第1回 湯気のぼるみそ汁の長寿効果
公開日:2018年11月13日 11時35分
更新日:2019年2月 1日 20時53分
永山 久夫(ながやま ひさお)
綜合長寿食研究所所長
金儲けよりも健康管理
「福と禄(ろく)とは及びもないが、寿ならばともかく」。江戸時代の禅僧として有名な白隠禅師のことばである。
財産や金は、それを得ようとしても、なかなか思い通りにいくものではない。しかし、「寿」、つまり長寿ならば、その気になって養生すれば、金儲けほどむずかしくはないという意味。
自分の健康管理は、自分でしかできないのである。その中で、もっとも重要なのは、「食」であるのはいうまでもない。
「今日のよい食、明日の100歳」ということわざもある。現在、日本人は世界でもトップクラスの長寿民族である。日本人の古くからの食習慣が、長寿に結びついているのだ。それが、「和食」である。
外国の研究者が指摘するように、和食文化には長寿を生む要素がかくされている。世界的に和食が脚光を浴びているのも、美味や美観もあるが、長寿効果への関心が高まっているためではないだろうか。
「和食」の中心は、ご飯とみそ汁。ご飯は米を炊くだけだから、主食として一年中同じであるが、みそ汁の具は季節ごとに毎日のように変化する。
春、夏、秋、冬の野菜を中心に、海藻、豆腐、油揚げ、ときどき魚や肉、卵などが入ったりする。おばあちゃんが、「具を三種以上使うと、みそ汁がうまくなる」とよくいうが、確かに具からもダシが出る。
おすすめは"とん汁"
みそ汁の調味料は、タンパク質の豊富な大豆を麹で発酵させたみそで、アミノ酸のかたまり。そこへカツオ節や煮干など動物性アミノ酸の多いダシが入り、具のうま味が加わるわけだから、美味なのは当たり前なのだ。
みその大豆アミノ酸の中でも注目されるのがトリプトファンで、「幸せホルモン」と呼ばれる脳内物質のセロトニンの原料。多幸感をもたらすのがセロトニンで、心をなごやかにする神経伝達物質である。
ダシのよく利いた湯気立ちのぼるみそ汁をすすると、幸せ気分が心に満ちて思わずニッコリしてしまうのは、トリプトファン効果かもしれない。幸せ気分になると、免疫力も強化され、ぐっすり安眠できることもわかっている。したがって、長寿力もつくのだ。
みそには、女性ホルモンとよく似た働きをするイソフラボンも豊富。若返りの成分としても脚光を浴び、がんを防ぐ働きでも注目されている。
具だくさんなら、野菜や海藻、きのこ、豆腐などから減塩効果のカリウムもしっかりとれるし、食物繊維も多いから通じもスムーズになる。
具だくさんのみそ汁を一日に二杯くらいとることによって健康寿命を延ばしたい。おすすめは豚肉入りのみそ汁。つまり、とん汁だ。シニアに不足しがちな動物性タンパク質もたっぷりとれる。
(2017年4月発行エイジングアンドヘルスNo.81より転載)
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.81