健康長寿ネット

健康長寿ネットは高齢期を前向きに生活するための情報を提供し、健康長寿社会の発展を目的に作られた公益財団法人長寿科学振興財団が運営しているウェブサイトです。

高齢期の住まい方

公開日:2018年5月 8日 09時00分
更新日:2023年6月 8日 10時59分

高齢期の住まい方とは

 自立していきいきとした生活を送ることができることが生活の質(QOL)を高め、健康維持・増進を促します。どのような生活を送るのかということは、どのような環境で生活するかということに影響を受けており、住環境は健康にも深くかかわってきます。

 良質な睡眠をとることで心身は休まり、翌日の活動的な生活につながります。入浴や洗面、洗濯、掃除を行って清潔を維持し、調理を行い、食事をとって健康を維持していきます。生活の場となる住環境が快適に過ごせる場であり、安全かつ活動的に過ごすことができる住環境が整っていることで明日の健康がつくられていくのです。

室内の環境整備

 高齢者がとくに注意したいのは、家庭内の事故で多い冬場のヒートショックと夏場の熱中症です。室温は空調などを利用して一年を通して適温に保ち、室内の温度差が生じないように冬場はお風呂に入る前に脱衣所や浴室を温めておきましょう。夏場は風通しを良くして熱がこもらないように配慮し、こまめに水分補給を行うことも大切です。

 国土交通省が発表している調査結果では、室温が低くなると循環器疾患の発症に関連の深い血圧上昇がみられ、住宅の断熱化を施すことにより血圧低下がみられる1)ことが言われています。高断熱の住宅が健康住宅として注目を集めていますが、カビやダニの発生要因となる湿度や二酸化炭素などの汚染物質濃度が高まらないようにこまめに換気を行い、空気環境も整える必要があります。

 室内の照明などの光環境と室内での転倒との関係2)や、光環境や騒音などの音環境と睡眠との関係も言われています。

 また、家庭内で転倒して骨折し、要介護状態となる高齢者も多く、転倒を予防し、安全に移動できる住環境であることも大切です。しかし、階段や段差を一人で使用できている高齢者の住居の段差まで、すべてなくしてしまうことが自立していきいきとした生活を支えることにはなりません。

 段差や階段などのバリアがあったとしても、手すりの設置で安全に移動できているのであれば、多少の障害があった方が筋力や体力、バランス能力を維持でき、より自立した生活を支えるために役立っていることもあるのです。すべての人に同じようにバリアをなくすのではなく、個々のケースに対してどのような手段を用いれば安全に生活しながら、今よりも快活に過ごすことができるかを考えて住環境を整えていくことが大切です。

写真:高齢者にとって段差や階段などのバリアがあったとしても、手すりの設置で安全に移動できているのであれば、多少の障害があった方が筋力や体力、バランス能力を維持でき、より自立した生活を支えるために役立っていることもあることを示す写真。

高齢者が健康に過ごすことのできるまちづくり

 国土交通省住宅局が実施した住生活総合調査によると、65歳以上の高齢者世帯が考える住宅及び居住環境に関して重要と思う項目で最も割合が高かったのが、「日常の買い物、医療・福祉・文化施設などの利便」3)です。(図1、表1)この結果から、日常的な買い物や通院、趣味や余暇を楽しむための施設への移動について何らかの不便や不満を抱えている高齢者が多いことがわかります。昔からあった商店街などがなくなっていき、遠くのスーパーまで買い物に出かけなければならない状況や大都市以外では自動車を運転しなければ買い物が行えないという地域性などの背景もあります。買い物や通院、趣味や余暇活動のための外出が制限されると社会生活の機会が少なくなり、身体機能・認知機能の低下につながります。

図1:65歳以上の高齢者世帯が考える住宅及び居住環境に関して重要と思う項目で最も割合が高かったのが、「日常の買い物、医療・福祉・文化施設などの利便」であったことを示す棒グラフ。
図1:高齢者世帯が考える住宅及び居住環境に関して重要と思う項目3)
表1:高齢者世帯が考える住宅及び居住環境に関して重要と思う項目3)
項目高齢者世帯(単身・夫婦)(参考)全世帯
日常の買い物、医療・福祉・文化施設などの利便(環) 35.9% 34.4%
地震時の住宅の安全性(住) 32.6% 31.8%
災害時の避難のしやすさ(環) 28.2% 26.9%
治安、犯罪発生の防止(環) 27.9% 35.5%
福祉、介護などの生活支援サービスの状況(環) 25.6% 18.2%

 移動販売や宅配サービス、コミュニティバスやタクシーサービスなどが整備されている地域もありますがまだまだ困っている方も多いのが現実です。

 住み慣れたまちで暮らしていきたいという高齢者は多く(図2、表2)4)、安心して住めるまちづくりとして、高齢者が在宅で医療・看護・介護サービスを受ける体制が整うことと同時に、高齢者自身が地域の生活支援などの役割を担い、生きがいをもっていきいきと生活できることが期待されています。社会において役割を持ち、社会参加することは高齢者が健康に生活することにつながります。

図2:住み慣れたまちで暮らしていきたいという高齢者は多いことを示す棒グラフ。
図2:年を取って生活したいと思う場所はどこですか(ひとつだけ)4)
表2:年を取って生活したいと思う場所はどこですか(ひとつだけ)4)
場所全体40~44歳45~49歳50~54歳55~59歳60~64歳65~69歳70~74歳75歳以上
自宅 72.2% 70.4% 63.2% 68.9% 74.3% 69.7% 78.0% 76.5% 73.8%
新しい状況に合わせて移り住んだ、高齢者のための住宅
(バリアフリー対応住宅や、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなど)
8.7% 11.6% 7.9% 10.4% 8.0% 9.6% 7.0% 7.0% 9.7%
グループホームのような高齢者などが共同生活を営む住居 4.4% 4.0% 4.9% 3.7% 2.7% 5.2% 3.9% 4.9% 5.4%
特別養護老人ホームや老人保健施設などの施設 2.5% 1.8% 3.0% 2.1% 2.0% 1.7% 1.4% 4.2% 2.3%
病院などの医療機関 0.6% 0.6% 1.1% 0.0% 1.0% 0.9% 0.0% 0.5% 1.3%
その他 0.4% 0.9% 0.5% 0.3% 0.0% 0.9% 0.2% 0.3% 0.3%
わからない 11.2% 10.7% 19.3% 14.6% 12.0% 12.0% 9.4% 6.6% 7.0%

 買い物ができなくなれば食事を提供するといった過剰な援助では食事のメニューを考え、必要な食材をピックアップし、店で実際に商品を見ながら選んで調理するといった活動や食事をつくる役割までも奪ってしまうこととなります。全てを介助・援助するのではなく、困っていることは援助し、できることは社会参加を促していくという高齢者の主体性を促す取り組みが求められます。

高齢者向けの住宅

 介護やサービスを受けながら安全に安心して生活できる高齢者の住まいとして、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症高齢者グループホームがあります。それぞれ対象者や受けられるサービスが異なり、個人の状況、目的にあった住宅の選択と高齢者の個々のニーズを満たし、自分らしく生きることのできる住まいの充実が求められます。

 「社会や環境下の適応力は、加齢とともに低下する傾向にあります。」5)環境への適応力が低下した状態での住み替えや大幅な住宅改修、サービスの導入などは混乱を招くことや閉じこもりにつながることもあります。住み替えなければならない状況となってから動き出すのではなく、健康なうちから将来の住まいや支援の計画を立て、新しい環境や社会に適応できるうちに少しずつ高齢期に向けた生活環境を整えていくことが大切です。

参考文献

  1. 住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告(第2回) 国土交通省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます) 
  2. 住宅内環境と虚弱高齢者の転倒に関する実態調査 林侑江他 空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 平成25年 住生活総合調査(速報集計)結果 国土交通省(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 平成28年版厚生労働白書 −人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える−(本文) 厚生労働省(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. 福祉住環境コーディネーター検定試験3級公式テキスト 東京商工会議所編 134p

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