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シニア就労・社会参加の現状と課題─人生100年時代のサスティナブルな社会の構築に向けて─

公開日:2021年10月13日 09時00分
更新日:2024年8月13日 17時08分

前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所ジェロントロジー推進室主任研究員

はじめに

 本格的な高齢化が進む日本の未来を目前に、高齢者の就労および社会参加は進んでいるのだろうか。もちろん高齢になって、就労あるいは社会活動に参加するかどうかは、本人の考えが優先されるものであり自由である。ただ、「就労したい(活躍したい)、参加したい」と思いながらもできない状況が続いているとすれば、それは社会の問題である。

 周知のとおり、年齢にかかわらず社会の中で活躍し続けることは、本人の健康や生きがいの面に寄与し、有償の場合は経済面でも支えになる。とりわけ「人生100年時代」の言葉が喧伝(けんでん)される中、いわゆる健康寿命、資産寿命の延伸のためにも、高齢期の暮らし方は重要な意味を持つ。また、社会にとっても、元気に活躍し続ける高齢者が増えるか、自宅に閉じこもりがちな高齢者が増えるかでは、未来社会の様相は大きく異なっていく。

シニア就労と社会参加の現状

1.シニア就労の現状

 高齢者の就労促進、生涯現役社会づくりに向けては、これまで「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の度重なる改正を経て、事業者に対して、65歳までの雇用確保が義務づけられ(2013年4月施行)、2021年4月からは70歳までの就業確保に向けた支援措置が努力義務化されたところである。また、自治体を中心に地域における多様な就業機会確保に向けた取り組み等※1も進められ、高齢者の活躍場所・機会は拡大方向にあると思われる。

※1 厚生労働省「生涯現役促進地域連携事業」が2016年度から実施等。

 では実際、どのような状況にあるか。図1は、65歳以上の労働力人口と労働力人口比率を1970年から見たものである。65歳以上の労働力人口は、近年になるにしたがい増加の一途にあることが確認できる。1970年の231万人(65~69歳:136万人+70歳以上:95万人)から、2020年の922万人(同上424万人+同上498万人)まで約4倍増加している。高齢者人口が1970年から2020年にかけて約5倍増加しているため※2、当然と言えば当然のことかもしれない。いずれにしても、これだけ多くの高齢者が世の中で働く社会になってきたことが再認される。

※2 65歳以上人口は1970年の740万人(総務省「国勢調査」)から2020年の3619万人(総務省「人口推計」)へ増加(4.89倍)。

図1:1970年から2020年の65歳以上の労働力人口と労働力人口比率を表すグラフ。
図1 65歳以上の労働力人口・労働力人口比率(1970~2020年)
(総務省統計局:「労働力調査」より作成)

※棒線グラフは労働力人口。労働力人口は、就業者と完全失業者を合わせた人口折れ線グラフは、高齢化率と各年齢段階別の労働力人口比率

 また、労働力人口比率、つまり各年齢段階人口における労働力人口の割合を見ると、65~69歳では1970年代から2005年まで低下し、そこから増加傾向にある。70歳以上では、同様に低下したのち、近年はわずかながら増加傾向にあることが確認できる。これらの状況は、産業構造の変化(近代化)により、働く(働ける)高齢者の減少を招いてきたものの※3、前述の政策誘導の効果もあって近年増加に転じてきたと推察する。ただ、2020年時点を見ても、まだまだ元気に活躍できる65~69歳の2人に1人は就労につかない(つけない)状況にある。70歳以上については、高齢者の高齢化の影響も加味する必要があり、もう少し丁寧な見方が必要であるが、労働力人口比率は17.9%にとどまっている。この水準でよいかは検討の余地が残る。

※3 第1次産業のように定年のない仕事が減少し、定年のある第2次・3次産業の仕事が増加したことを意味している。

2.シニア社会参加の現状

 次に、就労以外の社会活動の参加状況についても実態を確認しておこう。図2は、70歳以上の社会活動の状況を見たものである。前述のとおり、約8割が就労していないと思われる70歳以上の方について、「町内会や地域行事などの活動」をはじめとする各種グループ活動に参加しているかどうかを見たものであるが、「月1回以上参加」している割合は1~2割程度、「年に数回参加」と「参加していない」を合わせた割合は8~9割といった状況であった。男女別に見ても、特に大きな違いは見られていない。この調査だけで断定的な言い方はできないが、筆者の地域の状況を見てきた経験からは、おそらく参加している人はさまざまな活動に参加していて、参加していない人はしていないという2極化(後者が大半)の状況にあると推察される。

図2:2019年度の70歳以上の社会活動の実施状況を表す図。
図2 70歳以上の社会活動の実施状況(2019年)
(厚生労働省: 「令和元年国民健康・栄養調査」における「社会活動の実施状況」より作成)

人生100年時代のサスティナブルな社会の構築に向けた課題と解決視点

1. 超高齢化、長寿化(人生100年時代)に関連する課題

 高齢者の就労と社会参加の状況について、ごくわずかな実態を確認してきたが、総じて言えることは、「就労および社会参加に営む高齢者は決して多くはない」ということである。今の高齢者は体力的にも非常に若返ってきており、社会の中で活躍できる高齢者は非常に多い。そうした高齢者が活躍できないままであることは、社会にとって貴重な社会資源を喪失させてしまっていると言い換えられる。このことについて、社会(地域社会)、企業、個人(高齢者)の3者の視点から主たる課題を挙げてみたい。

(1)社会(地域社会)の課題

 社会にとっては、社会の「活力(労働力)」の低下と、社会の「支え合いバランス」の歪みが挙げられる。今後の少子高齢化および人口減少に伴って、自然体であれば、労働力人口は確実に減少していく。また、現役世代が減って、未就労の高齢世代が増え続ければ、年金財政のことを含めて社会の支え合いのバランスがより崩れていく。

 表は「高齢者1人を現役世代が何人で支えるか」を表した比率である。パターン1は15~64歳を現役世代として65歳以上を高齢者とした場合、パターン2は15~74歳を現役世代として75歳以上を高齢者とした場合である。この比率は、「胴上げ型」「騎馬戦型」とも言われるものであるが、パターン1で推移すると「肩車型」、つまり現役1人で高齢者1人を支えていくことになる。現役世代の負担がさらに重くなっていくことを意味する。パターン2のように74歳まで支える側に回ることができれば現状よりも支え合いのバランスが安定し、若い世代の負担を軽くすることができる。

表 社会の支え合いバランスの構造 ~B世代をA世代が何人で支えるかの割合~
(2020年は総務省「人口推計」(2020年10月1日現在)、2030年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果より作成)
2020年2030年2040年2050年2060年
パターン1A世代15-64歳人口(万人) 7449 6875 5978 5275 4793
パターン1B世代65歳以上人口(万人) 3619 3716 3921 3841 3540
パターン1比率(人) 2.06 1.85 1.52 1.37 1.35
パターン2A世代15-74歳人口(万人) 9196 8303 7659 6699 5946
パターン2B世代75歳以上人口(万人) 1872 2288 2239 2417 2387
パターン2比率(人) 4.91 3.63 3.42 2.77 2.49

 これらは数字上の話であるが、こうした数値からも、社会の活力を維持し、支え合いのバランスの安定化を図るには、"「労働者」であり、積極的な「消費者」であり、「納税者」であり続ける高齢者"が1人でも増えることが、社会にとって望ましいことは明らかと言えよう。

(2)企業の課題

 企業にとってもこうした労働力の変化は経営に直結する重要な問題である。現在でも顕在化している「人手不足」の問題がより深刻になっていく。と言って、高齢者を積極的に雇用すれば済む、という話でもない。前述の「70歳までの就業確保措置の要請(努力義務)」に対して慎重な企業も多い。終身雇用や年功序列に代表されるような「日本型雇用慣行」を維持してきた多くの企業にとって、高齢社員の増加は、人件費の圧迫や組織の硬直化につながりかねず、どちらかと言えば敬遠したいのが本音であろう。

(3)個人の課題

 個人にとっての課題は、人生100年時代と言われる長寿の可能性ある人生を、「いかに最期までよりよく生きていけるか、生き抜いていけるか」ということに尽きるのではないだろうか。先人たちの時代よりも延長した人生の可能性に対して、多くの人は希望よりも不安を抱いている※4。健康面はもとより、お金が枯渇してしまわないかなど、高齢期の不安要素は少なくない。

※4 生命保険文化センター「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(2021年6月)において、「人生100年時代の到来に対する意識(長寿社会への不安感)」を尋ねた結果では、51.2%が「希望より不安が大きい」と回答。「不安より希望が大きい」と回答したのは11.6%。

 この不安の解消に最も有効なのが、"生涯現役"、つまり年齢にかかわらず社会の中で活躍し続ける、稼ぎ続けられることだと考えるが、前述のとおり、そのことを実践できている人は多いとは言えない状況にある。自分や家族のため、また社会のためにも、いわゆる"生涯現役"にチャレンジし続けることが1人ひとりの個人に求められていると言えよう。

2.課題解決に向けた取り組みの視点

 以上の課題を踏まえて、これからどのような取り組みが求められるか。社会、企業、個人の3者にとって、有効な解決の視点とは何か、次の3点を述べてみたい。

(1)「人生100年時代の生き方モデル」の合意形成~生計就労から生きがい就労パターンの推進

 まず、「人生100年時代の生き方モデル」の合意形成のことを挙げたい。社会は、1人ひとりの理想の生き方を支えること、そのための制度・政策や社会システムを構築していくことが求められるわけであるが、人生100年と言われるこれからの時代において、その理想のあり方が判然としないままである。ライフコースについては何か1つの正解があるわけでないが、少なくとも理想のあり方について、社会全体で議論を深め認識を共有することは重要であろう。

 以下に4つのモデルパターンを示したが、現在の政策方向はパターンAからパターンBへのシフトを図ろうとしているように映る(図3)。70歳までは就労できるような社会にしていくというモデルである。長く活躍できることは望ましいことではあるものの、果たして70歳まででよいのだろうか。70歳を過ぎたら自由気ままな年金暮らし、これで個人も社会も満たされるだろうか(そのような暮らしができる人がどれくらいいるだろうか)。人生100年に照らすと、70歳でリタイアしても実に30年という年月がある。そもそもこれからの本格的な超高齢社会、人生100年時代においては、「老後」や「余生」という言葉自体がそぐわない。年齢にかかわらず、いつまでも活躍し続けられる人生、そのほうがより豊かな人生になるのではないか。

図3:生き方のモデル、活躍の仕方のモデルパターンを表すイメージ図。
図3 生き方モデル、活躍の仕方モデルパターン(イメージ)

 そのように考えたときに、筆者はパターンCを理想と考える。65歳までは生計のために就労し、その後は自分がしたい新たな仕事や社会活動を、量(時間)も少しずつ減らしながら、まさに生きがいのために活躍し続けられるモデルである。パターンDの複数のキャリアを積み重ねながら人生を歩むモデルもよいが、そうした人生を安心して歩めるようにするには労働市場の整備が欠かせない。そのためパターンCが現実的に一番望ましいと考える。少なくともこうした議論を社会全体で進めていくことが必要であろう。

(2)「高齢者に相応(ふさわ)しい」活躍場所・仕事の開拓

 次に求められることが、前述の生きがい就労にもなるような「高齢者に相応しい」活躍場所・仕事の開拓である。これが社会、企業、個人の3者にとって最も重要で必要な取り組みと考える。高齢者の就労などが進まない理由の最たることが、「高齢者に相応しい」仕事や活躍機会が少ないということである。企業は、「高齢者に相応しい仕事がわからない、つくれない」、高齢者個人は、新たに活躍したいと思えるような「魅力的な仕事(内容や条件など)が見当たらない」、この状態が続く限り、社会の活力の減退は避けられないであろう。

 ここで注目したいのが、自治体を中心とした地域社会である。地域には、子育てから福祉を含めて、さまざまな地域課題を抱えている。そうした地域課題解決につながるような活躍の場所・機会を自治体が中心となって拡げていくことである。高齢者の多くは、自宅からそう離れていないところで、無理なく楽しく働けること、そして何よりも"感謝されること(ありがとうと言われること)"が、新たな活躍のモチベーションになりやすい。「地域の課題解決にシニアの力を活かす」、この発想のもと、自治体としても業務負荷の軽減を図ることも視野に入れながら、そうした仕事(活躍の場所)を拡大することが望まれる※5

※5 当該趣旨を踏まえた事業として「生涯現役促進地域連携事業」が2016年度から展開されているが、市区町村で当事業に取り組んでいるところはわずか3%程度であり、当事業の拡大・発展が必要である。

 企業にとっては2つの視点がある。1つは「高齢者を戦力として活かす」視点から、業務分析の徹底を図り、高齢者に相応しい仕事(短時間の仕事や経験を活かせる、ネットワークを活かせる仕事など)を見つけ切り出す努力、もう1つは「社員の人生を応援する」取り組みである。例えば、セカンドキャリア移行に向けたキャリア自立支援研修などが該当する。

 こうした取り組みを進める中で、「定年を迎えた後は、自宅のある地域社会の中で新たな活躍をする」が、当たり前のようなライフコースになれば、社会の活力、地域力の強化につながると考える。

(3)シニアの力を地域社会に活かすマッチングシステムの実装化

 最後に必要なことは、前述のように開拓できた活躍の場と高齢者をつなげる機能(システム)を地域社会の中に実装することである。

 高齢者と仕事のマッチングを担う機関としては、民間派遣会社やシルバー人材センター、ハローワークなどがあるが、それぞれ一部の層にしか対応できていない。民間の派遣会社はハイキャリアでスキルが豊富な人が対象となりやすく、シルバー人材センターは会員になった高齢者が対象であり、ハローワークは基本的に生活困窮者向けである。したがって、大半のいわゆる普通の高齢者の方のマッチングをサポートする社会的なシステムはあるようでないのである。その機能(システム)は、これからの未来社会にとって極めて重要であり不可欠である。早期に地域社会に実装されることが待たれる。

おわりに

 新型コロナウイルス感染拡大により、世界は大きく変化した。企業活動も個人生活もよくも悪くも変革を余儀なくされている。このコロナ禍が過ぎた後の時代において真っ先に取り組みが必要なことが、「人生100年時代のサスティナブルな社会の構築」と考える。そのカギを握るのが「シニア就労と社会参加」である。

筆者

写真:筆者_前田展弘先生
前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所ジェロントロジー推進室主任研究員
略歴
1994年:早稲田大学商学部卒業、日本生命保険相互会社入社、2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所入社、2007年:日本大学大学院グローバルビジネス研究科修了(MBA)、2014年より現職。2006~2008年度:東京大学総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門協力研究員、2009~2019年度:東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員、2021年度より慶応義塾大学ファインシャル・ジェロントロジー研究センター客員研究員
専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.99(PDF:7.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

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