健康長寿ネット

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第59回 詐欺の電話

公開日:2022年8月 5日 09時00分
更新日:2023年8月21日 11時49分

井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授


2022年4月中旬の夕方
「先生の最近の本の広告を出しませんか」と中年男性と思われるおだやかな口調の電話があった。
「6月16日に発刊のFという雑誌に広告を載せないか」という趣旨であった。詳細は忘れたが54,000円出せば広告が載るという。
いつもならそのような勧誘は断って電話を切るのだが、その日は何故か電話に付き合った。
広告が出たら雑誌を送るのでその時にお金を払えばいいということであった。
私は広告を出すと言った。

6月15日
水曜日であったが家にいた。
雨が降っていたが合間に夏の日差しが強烈に降り注ぐ日だった。
朝、固定電話が鳴った。
「明日(6月16日)広告が雑誌に載ります」という連絡であった。
それだけの電話で済むはずなのにその電話の女性は、「電話が掛かってきます」と言った。
「誰から?」「Aという会社のOという者から電話がありますので気をつけてください。その電話は嘘の電話です」というではないか。
「どう対応すればいいのか?」と聞くと「お金を払えといってきますので払わないでください」と言った。
広告会社の代金を横取りしようとする電話が掛かってくるから取り合わないようにしろ、ということであった。
それが朝の9時頃だった。
30分後に予告通り固定電話が鳴った。
私は電話を無視した。
我が家の電話は比較的短時間(10秒?)で留守番電話に移行するようになっている。
留守番電話に移行して「御用の方はー――――」と電話が語り掛けると切れた。
これで一件落着、と私は思った。

しかしそれは悪夢のような1日の始まりを告げる電話であった。
2回目の電話は15分後にかかってきた。留守番電話が応答すると「ガチャン」と切れた。
次は30分すぎても電話が鳴らなかったので、ようやく終わったかと思うと35分後に電話が鳴った。
そのたびに我が家の電話は留守であるから用件を伝えるように繰り返すが、相手は無言で、「ガチャ!!」と音を立てて切った。
その後15分から30分間隔で電話が鳴った。
音が次第に大きくなり威嚇的になっていくように感じられた。
いずれ終わるであろうと無視を続けたが、午後になっても止むことはなかった。少なくとも20回は掛かってきたと思う。
次第に電話が意思を持っているように思えてきて、夕方になるとその執拗さに恐怖を覚えるようになった。
妻が帰宅して電話を拒否設定にするまで続いた。
私を悩ませた悪魔の電話音はようやく断ち切れたかに思えた。
しかしそれで終わりではなかった。

次の日、非通知設定で掛かってきた。
指定の電話番号を拒否設定にしても相手が非通知設定にすれば電話は掛かることを知った。
かかりつけの電気屋に来てもらって非通知設定でも掛からないようにしてもらった。電気屋のお兄ちゃんが「よくあるんですよ、この頃、こういうことが」と言った。
それからは電話が鳴ることはなくなった。

6月18日
そもそもこの一連の事件の始まりは4月中旬の広告会社からの電話であった。
その会社ぐるみの詐欺の可能性もあった。
しかし広告が掲載された雑誌が送られてきたのでその疑いは消えた。

7月1日
それから2週間後、ことの発端の広告会社から「違う雑誌に広告を載せないか」という電話があった。
私は「もうこりごりだ」と言って断った。

図:老いをみるまなざし_第59回_詐欺の電話_鳴り続ける電話の様子を表わす図。

(イラスト:茶畑和也)

著者

写真:筆者_井口昭久先生

井口 昭久(いぐち あきひさ)
愛知淑徳大学健康医療科学部教授

1943年生まれ。名古屋大学医学部卒業、名古屋大学医学部老年科教授、名古屋大学医学部附属病院長、日本老年医学会会長などを歴任、2007年より現職。名古屋大学名誉教授。

著書

「これからの老年学」(名古屋大学出版)、「やがて可笑しき老年期―ドクター井口のつぶやき」「"老い"のかたわらで―ドクター井口のほのぼの人生」「旅の途中でードクター井口の人生いろいろ」「誰も老人を経験していない―ドクター井口のひとりごと」「<老い>という贈り物-ドクター井口の生活と意見」(いずれも風媒社)など

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