網膜静脈閉塞症
公開日:2017年7月 5日 11時54分
更新日:2019年6月13日 10時59分
網膜静脈閉塞症とは
眼の奥には網膜と呼ばれる重要な神経の膜があります。(眼をカメラに例えるとフィルムに相当します。)この部分の機能は、光を受ける事によりその情報を脳に伝える働きがあります。
その部分に栄養や酸素を運び、老廃物を運び去る血管を網膜動脈や網膜静脈と呼びます。文字通り網膜静脈と呼ばれる血管が何らかの原因により詰まってしまう病気です。血管を木に例えると幹のような中心部の太い血管で詰まった場合を網膜中心静脈閉塞症と呼び、枝のような先で詰まっている場合を網膜静脈分岐閉塞症と呼び、まとめて網膜静脈閉塞症といいます(図)。
網膜静脈閉塞症の原因
50歳以上の高齢者に多い病気です。特に高血圧を持病として持っている方が80%を占めます。網膜にある動脈と静脈が交叉し重なり合っている部分は血管の膜を共有し空間的に余裕がありません。高血圧により動脈が固く(動脈硬化)なると、もともと変形に弱い静脈の血液の流れが滞り詰まってしまうと考えられます。他に全身疾患により血管に炎症が引き起こされている状態、糖尿病などにより血液が詰まりやすい状態の場合にも引き起こされます。静脈が詰まると動脈から送られてきた血液の行く手が妨げられます。それにより網膜に出血が引き起こされたり網膜が腫れ上がった状態になります。
網膜静脈閉塞症の症状
この病気の症状は、詰まる血管の場所により様々です。一般的に眼の血管の太い部分で詰まれば重い症状ですし、逆に血管の端の部位が閉塞を起こすと気づかない時もあります。特に眼は右眼と左眼の両方が存在する事から片眼に障害が起きても反対の眼で補ってしまい気づかない場合があります。その場合、片眼ずつ隠す事ではじめて自分が病気であることに気づくことになります。出血を起こした部分は網膜の光を感じる神経まで光が届かない状態になります。そのため出血を引き起こした部分の視野が黒く欠ける症状となります。出血自体はゆっくりと時間をかけて引いていきます。出血が引いたあとにどの程度視力が回復するかは、網膜の真ん中の黄斑と呼ばれる大事なところの障害の程度で大きく変わってきます。詰まった血管が黄斑に栄養を与える血管であった場合、回復は難しく視力は回復しません。特に太い血管の閉塞である網膜中心静脈閉塞症では視力の予後は悪い傾向にあります。
網膜静脈閉塞症の治療
まず詰まった血管が再び血管が流れるように試みます。血栓溶解薬や網膜循環改善薬と呼ばれる飲み薬を処方します。しかし動脈硬化が原因で詰まった血管が再び血流が流れるのは稀です。また止血剤や神経保護剤を処方する事もあります。この病気で視力の予後を左右するのは、網膜で一番大切な黄斑のむくみを出来るだけ早期にひかす事が重要になります。そのためには状況により網膜にレーザーを当てたりステロイドを眼の奥に注射したりします。
最近では網膜に血が流れない場合に出てくる悪い物質を除去する分子標的薬(抗VEGF薬(ブイ・イー・ジー・エフ))も適応となり良い成績を収めているようですので今後の治療の選択も変化する時代がくると考えられます。
その他に生来眼の中に存在している硝子体ゼリーを手術で除去する事で網膜のむくみを改善できる場合もあります。
残念ながら時間が経過してしまった場合は、網膜にレーザーを当てるなど合併症予防を行います。合併症としては眼の中に出血を起こしたり(硝子体出血)、網膜がはがれて失明してしまう網膜剥離や難治な血管新生緑内障などがあります。
最後に、この病気は高血圧など全身の病気が眼に症状として出てきているという重要なサイン(印)のことがあります。基礎疾患としての高血圧を内科できちんとコントロールしもう片方の眼に同様の病気が引き起こさないようにする事が重要です。
この病気に対し適切な治療が受けられるように、症状が少しでもあれば眼科受診をお勧めいたします。また治療方針などはその時の眼の状況により変わってきます。詳しいことは担当医とよくご相談ください。