高齢者の痔の原因と予防
公開日:2018年5月 2日 09時00分
更新日:2022年4月15日 13時31分
痔の人はどれくらいいるのか?
痔は、その種類によって年齢や割合が異なりますが、痔の疾患が占める割合は肛門疾患全体で見て、痔核約60%、裂肛約15%、痔瘻約10%とされています(図1)。
厚生労働省が行った「平成26年患者調査」からは、調査を行った日に受診している推計患者数が分かりますが、これによると、平成26年の調査を行った日(10月1日)での痔核の推計患者数は13,500人、裂肛および痔瘻の推計患者数は2,900人でした2)。
痔の症状
痔の症状は、痔の種類によって異なります。高齢者に多い痔核の主な症状は、以下の通りです。
出血
排便時や運動時、歩行時に見られることが多く、色は鮮明な赤色であることが多いです。特に、直腸付近での出血の場合は、便に血が混じっていたり、出血の色がやや暗い赤色となることもあります。出血量は、ほとばしる程度から、肛門を紙でぬぐったときに付着する程度などさまざまであり、排便後まで出血が続くということは少ないです。
疼痛
持続的な鈍痛の場合と、発症から数日間のみの比較的強い疼痛の場合があります。また、痛みとまでいかなくても、違和感が続く場合があります。
痔核の脱出
排便時に生じる場合が最も多いですが、運動時、歩行時、重いものを持った時や、しゃがんだ時に生じることもあります。
掻痒感
時々みられる症状であり、その理由としては、粘液漏出による刺激や、過度な洗浄が原因となることがあります。
痔核の病期
痔核には「内痔核」と「外痔核」がありますが、内痔核はその症状の進行度により、4つの病期に分けられます(表1)。
グレード(進行度) | 症状 |
---|---|
グレードⅠ | 排便の時、痔核は肛門の内側で盛り上がるが、脱出はしない程度 |
グレードⅡ | 排便の時、痔核は肛門の外側まで脱出してくるが、排便が終わると自然に元に戻る |
グレードⅢ | 排便の時、痔核が脱出してしまうが、指で戻すことができる |
グレードⅣ | 痔核は常に肛門の外に出ており、指で戻すことができない |
痔核は、進行度によって症状が異なります。もっとも初期であるグレードⅠでは、排便時に出血が見られるものの、痛みはあまり無いようです。
痔核が少し大きくなってくるグレードⅡは、肛門から痔核が脱出するものの、排便後は自然に肛門内に戻ります。この頃は痛みがあり、出血もみられます。
さらに進行してグレードⅢになると、指で押し戻さないと戻らないくらい、痔核が脱出した状態になります。
もっとも進行したグレードⅣでは、痔核が常に肛門の外へ脱出した状態になり、指で押しても元に戻らないほど固くなります。この頃になると、痔核が固くなってしまうため、痛みや出血がなくなりますが、粘液が常に少しずつ滲み出して出ている状態になるので、下着が汚れるようになります。
痔になる原因
高齢者に多い痔核の原因は、便秘や下痢が挙げられます。便秘が続き、排便の時にいきみすぎてしまうことで、肛門に負担がかかります。すると、粘膜下の部分がうっ血して大きくなり、出血するようになります。また、老化現象によって粘膜下の部分を支えている組織がちぎれたり、支える力が弱くなってくると、クッションの役割をしている粘膜下の部分が肛門から飛び出してきてしまいます。これが痔核となるのです。
また、下痢が続く場合も、便が勢いよく肛門から出ることが続くため、その勢いにのって、痔核が飛び出した状態になります。
痔の治療方法1)
高齢者に多い痔核の治療は、保存治療と外科的な治療に分けられます。
保存療法
保存療法ではまず、日常生活の指導と薬物療法がおこなわれます。日常生活の指導では具体的に、以下のことを禁止します。
- 長時間の座位
- 寒冷下での作業
- 排便時のいきみ
食事面では、アルコール摂取の注意、水分摂取の励行、食物繊維の積極的な摂取を行うよう指導されます。
また、長時間便座に座っていることも痔核を振興させてしまうため、座浴や入浴により、肛門付近を温めることも推奨されます。
薬物療法では、座薬か軟膏、飲み薬が処方されます。薬物は出血や痛み、脱出や腫脹などの症状を和らげるために使用しますが、お薬のみで慢性的な痔核を完治させることは、難しいとされています。
外科的な治療
痔核を完治させるために選択されるのは、外科的な治療です。
外科的な治療では以下の方法などがあります。
- 痔の部分を切除する
- 輪ゴムなどで痔核を縛り、血流を止めて痔を壊死させて切除する
- 薬剤で痔を固めて切除する
局所麻酔のみでできる治療が多いものの、外科的治療には出血や感染などの合併症を伴うこともあり、高齢者の場合、外科的な治療をすること自体が身体的な負担となってしまうため、治療法は慎重に選択することになります。
痔への対策
痔への対策としてもっとも必要となるのが、便秘や下痢を防ぐということです。特に高齢者は、さまざまな理由から排便コントロールが不良となることが多いため、日常生活を見直して適切な排便コントロールを行っていきましょう。
また、長時間の同一姿勢も痔の原因となります。少しづつでも積極的に体を動かすようにし、長時間座り続ける生活をしないように意識していくと良いでしょう。
さらに、トイレに行くのは便意を感じてからにします。便意を感じる前からトイレへ行っていきんでしまうと、いきみに対して強い力が必要になりますし、長時間いきんでいる状態になり、肛門への負担がかかってしまいます。便意を感じてから排便をするようにしましょう。
参考文献
- 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)診療ガイドライン2014 日本大腸肛門病学会