細胞の老化の原因と症状
公開日:2016年7月25日 17時00分
更新日:2023年8月15日 14時45分
細胞の老化とは
人の各組織における分裂細胞は、そのすべてにおいて老化します。
動物の体を構成している各細胞は、限られた回数しか分裂・増殖することができないと言われています。ある細胞の分裂の限界を分裂の寿命といいますが、この法則を発見したアメリカの科学者の名前にちなみ、「ヘイフリックの限界」とも呼ばれています。細胞が構成する組織や、生物の種類によって「ヘイフリックの限界」は異なります。
例えば、ヒトの胎児から採取した細胞の限界は、およそ50回です。限界まで分裂した細胞を「老化細胞」と呼びます。老化細胞になると、増殖する能力は元に戻ることができません。仮に増殖を促す処理を施したとしても、再びその細胞が分裂を始めることはありません。
ある細胞の分裂回数と、培養時間との関係を見てみます(グラフ1)。これは、若い細胞であれば培養時間とともに分裂が増加する一方で、老化した細胞では培養時間が増えても増殖しないことを表しています。
正常細胞である場合、ある一定回数分裂をすると、その後は分裂のスピードが非常にゆるやかになります。分裂回数が増えなくなった点がこの細胞にとっての限界であり、細胞の老化であると考えられます。
加齢による細胞の変化
加齢によって細胞はどのように変化するのでしょうか。
まず、細胞内に存在しており、私たちが活動するためのエネルギーを作り上げる「ミトコンドリア」の質が低下します。それに伴い、活性酸素を消去する酵素である「スーパーオキシドディスムターゼ 2(SOD2)」という物質の量が減少し、活性酸素の除去が遅くなります。すると、細胞へ直接的にダメージを受ける機会が増えます。この変化が多くの細胞で起こることで、細胞数の減少や機能の低下が見られるようになります2)。
細胞老化の原因としくみ
細胞の老化は、前述したように「ヘイフリックの限界」を迎えた時点でスタートしています。この「ヘイフリックの限界」を決める要因として、染色体の末端にある「テロメア」と呼ばれる構造が注目されています。
「テロメア」は、染色体の末端を保護する役割を持つと考えられており、細胞が分裂するたびに、その長さが短くなっていきます。これが細胞における寿命時計の一つとして機能し、「テロメア」がある程度短くなるところまで細胞分裂が行われると、細胞の老化が始まることが明らかになってきました。
しかし、ヒトの体の中には、無限に増殖する細胞が存在していることがあります。がん細胞です。がん細胞では多くの場合、「テロメア」の末端を伸長させる「テロメラーゼ」という酵素の活性の亢進が確認されています(図1)。
また、最近では様々なストレス(酸化ストレス、放射線、がん遺伝子の異常活性化など)が原因となって、細胞老化が誘導されることが示されています。このことから、細胞老化は細胞の異常な増殖を防ぎ、がんの発生を予防する、生体の防御機構のひとつだと考えられるようになりました1)。
細胞老化による症状
老化細胞は、体内に比較的長く存在し続ける細胞です。加齢に伴い、生まれた時から存在する細胞が老化細胞に変化していきますので、次第にその量は増えていきます。老化細胞からは、炎症性サイトカインなどが分泌されていることが近年明らかになっており、加齢により蓄積される老化細胞が、臓器や組織の機能低下を引き起こし、さまざまな加齢性の疾患をもたらす誘因となっていることが考えられています。
このメカニズムは、マウスを用いた実験でも明らかとなっています。ある程度の老化細胞が蓄積したマウスから、老化細胞を取り除くと、臓器や組織の機能改善が見られています。
また、細胞が老化することで、細胞が作り上げている臓器の老化も見られるようになります。臓器レベルでは、次の2つのパターンが考えられています。
- 脳および神経や心筋の細胞など:最初からほとんど分裂能をもたないため、細胞の破壊によって直接臓器の老化につながる。
- これ以外のほとんどの臓器:臓器を構成するそれぞれの細胞が約50回の分裂を終え、「ヘイフリックの限界」を迎えることで、臓器全体が老化する。
実際には、臓器の老化は「臓器の機能低下」といった形で現れます。例えば胃が老化すると、胃壁細胞からの胃酸分泌量、主細胞からのペプシノーゲン分泌量が低下するだけではなく、消化管運動も低下してきます。
参考文献
- 2013年度(平成25年度)講義資料 「老化」 徳島大学医学部