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腸内細菌叢(腸内フローラ)とは

公開日:2018年5月 2日 11時00分
更新日:2019年11月21日 11時56分

腸内には細菌が棲んでいる

 腸には大腸と小腸がありますが、それぞれの働きはまったく違います。小腸は食べたものを消化吸収する臓器であり、一方の大腸は、栄養を吸収したあとの残りカスから大便を形成する臓器です。

 生命維持にかかせないこの働きに加え、私たち人間の腸内には、体内に棲む細菌のうち約9割が棲みついています。その数はおよそ100兆から~1000兆個で、種類は約1,000種類、重さにして約1キログラムから2キログラムと言われています1)。私たち人間の細胞は約60兆個2)といわれていますが、身体の中には、自分の細胞よりもはるかに多い細菌がいることになります。

 大腸に棲む細菌を「腸内細菌」といいます。通常ウイルスなどの異物は免疫システムにより体内から排除されるのですが、免疫寛容という仕組みによって排除されないものがあります。この仕組みによって共存を許された細菌のひとつが、腸内細菌なのです。

腸内フローラとは

 腸内に棲んでいる細菌は、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なくびっしりと張り付いています。この状態は、品種ごとに並んで咲くお花畑(flora)にみえることから「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。正式な名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。

 腸内細菌の形成パターンは、一人ひとり異なります。食生活や生活環境も関係しますが、一番大きな影響を与えるものは母親の腸内環境だといわれています。赤ちゃんは生まれてくるときに、母親の産道にある腸内細菌に接触することで細菌をもらい受けます。これが赤ちゃんの腸内に入り込み、腸内細菌として増殖していきますが、腸内フローラの原型は3歳までにつくられるといわれています3)。生後、形成された腸内フローラのパターン※1は一生変わらないとされ、3歳くらいの時の腸内フローラが最もよい状態だといわれています。

※1 腸内フローラのパターン:
腸内に棲む細菌は、1,000種以上あるといわれており、このうちどの種類があるのか、種類によって多い・少ないが変わるのかは、個人に特有のパターンを示します4)

腸内細菌の種類

 腸内フローラを形成している菌は、働きによって3つに分けられています。1つめは私たちの身体を守る善玉菌、2つめが増えすぎると身体に悪影響がある悪玉菌、そして3つめは状況によって善玉菌の味方をしたり悪玉菌の味方をしたりする日和見菌です(図1)。

図1:腸内フローラは善玉菌・悪玉菌・日和見菌により形成されていることを示すイメージ図。
図1:腸内フローラを形成している善玉菌・悪玉菌・日和見菌

善玉菌、悪玉菌、日和見菌の働き

 善玉菌、悪玉菌、日和見菌に含まれる主な菌種と働きは表1のとおりです。

表1:善玉菌、悪玉菌、日和見菌の菌種と働き
善玉菌悪玉菌日和見菌
主な菌種
  • 乳酸菌
  • ビフィズス菌など
  • 大腸菌(有毒株)
  • ウェルシュ菌
  • ブドウ球菌など
  • バクテロイデス
  • 大腸菌(無毒株)
  • 連鎖球菌
働き 乳酸や酢酸などをつくりだし、腸内を弱酸性に保つ 毒性物質をつくりだし、腸内をアルカリ性にする 善玉菌、悪玉菌のうち、優勢な菌と同じ働きをする
理想割合 2割 1割 7割

 善玉菌は腸の中で発酵活動を行いますが、一方の悪玉菌は腐敗活動を行います。発酵活動と腐敗活動、どちらが身体に良いでしょうか。例えばヨーグルトは発酵食品ですが、単に牛乳を腐らせたものは飲めませんよね。発酵と腐敗には、このような違いがあります。

 善玉菌は、糖分や食物繊維を食べて発酵させ、乳酸や酢酸などを作り出し、腸内を弱酸性に保ちます。腸内が酸性に傾くと、悪玉菌は増殖ができなくなり、毒性物質が作られなくなります。また、外から入ってくる悪玉菌のほとんどはアルカリ性の環境を好むため、仮に腸内に入って来たとしても、酸性の環境を維持していれば、悪玉菌は死んでしまいます。

 悪玉菌には悪いイメージがありますが、私たちの身体に大切な働きをしてくれる必要不可欠な存在です。その働きは、肉類などのタンパク質を分解して、便として処理排泄するという動物にとってなくてはならないものです。

腸内フローラのバランス

図2:善玉菌2、悪玉菌1、日和見菌7が腸内フローラの理想のバランスであることを示すイラスト。
図2:腸内フローラの理想のバランス

 腸内フローラには、「善玉菌2・悪玉菌1・日和見菌7」という理想のバランスがあります(図2)。日和見菌は腸内細菌の7割を占め、善玉菌が優勢な状態であれば善玉菌につき、腸内で発酵活動を行います。一方で、腸内で悪玉菌が優勢となれば、悪玉菌になびいてしまい、腐敗活動を行います。腸内を酸性に維持するためには、腸内環境をコントロールして、日和見菌を善玉菌の味方につける事が必要です。

 私たちの腸では、毎日のように善玉菌と悪玉菌の縄張り争いが起こり、腸内フローラのバランスが変わっています。この争いは出生時から始まり、離乳期、青年期、老年期と、経年的にその様相は変化しています。例えば、乳児期には100億個以上あったビフィズス菌(善玉菌)は、老年期となる50~60歳ごろには100分の1、1億個ほどに激減しているのです1)。これは老化による自然現象です。

 しかし、年齢に関係なく腸内フローラのバランスが崩れてしまうこともあり、この理由の一つとして高脂肪の食生活があげられています。腸内環境は食べたものに大きく左右されるため、腸内フローラをよいバランスで維持するためには、栄養バランスのとれた食事が大切です。また食事だけではなく、適度な運動は腸内フローラが活性化するといわれています5)

参考文献

  1. 乳酸菌がすべてを解決する 後藤利夫 株式会社アスコム (2017年8月25日出版)
  2. ヒトの腸内細菌叢 桑田 有 人間総合科学大学(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  3. 腸内細菌 山城 雄一郎 順天堂大学(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  4. 日本内科学会雑誌 104 巻 1 号 腸内細菌の種類と定着:その隠された臓器としての機能(PDF)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)
  5. Early-life exercise may promote lasting brain and metabolic health through gut bacterial metabolites Agnieszka Mika & Monika Fleshner Wiley Online Library(英語)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

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