多系統萎縮症の治療
公開日:2016年7月25日 11時00分
更新日:2019年2月 1日 20時34分
多系統萎縮症の治療法とは
多系統萎縮症の治療は、現在のところ、根治的(完全に治す)治療法は、確立されていません。基本的には、各症状に対する治療をおこなっていきます。
パーキンソニズムや自律神経障害に対しては、薬物治療を行うものの、症状は徐々に進行してしまうことが多いです。各症状に合わせた治療方法は以下のようになります。
自律神経障害
- 患者さんの状態に合わせて治療を行う
- 起立性低血圧には、弾性ストッキングを着用する
- 薬物療法を行う場合、ミドドリン塩酸塩や、ドロキシドパ、メチル硫酸アメジニウムなどの薬剤を使用
膀胱障害
- 無抑制膀胱には、抗コリン作用のあるオキシブチニン塩酸塩や、プロピベリン塩酸塩などの薬剤を使用する
- 排尿括約筋協調不全には、タムスロシン塩酸塩などを使用する
無緊張性膀胱
- コリン作用があるベタネコール塩化物、ジスチグミン臭化物、シナプス後α₁受容体遮断作用のあるウラピジルや、プラゾシン塩酸塩などを使用する
- 残尿が増加し、尿閉となった症例では、しばしば間欠的自己導尿や膀胱カテーテルの留置が必要となる
夜間多尿
- 抗利尿ホルモン(ADH)を測定し、低下している場合は、ADHホルモンの点鼻薬を使用する
睡眠時呼吸障害
- 気道内の状態から病状を把握し、必要に応じて、持続陽圧呼吸(CPAP)や、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入する
- 突然死の予防のために、気管切開をすることもある
小脳症状
- 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(内服薬あるいは注射薬)などを使用する
- 小脳症状に対しては、リハビリテーションを治療に取り入れることもある
線条体黒質変性症の治療
特に有効な治療法は見つかっておらず、対処療法が基本となります。
初期の場合、線条体黒質変性症の主な症状であるパーキンソニズム症状(パーキンソン病にみられるような症状)に対しては、抗パーキンソン病薬がある程度有効となる場合があります。そのため、まずは抗パーキンソン薬を使用し、パーキンソン症状に対する治療を、積極的に行うケースが多くなります。症状が進行し、自律神経症状や小脳失調症が加わってきたときには、それぞれの対症療法を行います。
呼吸障害に対しては、持続陽圧呼吸(CPAP)や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入し、自発呼吸を助けます。高度な嚥下(えんげ)障害が起こると、胃瘻(いろう)が必要となることも多くなります。リハビリテーションは、運動機能の維持に有効であるため、積極的に行い、日常生活を工夫していくことで、寝たきり状態になる時間を少しでも遅らせることが、治療のポイントです。
多系統萎縮症 オリーブ橋小脳変性症(OPCA)の治療
オリーブ橋小脳変性症も、進行を止めたり、発症を阻止するような、根治的治療法は解明されていません。オリーブ橋小脳変性症は小脳症状を主症状とすることから、主に小脳性運動失調に対する対症療法が行われます。
小脳性運動失調には、短期集中のリハビリテーションが有効とされていることから、ADLの障害度により、リハビリテーションを積極的に取り入れていきます。
多系統萎縮症 シャイ・ドレーガー症候群の治療
シャイ・ドレ―ガー症候群にも、根治的 な治療法はなく、対症療法が中心となります。症状として顕著に表れやすい起立性低血圧症に対しては、臥位(がい:横たわっている状態)から急に起き上がらないようにする、弾性ストッキングなどを着用するなどの生活指導が行われます。
排尿、食事、入浴などによって血圧が低下しやすいため、特に注意が必要です。起立性低血圧の治療薬としては、昇圧剤(血圧を上げる効果がある薬)を使用します。
また、疾患により発汗が低下し、体温調整ができなくなることもあるため、体の中に熱がこもってしまうことがあります。特に夏期には、生活環境を涼しく整えるなどの配慮が必要です。
排尿障害により自力排尿が困難である場合には、定期的にカテーテルを使用した導尿も有効ですが、起立性低血圧を併発している時には、導尿後の血圧低下に注意が必要です。神経因性膀胱という症状がみられる場合は、薬物治療が有効なケースもあります。
声帯外転麻痺による呼吸障害の場合、夜間に突然死をきたすこともあるため、持続陽圧呼吸(CPAP)や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の導入、もしくは気管切開を行ないます。しかし、気管切開をしていても、中枢性の無呼吸によって、突然死する可能性はあります。