後ますます高齢者の就労割合が増加する可能性がある。社会参加の種類によっては減少している種類も存在するが、全体としては増加傾向にある。

 社会関係について、友人と会う割合は前期高齢者で6.4%ポイント減、後期高齢者で1.8%ポイント増加していたが、情緒的・手段的サポート受領割合はいずれも増加を示していた。前期高齢者で友人と会う割合が減っている要因として、就労割合が増加したことで地域の社会参加割合が減少しているなども関連しているかもしれない。つまり、就労場所で会う同僚や知人を友人とは認識しておらず、地域での社会参加が減ったことで友人と会う頻度が減少している可能性がある。一方で、情緒的・手段的サポート受領割合が増加していることは他者とのつながりが減少していることを示しているわけではないと考えられる。

社会参加増加と要介護リスクの関連

 それでは、このような社会参加が増加してきたことは高齢者の健康にどのような影響をあたえるのだろうか。この問いに答えるためにJAGESの2010年度調査に回答した高齢者約2万3千人と2016年度調査に回答した高齢者約2万6千人の2つの集団をそれぞれ3年間追跡し、要介護認定発生率を比較した研究7)を紹介する。

 図2は2010年度の高齢者の要介護認定発生リスクを1.0とした時の、2016年度の高齢者の要介護認定発生リスクを示したものである。結果、性や年齢、教育歴や所得、婚姻状況、疾病の有無の影響を考慮して分析したモデル1では、2016年度の集団は2010年度の集団と比べ、65〜74歳の者で25%、75歳以上の者で27%、要介護認定発生リスクが低いことがわかった。つまり、2010年度から2016年度に実施した調査から追跡期間6年間で若返りが起きていることを示す結果であった。モデル2では社会参加に加え、社会参加によって改善が期待されることがわかっている歩行時間や外出頻度、うつなども2つの集団の調査開始時点で均一にして分析を行った。すると、2010年度と2016年度の要介護認定発生リスクには差がなくなった。つまり、社会参加が増えたことや、それによって外出頻度、歩行時間、うつ、友人と会う頻度などが改善したことが要介護認定発生リスクの減少(若返り)を説明していると解釈できる。
 日本老年学会は2024年に「高齢者および高齢社会に関する検討ワーキンググループ報告書」を公開している8)。そこには1992年から約25年もの間、同年齢の高齢者を比較すると歩行速度が速くなっているなど身体機能面や認知機能面でも改善しているなどの若返りに資する結果が示されている。さらには、このような身体機能の改善は就労や地域組織を含む社会参加割合向上が一要因である可能性を考察しており8)、社会参加増加は若返りに貢献している可能性がある。

図2、地域在住高齢者の社会参加の変化と要介護認定発生率減少(若返り)を表す図。
図2 地域在住高齢者の社会参加の変化と要介護認定発生率減少(若返り)
(出典:渡邉良太,社会参加増で高齢者が若返っている!?~2010年~2016年の6年間で要介護認定発生リスク25%減少~. JAGES Press Release No. 419-24-5)

2010年の高齢者を基準に2016年の高齢者の要介護認定発生リスクを示した(追跡期間はそれぞれ3年間である)
モデル1は性、年齢、教育歴、婚姻状況、治療疾患の有無を調整
モデル2はモデル1に加え、社会参加(地域組織参加、就労)喫煙、喫煙、飲酒、歩行時間、外出頻度、うつ、情緒的サポート、手段的サポート、友人と会う頻度、手段的自立
いずれのモデルも自治体をランダム効果として調整

おわりに

 健康日本21(第三次)の目標となっている社会とのつながりについて、JAGES2010-2022年度調査より社会参加や社会関係の推移を示した。結果、前期後期高齢者ともに社会参加割合、情緒的・手段的サポート受領割合は増加していた。前期高齢者では、就労を中心とした増加を示し、地域組織参加は減少傾向にあった。後期高齢者では、就労および地域組織参加の両者が増加していた。このような社会参加割合増加や社会参加に伴う歩行時間や外出頻度の増加によって高齢者の要介護認定発生リスク減少(若返り)とも関連が示されている。今後、高齢者が社会参加しやすい環境づくりを進めることで若々しく過ごせる高齢者がさらに増える可能性がある。

謝辞

 本研究は、JSPS科研(23H00060、22K17409)の一環で行われた成果の一部である。本研究で使用した調査データは、JSPS科研費(20H00557、20K10540、21H03196、21K17302、22H00934、22H03299、22K04450、22K13558、23H00449、23H03117、23K21500)、厚生労働科学研究費補助金(19FA1012、19FA2001、21FA1012、22FA2001、22FA1010、22FG2001)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JPMJOP1831)、公益財団法人健康・体力づくり事業財団令和4年度健康運動指導研究助成、TMDU重点研究領域、国立研究開発法人防災科学技術研究所などの助成を受けてJAGESによって実施・整備されたものである。記して深謝します。本稿は、著者の見解を論じたものであり、資金等提供機関の公式見解を必ずしも反映していない。

文献

  1. 厚生労働省: 健康日本21(第三次)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2024年12月23日閲覧)
  2. 東馬場要,井手一茂,渡邉良太, 他: 高齢者の社会参加の種類・数と要介護認定発生の関連 JAGES2013-2016縦断研究. 総合リハビリテーション 2021; 49(9): 897-904.
  3. Holt-Lunstad J, Smith TB, Layton JB.: Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS medicine. 2010; 7(7): e1000316.
  4. Kondo K, Rosenberg M. & World Health Organization. Advancing universal health coverage through knowledge translation for healthy ageing: lessons learnt from the Japan gerontological evaluation study. World Health Organization, 2018.
  5. Uemura K, Kamitani T, Yamada M.: Frailty and Environmental Attributes in Older Adults: Insight from an Ecological Model. Phys Ther Res. 2023; 26(3): 71-77.
  6. 厚生労働省: 高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2024年12月23日閲覧)
  7. Watanabe R, Tsuji T, Ide K, et al.: Comparison of the Incidence of Functional Disability Correlated With Social Participation Among Older Adults in Japan. J Am Med Dir Assoc. 2024; 25(6): 104932.
  8. 日本老年学会: 高齢者および高齢社会に関する検討ワーキンググループ報告書. 2024 (外部サイト)(PDF:13.7MB)(新しいウインドウが開きます)(2024年12月23日閲覧)

筆者

わたなべりょうた氏の写真。
渡邉 良太(わたなべ りょうた)
日本福祉大学健康社会研究センター主任研究員
略歴
2009年:中部大学技術医療専門学校理学療法学科卒業、津島市民病院リハビリテーション室理学療法士、2017年:星城大学大学院健康支援学研究科健康支援学専攻修了、2021年:千葉大学大学院医学薬学府先進予防医学共同専攻修了、国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターフレイル研究部特任研究員、2022年より現職
専門分野
地域理学療法学、社会疫学

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2025年 第34巻第4号(PDF:4.5MB)(新しいウィンドウが開きます)

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケート

WEB版機関誌「Aging&Health」のよりよい誌面作りのため、ご意見・ご感想・ご要望をお聞かせください。

お手数ではございますが、是非ともご協力いただきますようお願いいたします。

WEB版機関誌「Aging&Health」アンケートGoogleフォーム(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

無料メールマガジン配信について

 健康長寿ネットの更新情報や、長寿科学研究成果ニュース、財団からのメッセージなど日々に役立つ健康情報をメールでお届けいたします。

 メールマガジンの配信をご希望の方は登録ページをご覧ください。

無料メールマガジン配信登録

寄附について

 当財団は、「長生きを喜べる長寿社会実現」のため、調査研究の実施・研究の助長奨励・研究成果の普及を行っており、これらの活動は皆様からのご寄附により成り立っています。

 温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。

ご寄附のお願い(新しいウインドウが開きます)

このページについてご意見をお聞かせください(今後の参考にさせていただきます。)