ビオチンの働きと1日の摂取量
公開日:2016年7月25日 21時45分
更新日:2023年8月17日 13時25分
ビオチンとは
ビオチンはビタミンB群に属する水溶性のビタミンで、オランダの研究者ケーグルが、酵母の増殖に必要な因子として発見され、ビオチンと名づけられました。また、その後、マウスによる研究により、皮膚の炎症を防止する因子であることが発見され、ビタミンHと名づけられました。現在は、最初に発見されたときのビオチンという名前が一般的です。水やアルコールに溶けやすく、熱、光、酸に対しては安定ですが、アルカリに対しては不安定です。
ビオチンの吸収と働き1)
ビオチンは、生体内では、ほとんどがたんぱく質と結合した状態で存在します。消化の過程でたんぱく質が分解すると、ビオチンが遊離し、主に空腸から吸収されます。
体内では、ビオチンは糖代謝に関与するピルビン酸カルボキシラーゼ、脂肪酸代謝に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼやプロピオニルCoAカルボキシラーゼ、アミノ酸の代謝に関与する3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼの補酵素として、エネルギーをつくりだす手助けをしています。また、皮膚や粘膜の維持、爪や髪の健康に深く関わっているビタミンで、不足するとアトピー性皮膚炎や脱毛などの皮膚症状や食欲不振、うつなどの症状が現れます。
ビオチンの1日の摂取基準1)
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、ビオチンの一日の摂取の目安量を18歳以上の男女とも50㎍としています。水溶性ビタミンであり、過剰に摂取しても尿として排出されやすく、過剰摂取による健康被害が報告されていないことから、耐容上限量は設定されていません(表1)。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目安量 | 目安量 |
0~5(月) | 4 | 4 |
6~11(月) | 5 | 5 |
1~2(歳) | 20 | 20 |
3~5(歳) | 20 | 20 |
6~7(歳) | 30 | 30 |
8~9(歳) | 30 | 30 |
10~11(歳) | 40 | 40 |
12~14(歳) | 50 | 50 |
15~17(歳) | 50 | 50 |
18~29(歳) | 50 | 50 |
30~49(歳) | 50 | 50 |
50~64(歳) | 50 | 50 |
65~74(歳) | 50 | 50 |
75以上(歳) | 50 | 50 |
妊婦 | 50 | |
授乳婦 | 50 |
- 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量であり、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。
- 摂取基準量の単位㎍は100万分の1グラムを表します。
ビオチンが不足するとどうなるか1)
ビオチンは、糖の代謝に必要なピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。ピルビン酸カルボキシラーゼは、ピルビン酸から、肝臓や腎臓での糖新生に必須のオキサロ酢酸を作り出す酵素です。そのため、ビオチンが欠乏しオキサロ酢酸が十分に作られないと、糖代謝が正常に行われず、乳酸が蓄積して血液が酸性になる乳酸アシドーシスになります。
また、ビオチンが不足すると、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症のほか、インスリンの分泌能が低下し1型および2型の糖尿病のリスクが高まることが知られています。そのほか、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂鬱感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなど、さまざまな症状が現れます。
ビオチンはいろいろな食品に含まれているうえに、腸内細菌によっても合成されるので、通常の食生活では欠乏することはないと考えられます。しかし、遺伝的に体内でビオチンを再生して再利用するための酵素や、ビオチンを活性化するための酵素が欠損している場合は、欠乏症状が現れます。
ビオチンの過剰摂取による健康被害は報告されていません。
ビオチンを多く含む食品
ビオチンは、きのこ類、肉類、種実類、卵類、魚介類に多く含まれています。
多量の生卵を摂取した場合には、卵白中のアビジンという物質がビオチンと結合して吸収を妨げ、欠乏することがあります。しかし、卵を加熱することにより、アビジンが変性し、その影響を抑えることができますので、生卵を大量に摂取しない限り欠乏の心配はいらないでしょう。
一般的な食品スーパーなど身近なところで購入できる食品で、調理しやすく、日常的に摂取しやすい食品からビオチンを多く含む食品を表2から表6にまとめました。
食品名 | ビオチン量(㎍) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
乾しいたけ 乾 | 41.0 | 大1個:5g |
きくらげ 乾 | 27.0 | 乾10個:5g |
まいたけ 生 | 24.0 | 1パック:100g |
ひらたけ 生 | 12.0 | 1パック:100g |
えのきたけ 生 | 11.0 | 1袋:100g |
マッシュルーム 生 | 11.0 | 生1個:10g |
ぶなしめじ 生 | 8.7 | 1パック:100g |
- 可食部とは、食品全体あるいは購入形態から廃棄部位(いしづき)を除いたものです。
食品名 | ビオチン量(㎍) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
にわとり 肝臓(レバー) 生 | 230.0 | 1人前:100g |
ぶた スモークレバー | 130.0 | 1食分:100g |
ぶた じん臓(マメ) 生 | 100.0 | 1人前:100g |
うし じん臓(マメ) 生 |
90.0 | 1人前:100g |
ぶた 肝臓(レバー) 生 | 80.0 | 1人前:100g |
うし 肝臓(レバー) 生 | 76.0 | 1人前:100g |
食品名 | ビオチン量(㎍) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
らっかせい バターピーナッツ | 96.0 | 10粒:10g |
らっかせい 乾 大粒種・小粒種 | 92.0 | 殻付き10粒:25g |
ヘーゼルナッツ フライ 味付け | 82.0 | 1カップ:110g |
ひまわり フライ 味付け | 80.0 | 1食分:10g |
アーモンド フライ 味付け | 60.0 | 10粒:14g |
食品名 | ビオチン量(㎍) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
鶏卵 卵黄 生 | 65.0 | 1個:16g |
鶏卵 全卵 生 | 24.0 | 1個(Mサイズ殻付き):60g |
うずら卵 全卵 生 | 19.0 | 1個:10~12g |
鶏卵 卵白 生 | 6.7 | 1個分:35g |
食品名 | ビオチン(㎍) | 食品の目安重量(廃棄部分を含む)(単位:重量) |
---|---|---|
あさり 生 | 23.0 | 10個(殻付き):80g |
まがれい 生 | 22.0 | 1尾:200g |
缶詰 アンチョビ | 22.0 | 1尾分:15g |
かたくちいわし 生 | 18.0 | 1尾:15g |
ししゃも 生干し | 18.0 | 1尾:12~20g |
すけとうだら たらこ 生 | 18.0 | 1腹(小):50g |
まいわし 生 | 15.0 | 1尾:80g |
- 可食部とは、食品全体あるいは購入形態から廃棄部位(頭部、内臓、骨、ひれなど)を除いたものです。
食品に含まれる成分について
食品に含まれる成分は、
から検索が行えます。食品成分データベースは、「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をデータソースとして、食品成分に関するデータをインターネットを通じて提供しているものです。
下記のようなさまざまな情報を知ることができます。
- 日・月・年単位の期間内で検索の多い食品のアクセスランキング
- 各栄養素を多く含む食品成分ランキング
- 食品群名/食品名、可食部100gあたりの成分表(一般成分-無機質-ビタミン類-アミノ酸-脂肪酸-炭水化物-有機酸等)など食品の詳細について掲載。重量を変更し、お好みの量で表示が可能
- 日常の食生活において複数の食品を組み合わせた場合の成分値の表示が可能
複数の食品の成分を検索する方法
複数の食品の成分を検索する方法についてご紹介します。
- 「フリーワードで検索」において食品名を入力するとワードに合致する食品がチェックリストで表示されます。本来検索したい食品以外も表示される場合がありますので、該当する食品を選択してください。
- 検索結果で表示される成分項目は、一般成分の基本成分である廃棄率、エネルギー(kcal)、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分※です。一般成分の基本成分のみの表示は、「結果を表示」ボタンを押してください。重量は変更ができますので、摂取する量を入力し重量換算を行ってください。
- ※灰分:
- 一定条件下で灰化して得られる残分で、食品中の無機質の総量を意味する。また、水分とともにエネルギー産生に関与しない一般成分として、各成分値の分析の確からしさを検証する際の指標のひとつとなる。食品成分表に記載される数値の測定規準としては、550℃で残存炭素がなくなり、恒量となるまで灰化すると規定されている。
- 一般成分に追加して表示したい成分がある場合は、「表示成分選択」ボタンから、食品を追加したい場合は「フリーワードで検索」ボタンから検索し、追加することができます。
参考文献
- 香川明夫(監修):八訂 食品成分表2021. 女子栄養大学出版部, 東京, 2021.