嚥下性肺疾患の分類
公開日:2016年7月25日 17時00分
更新日:2019年6月21日 10時21分
嚥下性肺疾患はいくつかに分類されます。この分類は患者の状態や肺炎をきたしたときの状態、レントゲンの所見などを参考に診断されます。
嚥下性肺疾患の分類
通常型嚥下性肺炎
嚥下性肺炎の中で最も多いタイプです。明らかな誤嚥のエピソードがある、もしくは病態から誤嚥が強く疑われる背景があり、画像検査を行うと肺炎像を認め、血液検査では炎症反応の増加を認めます。
びまん性嚥下性細気管支炎(DAB)
食事に関連した症状があることが多く、画像検査で肺炎像がはっきり見られず、血液検査でも炎症反応が上がりにくいため診断が難しいタイプです。食事に関係なく唾液を少量繰り返し誤嚥した症例も報告されています。病態としては異物を繰り返し誤嚥することにより引き起こされた細気管支(肺に近い細めの気管支)の慢性炎症が特徴的ですが。この所見は解剖や外科的な生検によって判明するものであって、実際の現場での確定診断は難しいのが現状です。
人工呼吸器関連肺炎(VAP)
人工呼吸器装着時に肺炎がなく、気管内挿管による人工呼吸器開始後48~72時間以降に発症する肺炎です。(もともと肺炎がある患者は含まれません。)原因の1つは口から気管に管が入っていることにより口や喉にいる細菌が肺に移動するためです。他の機序として気管に入った管から細菌を吸い込むことも原因になります。人工呼吸器には空気が通る管や空気を加湿するための水などがあり、その部分に細菌が発生すると直接吸い込んで肺炎になります。その他に身体の他の部位にあった細菌が血管などの体の中を伝って肺に届いたり、もともと体にいた細菌が抵抗力が落ちたときに発症するといった機序も考えられます。
さらに気管内挿管から4日以内に発症したものを早期、それ以降を晩期と区別しています。なぜなら早期の場合は口や喉の菌が原因になっている可能性が高いのに対し、晩期の場合は他の細菌が原因となることが多く、選択される抗生剤や治療が変わるためです。VAPはもともとの疾患もあることが多く、死亡率の高い状態です。
メンデルソン症候群
分類では人工呼吸器関連肺炎と同じグループとして扱われます。胃の中身を嘔吐し、それを吸い込んだ時におきる肺炎で、主たる原因は消化液である胃液を吸い込むことでおきる化学性肺炎です。この病気を見つけたMendelsonは動物実験で酸性の液体が肺に大きな障害を与えること。また酸性が強いと肺の障害も強く、メンデルソン症候群を発症するにはpHが2.5より低いこと、胃液は人の体重に換算して20ml程度吸い込んだだけで発症することなどを報告しました。
通常、胃の中は強い胃酸で細菌がいられない環境になっています。そのため胃酸を吸い込んだ直後は肺の中に菌はいないと考えられます。ですが、胃酸を抑える薬を服用している患者や胃瘻・経鼻胃管などの経管栄養をしている患者、イレウスの患者では胃の中に細菌がいることもあります。
治療は通常の肺炎と異なり、細菌よりも酸性の消化液が原因であるため抗生剤はそれほど意味がなく、頻回な吸引が重要です。
医療・介護関連肺炎(NHCAP)
肺炎の原因をもとにした分類以外に、医療・介護関連肺炎という考え方があります。肺炎で亡くなる割合は抗生剤などの発達により減りつつありましたが、高齢化社会になり再び増えてきています。若年者での肺炎による死亡率は増えていないことから高齢化と高度に進歩した医療による肺炎としてNHCAPという新しい定義を2011年に定めました。NHCAPで特徴的なのは難治性・再燃性で、予後が不良と考えられる高齢者に多い点と、薬剤耐性菌による肺炎である点です。特に難治性・再燃性で、予後が不良と考えられる高齢者に多い肺炎は誤嚥が大きく関わっていると考えられています。