第4回 スキヤキ
公開日:2019年6月28日 09時00分
更新日:2019年6月20日 14時16分
永山 久夫(ながやま ひさお)
食文化史研究家
綜合長寿食研究所所長
人生100年時代を支える肉料理
超長寿時代である。
「人生100年の時代」になってきた。そこで欠かせないのが、タンパク質だ。肉類であり、その料理法のひとつがスキヤキだ。
外国からの観光客にも人気があり、スキヤキを食べて、日本人の長寿の理由が理解できたという外国人も多い。スキヤキは確かに美味なだけでなく、栄養のバランスもとれている。
平の鉄鍋に薄切りにした和牛の肉とネギ、シュンギク、シイタケ、シラタキ、場合によっては焼き豆腐なども入れ、ちょっと甘めの醤油味で煮ながら、生煮え状態で口に運ぶ。
煮すぎると、肉は硬くなって味が落ちるし、野菜類も味が濃くなってまずくなるだけではなくビタミンCも少なくなってしまう。
和牛の霜降り肉は高価だから、一刻も油断はならない。生煮えくらいで口に運ぶと、肉はあくまで柔らかで美味至高であり、上手にタンパク質もとれる。
「スキヤキ」が都会で流行するのは、明治の文明開化の後で、前身は江戸の幕末に出現した「肉鍋」である。
牛肉に野菜を入れて長寿効果アップ
肉鍋屋の料理は味がよく、冬などには体もあたたまるところから、大繁昌した。
「およそ、肉にはネギがよく調味する」とし、「上戸(じょうご)は肉鍋で酒を飲み、下戸(げこ)はそれで飯を食う」と江戸後期の『江戸繁昌記』に出ている。現在のスキヤキと同じで、最初はイノシシなどであったが、明治になって牛肉となった。
肉鍋の初期はネギだけであったが、明治に入り脂身の多い牛肉となって、脂肪のとりすぎを警戒し、ネギに加えコンニャクやその他の野菜なども中和剤として入れるようになった。
平鍋で牛肉といっしょに煮ると、野菜やコンニャク、豆腐などにも味がしみて、美味となった。古くから、山菜、野菜類を日常的に食べてきた日本人は、野菜の健康効果をよく知っていた。
コンニャクにも、ネギやシイタケにも食物繊維が豊富だから、肉に含まれている健康によくない脂肪などを体内にため込むことなく排泄させるために、野菜をいっしょに食べたのである。日本人の知恵だ。
日本人の平均寿命は、これからものび続け、この超長寿時代を思う存分に楽しむためにも、若返り成分のタンパク質の摂取は欠かせない。年をとっても肉などを通して、タンパク質を補給することが、免疫力を強化して、老化の進行をおくらせる近道と思ったほうがよいと思う。
高齢者の栄養不足が問題になっている。タンパク質が不足すると、血液中のアルブミンというタンパク質が減り、体の機能が低下し、老化が促進されてしまうという。ご年輩の方々こそ肉を食べるべきではないだろうか。野菜といっしょに知恵ある食べ方をして、日本の長寿パワーを世界に発信したい。
(2018年1月発行エイジングアンドヘルスNo.84より転載)
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84