健康長寿と腸と排泄の関連について
公開日:2018年5月 2日 13時00分
更新日:2022年4月15日 13時29分
排泄とは
排泄は、私たち動物にとって、無くてはならない生理現象です。きちんと便が出るということは、腸が元気で、有害なものを体外へ押し出してくれている証拠です。規則正しい排泄により、すっきりした体で健康長寿を目指すには、何が必要なのでしょうか。
人間の体内には、口から胃へ、さらに腸をへて肛門まで続く1本の「消化管」があります。消化管の長さは約8メートルから9メートルにもなります1)。
排泄の仕組み
消化管は、食べた物を分解・消化し、必要な栄養分と水分を吸収した後、老廃物を便として排泄します。口から摂取された食べ物が便として排泄されるまでの時間は、約24時間から48時間です1)。
ものを食べて便を出すには、脊髄と脳との連携プレーが必要です。まず食べ物が胃に入ると、脊髄に信号が送られます。その信号を脳が受け取り、今度は脊髄から腸に向かって「便を出す」と信号を送ります。この流れを「胃・結腸反射」といいます。
胃で分解された食べ物は小腸へ送られ、小腸は身体に必要な栄養成分を吸収します。その後、吸収が終わった残りカスが大腸へ送られます。大腸はこの残りカスから水分やミネラルなどを吸収して固形の便を作り、肛門付近へ送ります。この固形の便を一時的にたくわえる場所はS状結腸と呼ばれていて、胃・結腸反射により脳から信号がきたら、たまった便を直腸へ送ります。大腸は、体に不要なものを処理し続けることと、一時的に便を溜めておくため、傷害を受けやすく、病気になりやすい器官なのです。
ちなみに便は、概ね水分が70%から80%で、固形分の内訳は食事由来が3分の1、脱落した粘膜や腸管壁の代謝物が3分の1、腸内細菌(死菌・生菌)が3分の1です2)。
厚生労働省による「平成28年国民生活基礎調査」で、男性は約2.5%、女性は約5%が、便秘で悩んでいると回答しています。年齢別にみると、高齢になるほど便秘に悩む人は増え、70代では男性で8%、女性では10%近くが自分は便秘であると考えています3)。
便秘の定義と原因
便秘の定義
便秘の定義には、国際消化器病学会のRomⅣの診断基準が臨床研究などで国際的に最もよく用いられます。
国際消化器病学会 RomⅣ
- 排便回数が週3回未満
- 硬便が排便時の25%以上(4回に1回以上は硬い便)
- 用指的排便(指や綿棒などを用いて強制的に排便させる行為)が25%以上
- 努責(排便時に強くいきむこと)、残便感、閉塞感がみられる頻度が25%以上
- 以上の症状が6ヶ月前から少なくとも3ヶ月で基準を満たす場合に慢性便秘
腸が元気に動いていれば、1日1回から2回の排便があります。しかしこれは個人差が大きく、2日から3日に1回の排便でも排便状態が普通で、苦痛を感じていない場合は便秘とはいいません。また、毎日排便があっても便が硬い、あるいは残便感があるといった場合には、便秘であるといえます。人によって便通の頻度が異なるため、頻度だけで便秘を定義するのは、難しいのです。
便秘の原因4)5)
また、便秘には何らかの原因があります。不規則な食事や生活、食物繊維や水分の摂取不足、食べる量が少ない、イライラや不安など精神的な要因まで、人によってさまざまです。大腸は非常に敏感で、ストレスや緊張で機能異常を起こしやすい器官です。排便をコントロールする脳との連携プレーも、ストレスによってすぐに乱れてしまいます。浣腸や下剤の乱用や、便意を抑制する習慣も便秘につながります。さらに、腸の蠕動運動は年齢とともに低下してしまうため、高齢者は便秘になりやすい傾向があるのです。
毎日快便にするにはどうすればいいか
毎日スッキリ快便にするためには、「良い便を作る」「便を育てる」「便を出す」という、3つの力が大切です1)。
良い便を作る
理想的な良い便とは、いきまずにストーンと出る黄色、もしくは黄色がかった褐色で、水中でほぐれて水に浮く状態です。このような良い便を作るには食べた物で決まります。野菜や豆類、果物、海藻など、食物繊維の多い食事をとることで良い便は作られます。食物繊維は食べカスとなり便の量を増やすだけではなく、便が腸内に滞在する時間を最適にします。
便は腸内に長くとどまるほど固くなり、逆に腸内の滞在時間が最適な便は水分をほどよく含んでいるため、理想的な硬さでストーンと出るようになります。
良い便のもととなる食べ物には他に、発酵食品があります。味噌や納豆、醤油やキムチなどさまざまな食品がありますが、中でもヨーグルトは腸内の環境を整える効果が期待できます。反対に、肉やスナック菓子などの脂質が多いものばかり摂取していると、脂肪を分解する成分が多く分泌されるため、便の色は濃い褐色になり、臭いがきつくなります。これは腸内で腐敗が起こっている合図です。
便を育てる
次に「便を育てる」です。私たちの腸内には善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった腸内細菌がすんでいます。この腸内細菌には理想のバランスがあり、「善玉菌2、悪玉菌1、日和見菌7」が良いといわれています。このバランスが悪いと、便の状態が悪化します。
悪玉菌は、腸内にある食べカスを腐敗させ、ガスや悪臭のもととなる物質を作り出すほか、免疫力を低下させます。善玉菌を増やし、腸内環境を理想のバランスに整えることが、良い便を育てることなのです。
便を出す力
最後は「便を出す力」です。便を押し出す力は、腸腰筋にあります。腸腰筋とは、大腰筋・小腰筋・腸骨筋の3つの筋肉から成り、インナーマッスルのひとつです。便を送り出す蠕動運動は大脳からの指令で起こりますが、最後の一踏ん張りには、腹筋や腸腰筋の力を必要とします。
便秘の解消には、運動も必要です。歩かない習慣は筋肉を衰えさせ、肥満の原因にもなります。目標は1日9,000歩以上。エレベーターを使わず階段を歩いてみる、少し遠くの公園まで散歩に行くなど、少しの行動の積み重ねで、運動量はぐんと増えます。
参考文献
- 元気のしるし 朝うんち ビジュアル版 辨野義己・加藤篤(著)