第1回 まず形から入ろう
公開日:2019年4月17日 13時28分
更新日:2024年8月13日 13時20分
こちらの記事は下記より転載しました。
立川 らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家・医学博士
笑うと長生きする、そう言われてすぐに納得する人は少ないかもしれない。
46歳で内科医から落語家に転向した私は、ヘルシートークと健康落語というオリジナルのジャンルを開拓し、多くの方々に笑いとともに健康情報を提供している。最近では「笑いと健康」というテーマで公演を行うことが多い。
笑うことが健康によいことをあちこちで説いてまわっているのだが、笑うことは長生きにも貢献することがわかってきた。これは大いにアピールするべきだと、いつも公演の中でその話題に触れるようにしている。
「人間ってね、笑顔をつくるだけで長生きするんですよ」と言うと、観客は決まってきょとんとした顔になる。疑っているわけでもないのだろうが、かといって信じてる風でもない。そりゃまあそうだろう、「そんな単純なことで長生きできるわけがない」と皆思っている。ところがどっこい、じつはこんな話があるのだ。
大リーグにベースボールカードというものがある。野球選手の写真が載ったカード、いわば小振りのプロマイド(言うことが古いね)。日本のプロ野球にもあるが、話はアメリカの往年の大リーガーたちだ。
これらベースボールカードを、写っている選手の表情で三つのグループに分類した。どんな表情かというと、まず普通の顔で写っている選手たち、そして二つ目はにこやかな顔、最後は満面の笑顔だ。
全員が往年の選手たちで、皆とっくに亡くなっている。さあ、これら三つのグループの選手たちの平均寿命を比べてみた。すると、普通の顔で写っている選手たちの平均寿命が73歳だったのに対して、にこやかな顔が75歳、そして満面の笑顔の選手たちの平均寿命は、なんと80歳だった。
どんな表情でカメラの前に立ったか、普通の顔か満面の笑顔か、たったそれだけの違いで7年の寿命の差が出たことになる。やはり笑顔は長生きに貢献する、ということになりそうだ。
「よおし長生きするぞ、私も写真を撮るときには笑顔で」って、いや話はそんなに単純ではない。笑顔で写真に写るとそれだけで長生きする、などと言われたところで、誰も信じたりはしないだろう。じゃあ一体何が長生きをもたらしたのだろうか。
公演で私は、もう一つのエピソードを話すことにしている。カトリックの修道女、シスターたちの話だ。これも亡くなった方ばかりなのだが、彼女たちが若い頃に書いていた文章を分析した研究がある。
楽しい、毎日が幸せ、などポジティブで明るい文章を書いていたグループと、反対にネガティブで暗い内容ばかりを書いていたグループに分けて平均寿命を比較してみた。すると、ポジティブなグループとネガティブなグループの間では、平均寿命に10年の差があったのだ。しかもポジティブグループのシスターたちの90%が85歳以上まで生きたのに対して、ネガティブグループでは、85歳で生きた人は34%しかいなかった。
どうやら長生きは、笑顔だけの御利益ではなさそうだ。要はカメラを向けられたその瞬間、もっと言えば、いつの瞬間でも笑顔になれるかどうか。ここに長生きできるかどうかの差が表れるのではなかろうか。
毎日を明るい気持ちで過ごし、いつでも笑顔になれる心持ちを維持することが大切、ということになるのだろうが、じつはこれが一番むずかしい。ああ、だから長生きはむずかしいんだ。
こうなったら形から入ろう。まず笑う。いつも笑う。一日中笑う。すると気持ちも明るくポジティブになる。そして長生きを達成......うーん、できるかなあ。考えてたら私、しかめっ面になっちゃった。
編集部:立川らく朝さんは2021年5月2日にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。
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