嚥下性肺炎の治療
公開日:2016年7月25日 14時00分
更新日:2019年2月 1日 21時27分
重要な口腔ケア
誤嚥性肺炎の基本的な治療は新たな誤嚥をしないように経口摂取を中止して、口腔内をきれいにすることです。経口摂取を中止すれば、食物による新たな誤嚥を防ぐことは出来ますが、食事をしなくても分泌される唾液の誤嚥は完全には防げません。そこで少しでも誤嚥する口腔内細菌を減らすのが口腔ケアです。ですから、食事をしていないからといって口の中を見る必要がない、というわけではありません。
状態に応じて選択する入院治療
外来で治療するか、入院して治療するかは重症度判定を元に、もともと持っている疾患や介護背景を考慮して選択されます。
肺炎の重症度判定
レントゲンや身体所見による重症度判定で以下の5項目のうち3項目以上を満たした場合、肺炎は重症と判定されます。
- レントゲンで肺炎の広がりが左右どちらかの肺の2/3以上
- 体温が38.6℃以上
- 脈拍数が1分間に130回以上
- 呼吸数が1分間に30回以上
- 脱水あり
※ただしチアノーゼや意識レベルの低下、ショック状態を認めた場合は上記項目に関係なく重症と判定されます。
検査による重症度判定で以下の5項目のうち3項目以上を満たした時、肺炎は重症と判定されます。
- 白血球数が20000以上
- 白血球数が4000未満
- CRPが20mg/dl以上
- PaO2(動脈血の中の酸素の量)が60Torr以下
- SpO2(血中酸素飽和度)が90%以下
これらの重症度判定で重症と判断された場合、他の基礎疾患がある場合(肺癌・慢性の肺疾患・糖尿病など)、酸素投与が必要な場合、食事が摂れないとき、高齢者で通院が難しい場合は入院して治療が行われます。
抗生剤の選択
嚥下性肺疾患の原因になる細菌は嫌気性菌です。この菌は酸素の少ないところで増えやすい菌です。そのためこの嫌気性菌を一度吸い込むと肺の隅に入り込み、肺炎が進むと体の酸素量が減ることでますます嫌気性菌が育ちやすい環境をつくってしまいます。そのため治療は嫌気性菌に効きやすい抗生剤を選び、さらに必要に応じて酸素吸入をします。
本来は原因となっている細菌を見つけ、それに合った抗生剤を使用するのが理想です。合った抗生剤を使用することは治療効果が高いだけでなく、高齢者の場合は治療期間を短くして廃用症候群や褥瘡などの他の病気の発症を防いだり、長期に抗生剤を使用することによる腸内の善玉菌の減少を防ぐこともできます。さらに抗生剤の効きにくい耐性菌の発生を防ぎ、腎臓や肝臓の負担を減らすこともできます。
しかし、細菌の種類によってはすぐに原因菌とわからないものもあります。培養検査でしか判明しない細菌では1週間くらいたたないと結果が判明しません。その場合はエンペリック・セラピーという治療が行われます。
つまり、高齢者にとって肺炎は時に命に関わる病気です。細菌の結果が分かってから抗生剤を使用したのでは手遅れになる可能性があります。そのため、これまでに蓄積したデータから感染している細菌を推定し、抗生剤治療を始めるのです。その後、その患者が感染した細菌が判明し、推定した細菌と異なっていた場合は速やかに適切な抗生剤に変更します。例えば、もともと抗生剤で治療する病気がなく、純粋な誤嚥性肺炎である可能性が高い時は、口腔内細菌の感染を考え、口腔内に多い嫌気性菌を想定して抗生剤を使用する、という方法です。
入院患者の場合はもともと他の疾患で抗生剤が使用されていたり、通常の肺炎では頻度が低いクレブシエラの感染頻度が高いことから使用する抗生剤は検討が必要です。同様に人工呼吸器関連の肺炎の場合はさらに広い細菌を想定し、時には複数の抗生剤を併用することも検討します。
できれば痰の培養などを行い、結果が判明するまでは推定される菌に対して抗生剤を使用し、培養の結果が判明してさらに適切な抗生剤が存在する場合は変更します。