第3回 笑ってハッピー
公開日:2019年10月10日 10時16分
更新日:2024年8月13日 13時18分
こちらの記事は下記より転載しました。
立川 らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家・医学博士
時々質問されることがある。「らく朝さん、身体に一番悪いものは何ですか」って。そうねえ、健康によろしくないものはいくらもあるが、一番となるとこれはむずかしい。しかしあえてトップに挙げるとなると、やっぱりストレスではなかろうか。これほど身体に悪いものもない。なにせ「万病の元」とまで言われているくらいだ。
今の世の中、ストレスがまるでない人なんていないだろう。
「皆さんだって全員ストレスがおありでしょう」
公演でこんなことを言うと、お客席で「俺ないよ。俺もう、ストレスなんか全然ないから」と胸を張っておっしゃる方がいる。でもね、こういうこと言う人に限って、その周りにいる人は全員ストレスを感じてる。世の中そんなもんだ。
起きてから寝るまでストレスだらけ、こんな現代社会で生きていくのにどうしても欠かせないのが「ストレス解消」。でもこれが意外にむずかしい。一番手軽で、そしてお金もかからない、しかもいつでもどこでも日常的に行うことができる効果的なストレス解消法があるとしたら、誰でも知りたいと思うだろう。それは笑うことだ。
「笑うとストレスが解消される」、そう聞いて疑う人はあまりいないだろう。でも中には証拠がないと信じない、という疑い深い方もいらっしゃる。ま、最近の医学界は何でも"エビデンス"(医学的根拠)の時代だから、これもご時世なのだろう。では証拠をお見せしようじゃありませんか。
以前TBSテレビのニュース番組から、ある実験をやらせてほしいと要望があった。私の独演会で、落語を聞いた観客のストレスが減っているかどうかを調べたいというのだ。
「らく朝さんの落語を聞いて笑ったあと、本当に観客のストレスが減ったかどうかを医学的に検証して、夕方のニュースで流したい」とのこと。私、即座に「嫌だ」って答えた。
そりゃそうでしょう、私の落語を聞いてストレスが減ればいい。でも反対にストレスが増えちゃったらどうしてくれんのよ。しかし相手の決意は固く、とうとう私の独演会で実験することになってしまった。
人間の唾液にはアミラーゼという酵素が含まれていて、ストレスがあると濃度が高くなり、ストレスが減ると低くなる。そこで会場に来た観客の唾液アミラーゼ濃度が、落語を聞いたあとで下がるかどうかをみよう、という実験を行った。
結果はありがたいことに、落語を聞いたあとではお客様のアミラーゼの値は下がっていた。私の落語を聞いて笑ったあとでは、ちゃんと(?)ストレスは解消されることが実証されたわけだ。
しかしこれは私にとってものすごいストレスだった。高座の上で私の唾液アミラーゼを測定したら、とんでもない異常高値になっていたことだろう。
笑うことでストレスが解消されることはさまざまな方法で立証されている。血液検査をしたり、脳波を測定したり。そのすべてで、笑いはストレス解消どころか、心の安定をもたらしてくれることが証明されている。
たとえば、笑うと脳内でセロトニン、そしてβエンドルフィンという物質が分泌される。これらは脳内麻薬と言われていて、セロトニンは精神的な安らぎを、そしてβエンドルフィンは多幸感や高揚感をもたらしてくれる。つまり笑うとストレスが解消され、気持ちが落ち着いて、そのうえ幸せになってハイになるというわけだ。
笑いには麻薬並の効果がある。しかも副作用がないから嬉しい。でもね、落語で笑う時には要注意。落語の笑いには、「習慣性」という副作用があるから、中毒にならないよう、どうぞお気をつけて。
編集部:立川らく朝さんは2021年5月2日にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。
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