乳酸とは
公開日:2016年7月25日 10時00分
更新日:2019年8月 1日 13時55分
筋肉疲労のメカニズム
運動時に筋肉を収縮するためにはエネルギーが必要です。筋肉を動かすためのエネルギーは、筋肉に蓄えられている糖質の一種である筋グリコーゲンが分解され、ATP(アデノシン三リン酸)が作り出されることで産みだされています1)2)3)。
筋グリコーゲン(糖)の分解時には乳酸も同時につくられます。乳酸は酸素の供給される活動や運動(日常生活動作やジョギングなど)よりも無酸素性の激しい運動(短距離走など)でより多くつくられます。身体には乳酸を一旦中和させてから、ミトコンドリアで酸化してエネルギー源として再利用する働きがあります。乳酸はエネルギー源として再利用されるのですが、乳酸の生成が消費を上回ると乳酸が蓄積することとなります4)5)。
筋肉が疲労する原因は、今までは、乳酸が蓄積すると筋肉の疲労が起こると捉えられており、「乳酸=疲労物質」という認識が一般的でした。しかし、乳酸が多くつくられるダッシュなどの無酸性の運動でも、ジョギングなどの有酸素性の運動でもどちらでも筋肉疲労は起こります。エネルギー源の糖が足りなくなること、マラソンなどの長時間運動では筋肉の疲労が関連していると考えられています5)。
筋肉疲労の原因
長い間、乳酸が疲労を起こすと考えられてきましたが、最近では、乳酸が多くつくられることで乳酸の生成過程で発生する水素イオンの影響により身体が若干酸性に傾くこと、エネルギー源である筋グリコーゲン(糖)の蓄えが少なくなることが筋肉疲労の原因と言われています5)。
また、筋収縮は筋小胞体からカルシウムイオンが放出することで起こりますが、ATPやクレアチンリン酸(ATPの代わりに骨格筋ででき、速効のエネルギー源となる物質)6)が分解されてできるリン酸がカルシウムイオンの放出を阻害して筋収縮が行いにくくなることなども筋肉疲労の原因のひとつととして考えられています7)。
また、疲労は個人によっても差があり、さまざまな原因が重なり合って疲労が起こっているとされています7)。
乳酸は疲労物質か?
乳酸は筋肉疲労を起こす悪い物質ではないと考えられています。乳酸は筋肉からカリウムが漏れ出して筋収縮を阻害することを防ぐ働きがあるとも言われています。筋収縮の阻害を防ぐということは、乳酸が疲労を起こすのではなく疲労を防ぐ物質であることもうかがえます7)。
また、血管新生や傷の修復促進、ミトコンドリア(酸素を利用してATPを産生する)新生、遺伝子発現調節などの働きがあることが言われており、乳酸にプラスの効果があることもわかってきています7)。
筋肉疲労の回復方法
筋肉の疲労回復には働いた筋肉の血液循環を良くすることが重要です。遅筋や心筋の収縮を促すウォーキングや自転車エルゴメーター、水中運動などの軽度の有酸素運動や、血液循環を良くすることが筋肉疲労の回復を促します。血液循環を促す方法としてはストレッチングや、入浴、交代浴(温かいお湯と冷たい水とに交互につけること)、マッサージなどがあります8)。
スポーツ選手のように激しい運動を行うと、筋肉がエネルギーを消費し、筋肉の温度が上がった状態となっています。温度が上昇したままにしておくと、エネルギーが何もしていなくても消費されやすい状態になっているため、アイシング(冷却)で筋肉の温度を下げ、エネルギーの温存を図る方法もあります8)。
ただじっと座って安静にしているのではなく、軽運動やストレッチングなどを行うことをアクティブレスト(積極的休養)といいます。アクティブレストはアイシングとストレッチング、入浴とマッサージなど、いくつか組み合わせて行うとより疲労回復に効果的であるとされています8)。
参考文献
- 八田秀雄 乳酸を活かしたスポーツトレーニング 講談社
- 山本利春 疲れたときは、からだを動かす! 岩波書店