健康長寿ネット

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運動の良い汗と悪い汗

公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2023年3月16日 14時10分

汗とは

 汗は皮膚にある汗腺でつくられます。そのほとんどの成分が水であり、身体の体温が上がった時に、身体の水分を汗として放散させることで体温を一定に保つ働きをしています1)

汗が出る仕組み

汗の構造を表すイラスト。汗がつくられる汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺があることを示す。

 身体の体温調節の中枢は脳の視床下部にあり、全身の温度受容器から情報を収集してその状況に適した体温の基準温度を設定します。設定した基準温度と実際の核心温(脳内の温度)との誤差から、熱を放散させる温ニューロンと熱を産生する冷ニューロンが、体温調節に関わる熱放散器官(汗腺や血管)と熱産生器官(筋や脂肪組織)を働かすための神経信号をつくります1)

 汗がつくられる汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺があります。エクリン汗腺は毛のない部分の皮膚に開口しており、アポクリン汗腺は毛包の上部にあり、毛の周囲から皮膚へと滲み出てくる構造をしています。体温調節やストレスを感じた時に出る精神的発汗、刺激物を食べた時に出る味覚性発汗はエクリン汗腺からの汗です1)

 アポクリン汗腺は脇や陰部などの限られた部位に存在し、思春期以降に分泌機能が働くようになります。はっきりと解明されていませんが、フェロモンとしての役割があるとされており性ホルモンとの関連がいわれています1)

汗の種類と汗が出る理由

 汗には温熱性発汗、精神性発汗、味覚性発汗があります。

温熱性発汗

 気温の上昇や運動や労働で体温が上昇したときに体温調節を図るためにみられる汗です1)

精神的発汗

 痛みや緊張、不安、怒り、高度な精神活動を要求されたときなど、ストレスを受けた時に手のひらや足の裏にみられる汗です。手のひらや足の裏を汗で湿らすことにより、摩擦を生じて作業を行いやすくすることや、センサーとしての感度を高めるためといわれています1)

味覚性発汗

 辛いものなどの刺激物を食べた時に、顔や頭を中心に噴き出す汗です。辛み成分のカプサイシンが口腔内の粘膜にある温度センサーを刺激して、熱覚とともに痛覚を生じ、発汗神経を刺激して起こるといわれています1)

良い汗と悪い汗の違い

良い汗

 汗は二段階の工程を経てつくられており、まず血液から前駆汗がつくられ、次に曲導管(汗となって分泌される管につながる管)でナトリウムイオンが再吸収されて薄められた後に汗となって皮膚から蒸発します。最初につくられる前駆汗は塩分濃度が高く、そのまま体外に汗となって排出されると体内の多量の塩分を失ってしまうので塩分(ナトリウムイオン)を再吸収することによって汗を希釈しているのです1)

 汗の量と塩分濃度は比例しており、前駆汗の量が多くなるとナトリウムイオンの再吸収の機能が十分に行えず、塩分濃度の高い汗となります。少しずつかく汗は、希釈されてさらっとした塩分濃度の低い汗ですが、大量にかいた汗は、べたつきのある塩分濃度の高い汗となります。大量にかく汗からは多量の塩分が失われ脱水の危険が高くなります。少しずつ汗をかくことがよいといえます1)

 繰り返し暑熱の負荷がかかり、暑熱への身体の慣れが生まれることで汗の分泌機能が高まり、塩分濃度の低い良い汗が出るようになります。良い汗は、汗の出始めるタイミングが早いので体温の上昇も少なく、心拍数の増加も軽減できます。曲導管でのナトリウムイオンの再吸収も増加し、塩分濃度の低いさらっとした汗となります1)

悪い汗

 人の汗は体温を一定に保つ働きがあるため、汗そのものに悪いものはありません。

 風邪など何らかの疾患がもとで汗を大量にかくこともありますが、それは病原菌によって上昇した体温を下げるために汗をかいています。また、甲状腺機能亢進症では熱の産生量が増えるため、発汗量も増えます。また、急性の外傷や出血などで生じる、急性循環不全(血圧低下)、いわゆるショック状態の徴候の一つに冷汗(ひやあせ)があります。冷汗は血圧低下に対して、交感神経の緊張が急激に高まり血圧を維持しようと汗腺も興奮し、全身に汗が出るのものです。

 また、温熱や精神的負荷の有無いかんに関わらず、頭、手、足、腋、顔などに日常生活に支障をきたすほどの大量の汗をかく原発性局所多汗症(多汗症)があります。多汗症の病態は明らかになってませんが、多汗症が原因でQOL(生活の質)を著しく低下させ、うつ病などの精神的、かつ社会的苦痛をうける患者は多数存在していると考えられています2)

運動の汗の効果

運動後に汗をかく女性のイラスト。運動の汗は良い汗で、運動習慣のある人は熱中症になりにくい身体づくりが期待できる。大量にかく汗からは多量の塩分が失われ脱水の危険が高くなるため、少しずつ汗をかくことがよいといえる。

 運動を行うことで体温が上昇して汗をかきます。運動を継続していると体温の上昇の負荷がかかるので暑熱へ順応しやすくなり、良い汗をかきやすくなります。普段から運動習慣のある人は良い汗が出やすく、熱中症にもなりにくい身体づくりが期待できます。毎日1回中等度以上の強度(汗を軽くかく程度)の運動を90分より少し長めに行うとよいといわれています。自然の気候を活用して、屋外で1日に2~3時間自然に汗をかくことも有効とされています1)

汗の対策方法

 汗は体熱の冷却効果として作用するので汗を蒸発させることが大切です。汗が出始めた時には、汗を皮膚が乾燥している部分にも伸ばすようにして拭き取り、汗が蒸発しやすいようにします。大量の汗が続き、汗の出る穴が塞がってしまっているような場合は汗と塩分を拭きとって皮膚を乾燥させましょう。衣服は吸汗透湿性素材のものを選び、汗を蒸発させやすい環境に保ちましょう。多量の汗をかいた時にはズボンのベルトを外し、シャツの裾を開放するなどして通気を良くするようにしましょう1)

参考文献

  1. 汗はすごい 体温、ストレス、生体のバランス戦略 菅屋潤壹
  2. 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版 公益社団法人日本皮膚科学会(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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