住居内の温度管理と健康維持の関係
公開日:2018年5月 8日 11時00分
更新日:2019年10月15日 10時52分
住居内の温度管理と健康維持の関係について
国土交通省の「健康維持増進住宅の研究について」では健康負荷の原因となる影響要因のひとつに熱環境の問題があげられています1)。特に、高齢者の入浴中の急死と関連が深いヒートショック※1は、気温が低くなる冬場に起こりやすく、住居内の温度管理による予防が大切となります。また、夏場に起こりやすい熱中症も住居内の温度管理による予防が必要です。
- ※1 ヒートショック:
- ヒートショックとは、急激な温度の変化によって血圧が大きく変動すること。失神や死に至ることがある。
気温の変化と血圧
ヒートショックは住居内でも特に気温が低くなる脱衣所や浴室と浴槽の中のあたたかい湯との温度差によって急激な血圧上昇が起こり、失神や死に至ります。高齢者は血圧の変化が起こりやすく、特に注意が必要です。
ヒートショックでも温度の変化と血圧の変動が問題となるように、血圧と住居内の温度との関連については、次の4つの知見が得られつつあると国土交通省の報告にあります2)。
- 冬場、起きた時の室内の温度が低いほど血圧が高くなる傾向がある。
- 高齢者ほど室温低下による血圧上昇が大きくなる。
- 断熱改修によって室温が上昇し、それに伴い血圧も低下する傾向にある
- 居間または脱衣所の平均室温が摂氏18度未満の住宅では、入浴事故リスクが高いとされる熱めの入浴をする確率が有意に高い。
厚生労働省の健康日本21では「高血圧は循環器疾患の重要な危険因子である」3)とあります。今後研究が進み、室温と血圧との関連が明確になれば、高血圧の予防に身体活動・運動、食生活と並んで室内の温度管理を整えることの重要性も広く示されることになるかもしれません。
住居内の温度差への対策
英国保健省では冬の推奨最低室温を摂氏18度4)としています。室温は部屋全体、住居全体の温度差が少なくなるように保つこともポイントです。衣服を脱いで肌を露出する脱衣場や浴室、トイレなどは小型の暖房機器を設置し、ほかの部屋との温度差を少なくしましょう。
また、同じ部屋の中でも天井付近と床付近では温度差が生まれます。窓の近くではコールドドラフト※2や冷輻射(れいふくしゃ)※3などで空気が冷やされます。床暖房やホットカーペットなどを設置して室内の上下の温度差を少なくすることや、断熱性の高いガラス、厚手のカーテンなどで冷気を室内へ入りにくくし、温度のムラを少なくすることがおすすめです。
- ※2 コールドドラフト:
- コールドドラフトとは、温かい空気が窓などで外気に冷やされ、床へと流れてくること。
- ※3 冷輻射(れいふくしゃ):
- 冷輻射とは、窓などの冷えた空気に温かい空気が熱を奪われて冷えること。
夏場の温度の上昇と熱中症
夏場の熱中症は室内でも起こります。高齢者は暑さを感じにくく、「冷房の冷たい空気が身体にあたるのが苦手」、「電気代がもったいない」などの理由から冷房を使用せずに過ごしている人も多く、住居内で熱中症になる方も少なくありません。特に、集合住宅の最上階では熱がこもりやすく、天井からの放射熱によって室温も上がり、重度の熱中症患者数が多くなります5)。
東京都「健康・快適居住環境の指針」によると、夏場の室温は摂氏25度から28度に保ち、外の気温との差は7度以内が目安6)とされています。高齢者は暑さに対する調節機能も加齢によって低下していき、水分も不足しやすくなります。室内に居ても熱中症になるリスクがあるという認識を持って、暑さを我慢せずに冷房や扇風機を使用して、室内の温度が上昇しすぎないように保ちましょう。
高断熱住宅と健康との関連
国土交通省発表の資料によると北海道など、高い断熱性の住宅が普及している地域では、冬場の死亡増加率が少ない傾向にある2)と示されています。断熱性能の良い住宅では冬場の室内の温度差を小さくするだけではなく、年間を通して快適な室温を保つことができます。
住宅の断熱は冬場の気温の低下を防ぎ、夏場の気温の上昇を室内に伝えにくくします。高断熱の住宅では室内の温度を適温に保ちやすくなるので、温度環境による身体への負担を軽くします。
住宅に断熱改修を行うことで、健康に良い影響がある可能性も言われています。東京都健康長寿医療センター研究所の報告では、断熱改修後には鼻や眼のアレルギー症状が有意に減り、睡眠の質が良くなったということ、血圧の上昇を抑えて血圧が安定することもわかっています。年中快適な室温を保てる住居に住む高齢者は活動量も高く、筋力も高い7)という結果も出ています。
たくさん着込むことで寒さをしのぐことはできますが、その分身体は動かしにくくなり、身に着けている衣服からの刺激も身体に加わります。夜間寝ているときに吸い込む冷たい空気による喉や気管への刺激は、着込むことで防ぐことはできません。室温自体を調整することが身体への負担を軽くし、過ごしやすく動きやすい環境をつくるのでしょう。
自ら運動をすることでも健康を促すことはできますが、毎日過ごす住居の温度環境を過ごしやすく整えることも健康維持・増進を促す一つの要因と言えるでしょう。