多系統萎縮症の診断
公開日:2016年7月25日 12時00分
更新日:2019年2月 1日 20時34分
多系統萎縮症の診断とは
多系統萎縮症は、血液や尿、髄液などの一般検査では、異常は見られないとされており、頭部MRIや心筋シンチグラフィー、その他の検査により、診断をつけるための情報を集めていくことになります。
頭部MRI検査では、小脳や橋とよばれる部分の萎縮、基底核の萎縮("スリットサイン"という特徴的な画像所見があります)の他、水平断面で見たときには"十字サイン"という特徴的な画像所見も見られます。病初期や病変の分布によっては、異常所見がみられないこともあるため、時期を変えて検査をすることが推奨されています。
心筋シンチグラフィーは、パーキンソン病と多系統萎縮症の鑑別に役立ちます。似た様な症状があらわれるパーキンソン病や、レビー小体型認知症では、心筋におけるMIBGという薬の取り込みの低下がみられますが、多系統萎縮症では、このような所見がみられませんので、診断の有用な手掛かりとなります。
この他にも、head up tilt試験※1を行い、脈拍数増加の有無から起立性低血圧との鑑別診断を行ったり、残尿検査によって100ml以上の残尿がないかを調べることもあります。
- ※1 head up tilt試験:
- head up tilt試験とは、傾斜可能な台の上に患者さんを固定し、他力的に起立をさせて、失神する状態を誘発することで、自律神経の調節異常が起こりやすい状態にあるかどうかを確認する試験のこと
多系統萎縮症の診断基準
多系統萎縮症の臨床診断の診断基準として、2008年に改訂された"ギルマンらによる診断基準"が用いられます。"ギルマンの診断基準2008年版"では、
- 30歳以上の発症である
- 遺伝ではなく孤発性(時々、散発的に発生すること)である
- 進行性の経過をたどる
- 排尿障害(頻尿、尿失禁、排尿困難、残尿)または、起立性低血圧の症状 が存在する
などがあり、パーキソニズムまたは小脳症状(表1)が出現していると、確定診断となります。
分類 | 主な症状 |
---|---|
小脳症状 |
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パーキソニズム |
|
自立神経障害 |
|
線条体黒質変性症の診断
発病初期の線条体黒質変性症は、パーキソニズム症状に対して、抗パーキンソン病薬での効果がみられるため、パーキンソン病との区別が難しいといわれています。しかし、抗パーキンソン病薬が効かなくなり、小脳失調症状や自律神経症状が出現してくると、線条体黒質変性症の疑いが高くなります。
MRIの所見では、多系統萎縮症に特徴的な小脳および橋の萎縮、橋部分での十字状の高信号(十字サイン)、中小脳脚部分での高信号(中小脳脚サイン)などが見られると、確定診断に近づきます。
線条体黒質変性症では、諸々の検査結果などから、パーキンソン病を否定することが、診断の近道となります。
オリーブ橋小脳変性症(OPCA)の診断
オリーブ橋小脳変性症(OPCA)の診断は、次の4つの項目に該当するかどうかが基本となります。
- 成年期以降に発病している
- 孤発性である(稀な例は除く)
- 発病時の主症状が小脳性運動失調である
- 画像診断で小脳と脳幹の萎縮が見られる
似た様な症状がみられる、成年期に発病する遺伝性脊髄小脳変性症、皮質小脳萎縮症、二次性小脳萎縮症などとの違いを確認し、確定診断となります。
オリーブ橋小脳変性症は、発病時の症状のみで上記のような他の疾患との鑑別することは難しいため、症状のみでは診断が確定しないことが多々あります。より慎重な経過観察、画像検査などにより、確定診断となります。
シャイ・ドレーガー症候群の診断
シャイ・ドレーガー症候群の典型例としては、成年期以降に自律神経症状が顕著に表れて発病する、というものです。病状としては、慢性進行性の経過をとり、徐々に小脳症状やパーキンソニズムなどの症状がみられるようになります。
頭部の画像検査では、小脳と脳幹部の萎縮が確認されます。中には、自律神経障害のみで経過し、小脳症状やパーキンソニズムなどの症状を伴わないケースもありますので、慎重に経過観察をして、確定診断する必要があります。