糖代謝の老化
公開日:2016年7月25日 07時00分
更新日:2019年8月 1日 13時48分
糖代謝とは
糖代謝とは、食事として摂取したエネルギーを各臓器が消費して活動し、余分なエネルギーは飢えに備えて蓄え、必要なときに利用するというサイクルのことです。血管は全身にはりめぐらされ、各臓器をつないでいます。糖は、エネルギー源として生きていく上でとても重要なものであり、脳、筋肉などで主に利用されます。就寝中も利用されており、血管の中の糖の量である血糖値は様々なホルモンや神経の作用によってほぼ一定であるように調節されています。
食後、消化された栄養素が血液の中に流れ込みむと、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンが中心となって、エネルギーは各臓器に届けられます。空腹時や就寝中にも持続的にインスリンは分泌され(基礎分泌)、肝臓での新しい糖の合成や(糖新生)、蓄積された脂肪を分解することによるエネルギーの調節を行っています。
インスリンが主に作用する組織は、筋肉と肝臓と脂肪組織などです。インスリンの作用により、血管内の糖は筋肉組織へと取り込まれて消費され、肝臓への糖の取り込み、糖新生と糖の放出、脂肪組織への取り込みと脂肪合成、脂肪組織の分解などが行われています。
加齢による糖代謝の変化
加齢に伴い、体の細胞組織が変化することによって筋肉量は減り、脂肪組織の割合が増加することでインスリンの抵抗性が増大します。するとインスリンに対する反応が悪くなります。また、加齢によりインスリン分泌量は低下しますが、特に食後に高くなった血糖値をコントロールする「追加分泌」が低下し、食後血糖値は上昇しやすくなります。
さらに、加齢による社会活動性や体力の低下、その他の疾患にかかることにより身体活動量が低下するため、これに比例して消費エネルギーは低下します。 最近では、食生活の欧米化、車の普及による活動性の低下などにより、高齢者でも肥満者の割合が増加し、体脂肪の多い方が増加しています。
加齢と糖代謝と糖尿病
加齢に伴う耐糖能(たいとうのう=体内の糖分を処理する能力)の低下により、糖尿病の患者は増加します。高齢者の耐糖能機能低下は、軽度の糖尿病患者とよく似ているといわれています。
どのような病気においても、高齢者は特徴的な症状が出にくく、「非典型」であることが多いのですが、それは糖尿病であっても同じです。体内の血糖値が著しく上昇すると、尿量の増加、のどの渇き、水分摂取の増加という糖尿病特有の症状が出現しますが、これらの症状が出現しにくくなるのです。軽度の高血糖が長期間継続していても気づかず、合併症である網膜症や神経症のみが進行している場合もあります。また、高齢者で糖尿病になる患者は、ADLや認知機能の低下など日常生活における自立が困難である場合に多く発症するとされています。
厚生労働省の調査によると、糖尿病が強く疑われる人は、ゆるやかではありますが、増加傾向にあります(グラフ1)。
実際に糖尿病と診断された人は、平成26年現在で3,166,000人と推測されており、50歳を超えると急激に増加します(グラフ2)。
しかし、糖尿病と診断された人の中で治療を受けている人はわずか65%であるという結果が出ています。糖尿病は定期健康診断などで受ける、血液検査や尿検査の結果から診断できますので、積極的に検診をうけることをおすすめします。
また、通常の生活では血糖値が正常でも
- 肺炎や尿路の感染症
- ブドウ糖を含む点滴の投与
- 嚥下(えんげ)機能低下による経管栄養(胃や腸に直接栄養剤を注入)
など、通常とは異なる医療的処置を受けたときや、体に何らかの侵襲が加わったときに、急激に変化することがあります。一時的に著しく高血糖になることで糖尿病を発症することがあり、重症な場合では脱水や昏睡状態になる場合があります。
これまでに、糖尿病と診断されたことがない場合でも、血糖値は常に変動していること、潜在的あるいは何らかのきっかけで耐糖能が低下することを、知っておきましょう。