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パントテン酸の働きと1日の摂取量

公開日:2016年7月25日 21時46分
更新日:2023年8月17日 13時23分

パントテン酸とは

 パントテン酸は、ビタミンのひとつです。もともと酵母の成長を促進する物質として発見されました。その後、この物質の欠乏によりラットの成長が阻害されたり、ニワトリで皮膚炎が起こったりすることが明らかになり、ビタミンとして認識されるようになりました。パントテン酸は、「至るところに存在する酸」という意味で命名されました。この名前の通り様々な食品に含まれているので、通常の食事をしている人では不足することはまずありません。

パントテン酸の吸収と働き1)2)

 パントテン酸は、コエンザイムA(補酵素A)、アシルCoA、アシルキャリアタンパク質(ACP)、4́-ホスホパンテテインの形で、細胞内に存在しており、食品として摂取されると、消化管でパントテン酸にまで消化されたのち、体内に吸収されます。

 パントテン酸は体内で活性化され、エネルギー産生の時に重要な役割を果たしている補酵素AやACPの成分となっています。補酵素AはアセチルCoAとして、クエン酸回路や脂肪酸のβ酸化などの代謝系において、脂質や糖質の代謝で重要な役割を果たすほか、からだの中で起こるきわめて多くの酵素反応に関与しています。

 また、善玉コレステロールを増やしたり、ホルモンや抗体の産生などにも関与しています。

パントテン酸の1日の摂取基準量1)

 日本人の食事摂取基準(2020年版)では、パントテン酸の1日に摂取する目安量を、18~49歳の男性で5mg、50歳以上の男性で6mg、18歳以上の女性で5mgと定めています。パントテン酸単独での大量摂取による健康被害は報告されていないため、耐容上限量は設定されていません(表1)。

表1:パントテン酸の食事摂取基準(mg/日)1)
性別男性女性
年齢等目安量目安量
0~5(月) 4 4
6~11(月) 5 5
1~2(歳) 3 4
3~5(歳) 4 4
6~7(歳) 5 5
8~9(歳) 6 5
10~11(歳) 6 6
12~14(歳) 7 6
15~17(歳) 7 6
18~29(歳) 5 5
30~49(歳) 5 5
50~64(歳) 6 5
65~74(歳) 6 5
75以上(歳) 6 5
妊婦 5
授乳婦 6
  • 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量であり、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。

 令和元年国民健康・栄養調査における日本人の1日のパントテン酸の摂取量の平均は5.65mgでした。食品群別の摂取量で見ると、穀類からの摂取量が最も多く、次いで肉類、乳類、野菜類の順に多く摂取されています3)

パントテン酸が不足するとどうなるか1)2)

 パントテン酸が欠乏すると細胞内の補酵素Aの濃度が低下するため、欠乏の初期症状としては疲れやすくなったり、食欲がなくなったり、便秘になったりといった症状が見られます。さらにめまい、頭痛、動悸、不眠などが起こり、進行すると知覚の異常、激痛(焼けるような痛み)、麻痺や副腎皮質や消化管などの臓器の機能不全、成長停止が起こります。

 しかし、パントテン酸は幅広い食品中に含まれているため、通常の食事では、欠乏症はきわめて少ないと考えられています。

 過剰症については、パントテン酸単独での過剰症の報告例はありません。2週間のあいだ、過剰のパントテン酸(遊離のパントテン酸として3,664mg)を摂取した研究でも、健康への悪影響は認められませんでした。しかし、3か月間他の薬品と一緒にパントテン酸カルシウムを大量に投与した実験では、吐き気、食欲不振、腹部の痛みを訴えた被験者がいること、動物実験においてもパントテン酸の過剰投与により、成長障害、下痢、脱毛などの健康障害が起こったことなどが報告されています。通常の食事では上昇の心配はありませんが、サプリメントなどの利用には注意が必要です。

パントテン酸を多く含む食品1)

パントテン酸が多く含まれている肉類・魚介類・牛乳などの食品の写真。パントテン酸は体内で活性化され、エネルギー産生の時に重要な役割を果たしているコエンザイムAの成分です。日本人の1日のパントテン酸の摂取量の平均は5.50mgで、幅広い食品から摂取されている。

 パントテン酸はPantothenic acidの和訳で、"pan"はギリシア語で"いたるところ"、"どこでも"を意味します。そのため、パントテン酸は自然界に広く分布している酸であることから、パントテン酸と命名されました。

 パントテン酸は、肉類、きのこ類、乳類、魚介類、豆類などに多く含まれていますが、名前のごとく様々な食品に広く含まれています。酸、アルカリ(重曹など)の存在下では熱に弱いため、調理法には注意する必要があります。パントテン酸は、食品中に広く含まれているほか、腸内細菌によっても作られ、体内に吸収されて、利用されるため、通常の食事をしていればまず不足することはありません。ただし、コーヒーなどのカフェインを含む飲み物やアルコールを多く摂取する人は、パントテン酸を多く消費するため、多めに摂取するようにしましょう。

 一般的な食品スーパーなど身近なところで購入できる食品で、調理しやすく、日常的に摂取しやすい食品からパントテン酸を多く含む食品を表2から表6にまとめました。

表2:肉類に含まれるパントテン酸量(mg)(可食部100g当たり)4)5)より作成
食品名パントテン酸量(mg)食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量)
にわとり 肝臓 生 10.00 1人前:100g
ぶた スモークレバー 7.28 1食分:100g
ぶた 肝臓 生 7.19 1人前:100g
うし 肝臓 生 6.40 1人前:100g
にわとり 心臓 生 4.41 1個:15~20g
ぶた 心臓 生 2.70 1人前:100g
表3:きのこ類に含まれるパントテン酸量(mg)(可食部100g当たり)4)5)より作成
食品名パントテン酸量(mg)食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量)
乾しいたけ 乾 8.77 大1個:5g
ひらたけ 生 2.40 1パック:100g
まつたけ 生 1.91 中1本:30g
マッシュルーム 生 1.54 生1個:10g
えのきたけ 生 1.40 1袋:100g
なめこ 株採り 生 1.29 1袋:100g
  • 可食部とは、食品全体あるいは購入形態から廃棄部位(いしづき)を除いたものです。
表4:乳類に含まれるパントテン酸量(mg)(可食部100g当たり)4)5)より作成
食品名パントテン酸量(mg)食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量)
ナチュラルチーズ ブルー 1.22 1切れ:18g
ナチュラルチーズ エメンタール 0.72 1切れ:18g
普通牛乳 0.55 コップ1杯:200g
ナチュラルチーズ リコッタ 0.52 大さじ1:13g
ナチュラルチーズ パルメザン 0.50 6g
ヨーグルト 全脂無糖 0.49 210g
表5:魚介類に含まれるパントテン酸量(mg)(可食部100g当たり)4)5)より作成
食品名パントテン酸量(mg)単位食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量)
すけとうだら たらこ 生 3.68 1腹(小) 1腹(小):50g
くろあわび 生 2.44 1個(むき身) 1個(むき身):150g
しろさけ イクラ 2.36 大さじ1 大さじ1:18g
うなぎ 養殖 生 2.17 中1尾 中1尾:150~200g
ししゃも 生干し 生 1.95 1尾 1尾:12~20g
にじます 淡水養殖 皮つき 生 1.63 1切れ 1切れ:80~150g
  • 可食部とは、食品全体あるいは購入形態から廃棄部位(頭部、内臓、骨、ひれなど)を除いたものです。
表6:豆類に含まれるパントテン酸量(mg)(可食部100g当たり)4)5)より作成
食品名パントテン酸量(mg)食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量)
挽きわり納豆 4.28 1個:30~50g
糸引き納豆 3.60 1個:30~50g
きな粉 全粒大豆 黄大豆 1.01 大さじ1:6g
湯葉 干し 乾 0.55 乾1枚:4.5g
あずき 全粒 ゆで 0.43 1カップ:170g
蒸し大豆 黄大豆 0.34 1パック:100g

食品に含まれる成分について

 食品に含まれる成分は、食品成分データベース 文部科学省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)から検索が行えます。

 食品成分データベースは、「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をデータソースとして、食品成分に関するデータをインターネットを通じて提供しているものです。

 下記のようなさまざまな情報を知ることができます。

  • 日・月・年単位の期間内で検索の多い食品のアクセスランキング
  • 各栄養素を多く含む食品成分ランキング
  • 食品群名/食品名、可食部100gあたりの成分表(一般成分-無機質-ビタミン類-アミノ酸-脂肪酸-炭水化物-有機酸等)など食品の詳細について掲載。重量を変更し、お好みの量で表示が可能
  • 日常の食生活において複数の食品を組み合わせた場合の成分値の表示が可能

複数の食品の成分を検索する方法

 複数の食品の成分を検索する方法についてご紹介します。

  1. 「フリーワードで検索」において食品名を入力するとワードに合致する食品がチェックリストで表示されます。本来検索したい食品以外も表示される場合がありますので、該当する食品を選択してください。
  2. 検索結果で表示される成分項目は、一般成分の基本成分である廃棄率、エネルギー(kcal)、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分です。一般成分の基本成分のみの表示は、「結果を表示」ボタンを押してください。重量は変更ができますので、摂取する量を入力し重量換算を行ってください。
    ※灰分:
    一定条件下で灰化して得られる残分で、食品中の無機質の総量を意味する。また、水分とともにエネルギー産生に関与しない一般成分として、各成分値の分析の確からしさを検証する際の指標のひとつとなる。食品成分表に記載される数値の測定規準としては、550℃で残存炭素がなくなり、恒量となるまで灰化すると規定されている。
  3. 一般成分に追加して表示したい成分がある場合は、「表示成分選択」ボタンから、食品を追加したい場合は「フリーワードで検索」ボタンから検索し、追加することができます。

参考文献

  1. 日本人の食事摂取基準(2020年版)各論 ビタミン(水溶性ビタミン) 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  2. 日本人の食事摂取基準を改定するためのエビデンスの構築に関する研究 9.パントテン酸の食事摂取基準を策定するための資料 平成20年度厚生労働科学研究費補助金事業(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 令和元年国民健康・栄養調査 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 日本食品標準成分表・資源に関する取組 文部科学省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 香川明夫(監修):八訂 食品成分表2021. 女子栄養大学出版部, 東京, 2021.

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