住居と健康長寿の関連
公開日:2018年5月 8日 13時00分
更新日:2024年9月10日 10時07分
健康長寿と住居環境の関連について
日本では冬場の入浴中の事故死が入浴中の事故死全体の約半数を占めています。消費者庁によると厚生労働省の人口動態統計で浴槽内の溺死以外の死因と判断された症例も含めると、入浴中に急死した人は1万9,000人にも及ぶと推計されています1)。冬場の入浴中の事故死は住居の室内間による温度差と、冬場の室内温度の低さが要因として考えられております。
また、気温の低い冬場に血圧は上昇しやすく、高血圧は心疾患、脳血管疾患などの循環器疾患を引き起こす危険因子となります。循環器疾患は我が国の死因の上位を占めており(表1)、循環器疾患の月別死亡数は冬場に多いことがわかります(グラフ1)。これらより、室温の低さと健康との間に関連があることが容易に考えられます。
年 | 平成24年 | 平成24年 | 平成24年 | 平成23年 | 平成23年 | 平成23年 |
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死因 | 死亡数 | 死亡率 | 死亡総数に占める割合(%) | 死亡数 | 死亡率 | 死亡総数に占める割合(%) |
全死因 | 1,256,359 | 997.5 | 100.0 | 1,253,066 | 993.1 | 100.0 |
悪性新生物 | (1)360,963 | 286.6 | 28.7 | (1)357,305 | 283.2 | 28.5 |
心疾患 | (2)198,836 | 157.9 | 15.8 | (2)194,926 | 154.5 | 15.6 |
肺炎 | (3)123,925 | 98.4 | 9.9 | (3)124,749 | 98.9 | 10.0 |
脳血管疾患 | (4)121,602 | 96.5 | 9.7 | (4)123,867 | 98.2 | 9.9 |
老衰 | (5)60,719 | 48.2 | 4.8 | (6)52,242 | 41.4 | 4.2 |
不慮の事故 | (6)41,031 | 32.6 | 3.3 | (5)59,416 | 47.1 | 4.7 |
自殺 | (7)26,433 | 21.0 | 2.1 | (7)28,896 | 22.9 | 2.3 |
腎不全 | (8)25,107 | 19.9 | 2.0 | (8)24,526 | 19.4 | 2.0 |
慢性閉塞性肺疾患 | (9)16,402 | 13.0 | 1.3 | (9)16,639 | 13.2 | 1.3 |
肝疾患 | (10)15,980 | 12.7 | 1.3 | (10)16,390 | 13.0 | 1.3 |
健康にかかわる住居の要因
健康にかかわる住居の要因として、室内温度差や浴室や脱衣所の室温の低さなどに関する熱環境(温熱環境)の問題以外にも、化学物質やハウスダストなどによる空気環境の問題、乾燥・湿度・結露などの湿気の問題、音や電磁波の問題、家庭内での不慮の事故があります3)(図1)。
高齢者では健康の影響に配慮する項目として冬場の室温の差によっておこるヒートショック、夏場の住居内での熱中症、転倒などの家庭内事故を予防することが挙げられています4)。
住居の熱環境と健康
健康にかかわる住居の要因の中でも、室内の温度に関する温熱環境が健康への影響が大きいと考えられており、国土交通省では平成26年度から住宅の断熱化(年間を通して室温が適温に保たれ、室内間の温度差が少なくなる)によって健康への影響を検証する調査の支援を行っています。平成30年1月に発表された中間報告では、起床時の室温低下による血圧の上昇は高齢者ほど大きな影響を受け、室温の低い家に住む人ほど、起床時の高血圧、動脈硬化指数の高さ、心電図の異常所見が多く見られるとあります。また、住宅の断熱化によって、起床時の血圧が有意に低下し、夜間頻尿回数も有意に減少する4)ことが報告されています。
住居の温熱環境を整えることで、浴室やトイレなど室内間の温度の差によって起こるヒートショックでの死亡や、失神などによる転倒事故の軽減、冬場の循環器疾患の発症の低下による死亡や要介護者の減少が期待できると推測されます。また、夜間の頻尿回数が減少することから夜間トイレ時の転倒による健康状態の悪化も予防できるのではと考えられます。
住宅内環境と虚弱高齢者の転倒に関する実態調査では「寒冷な温熱環境がもたらす虚弱化が転倒の原因になることが示唆された」5)とあります。室温の低い環境では寒さによって身体の動きにくさを感じること、厚手の服を着ているために動きづらいこと、外出することが億劫に感じることなどから活動性が低下しやすくなります。活動性の低下は筋力や体力、バランス能力の低下を引き起こし、転倒リスクを高めます。また、外出して日光に当たる機会が減るとビタミンD不足が起こりやすく、ふらつきやつまずきにつながるリスクが高くなる6)ことも影響し、室温の低い環境では転倒が起こりやすく、健康状態への影響がみられます。
高齢者は住居内での熱中症の被害も多く、エアコンや扇風機などでの室温調整やこまめな換気、遮光カーテンやすだれの使用などで、夏場の温熱対策を行うことも大切です。
住居の光環境と健康
住居内において廊下の照明は居間と比べて暗く、居間と比べて廊下でのつまずきや滑りが起こりやすい5)という調査結果から、廊下の明るさが転倒リスクと関係していることがうかがえます。
住居の空気環境と健康
高湿度ではカビや結露、水シミが発生しやすく、持続性せきや気道過敏症、喘息様症状などの呼吸器・アレルギー性疾患との関連が言われています。低湿度では皮膚や目・鼻・喉の乾燥、風邪をひきやすくなる、喉の痛みなどの健康への影響がみられます4)。
住居の建材や家具などに使用されている化学物質による空気汚染などとそれによる健康への影響が指摘され「シックハウス症候群」と呼ばれています。症状は、めまい、吐き気、頭痛、鼻水、のどの乾燥、湿疹などです。原因として、高湿度でのカビや細菌ダニの発生、石油ストーブやガスストーブからの一酸化炭素、窒素酸化物、二酸化炭素などの汚染物質などがあります7)。
質の良い睡眠をとることのできる室内環境と健康
質の良い睡眠を十分にとることで心身の疲労が回復され、日中も活動的に過ごすことができます。睡眠の質の悪化や十分に睡眠時間を取れないと健康にも影響が及びます。良い睡眠は生活習慣病予防につながり、睡眠不足や不眠は生活習慣病のリスクを高める8)ことも言われています。質の良い睡眠をとるには室内環境を整えることも大切であり、室内温度や湿度が季節によって適切でないと、体温調節がうまくいかずに寝つきが悪くなります。寝室の光が明るすぎる、白すぎることでも睡眠の質は低下します。騒音などの音環境も睡眠に影響を及ぼしますので、健康のためには心地よい眠りが得られる室内環境を整えることも大切です。
参考文献
- 地域在住虚弱高齢者のビタミンD濃度の分布状況とビタミンD濃度と生活機能・身体機能との関連 奥野純子他 日老医誌 2007;44:634―640
- 健康な日常生活をおくるために:シックハウス症候群の予防と対策 シックハウス対策のページ