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フレイル予防のための食事と栄養

公開日:2024年10月18日 09時00分
更新日:2024年11月12日 16時00分

横山 友里(よこやま ゆり)

東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員

はじめに

 フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することで種々のストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡など様々な負の健康アウトカムを起こしやすい前障害状態のことである1)。高齢期の健康づくりでは、疾病予防や管理に加えて、加齢に伴う機能低下を防ぐ観点が重視され、年齢とともにフレイル予防の重要性が高まる。

 高齢者が直面する主要な栄養の課題としてやせや低栄養が挙げられる。高齢期は、身体的要因(味覚・嗅覚等の感覚器の機能低下、咀嚼・嚥下能力の低下、身体活動量の低下)のほか、うつや認知症などの精神的要因や、孤食や独居などによる社会的要因等が相互に関連し、食欲や摂食量が低下することにより、低栄養状態に陥りやすくなる。低栄養、さらにはフレイルを予防するためには、これらの背景要因を考慮したうえで、日々の食事から必要な栄養素等を適切に摂取することが重要になる。

 本稿では、「多様な食品摂取」と「たんぱく質摂取」に焦点をおいて、地域高齢者を対象とした栄養疫学研究等の知見をもとに、食事・栄養面からのフレイル予防について概説する。

多様な食品摂取

 高齢期はエネルギー摂取量をはじめ、多くの栄養素や食品群の摂取量が低下し、低栄養状態に陥りやすい傾向があることから、日々の食生活においては、多様な食品摂取を通じて食事の質を高めることが第一に重要と考えられる。

 日本人高齢者の食品摂取の多様性を評価する指標としては、2003年に東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)の熊谷らが開発した食品摂取の多様性得点(Dietary Variety Score:以下、DVS)2)がある。DVSは10食品群(肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、芋類、および油脂類)の1週間の食品摂取頻度から、各食品群に対して、「ほぼ毎日食べる」に1点、「2日に1回食べる」、「週に1、2回食べる」、「ほとんど食べない」の摂取頻度は0点とし、その合計点を算出するものである(得点範囲0-10点)。

 地域高齢者を対象にDVSと栄養素摂取量(3日間の食事記録より算出)との関連を検討した研究では、DVSが高い群(7点以上)は、低い群(3点以下)に比べて、たんぱく質・脂質エネルギー比率は高く、たんぱく質や種々の微量栄養素の摂取量は多かった一方、炭水化物摂取量は少なかったことが示されており3)、多様な栄養素摂取を反映する指標であることが確認されている。また、DVSは地域高齢者対象の観察研究に多数用いられており、フレイル予防に関連する研究成果としては、多様な食品を摂取している者ほど、筋量が多く、身体機能(握力や通常歩行速度)が高いこと4)や、多様な食品摂取が4年後の身体機能の低下抑制に関連することが示されている5)

 DVSは10の食品群の摂取頻度から簡便に評価できることが特徴であり、栄養価計算などを必要としないため管理栄養士・栄養士などの専門職がいない場面でも使用可能である。地域高齢者を対象とした介入研究から、チェック表によるセルフチェックや栄養教育を通じてDVSの向上が可能であることも示されており6),7)、高齢者の食事評価・改善のツールとして実践現場でも広く活用されている。チェック表(図)については、「いろいろ食べポチェック表」として当チームが開設したWebサイト8)よりダウンロード可能なため、参考にされたい(https://www.healthy-aging.tokyo/top(外部サイト)(新しいウインドウが開きます))。

図、食品摂取多様性のチェック表(いろいろ食べポチェック表)を表す図。
図1 社会参加者が多い市・町ほどフレイル該当者が少ない
(出典:東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム.フレイル予防「ちょい足しTM」コンテンツ(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)

たんぱく質摂取

 食事から摂取するたんぱく質は、筋たんぱく質合成に必要なアミノ酸を供給し、直接的な影響を与える。高齢期のフレイル予防に向けては骨格筋とその機能維持が重要であることから、たんぱく質は高齢期のフレイル予防に不可欠な栄養素である。習慣的なたんぱく質摂取量とフレイルとの関連に関する観察型の疫学研究をまとめたメタアナリシスでは、日本人を対象とした研究を含む4つの横断研究が対象となっており、観察集団内における相対的なたんぱく質摂取量が多いほど、フレイルの有病率が低い傾向にあることが報告されている9)

 フレイルの発症予防を目的とした望ましい摂取量については十分に明らかになっていないが、The European Union Geriatric Medicine Society(EUGMS)(など4団体合同)10)The European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN)Expert group11)は、健康な高齢者に勧めるべきたんぱく質摂取量を1.0〜1.2g/kg体重/日としており、従来考えられていた値(0.8g/kg体重/日)よりも高く設定されている。日本人の食事摂取基準(2020年版)12)においても、高齢期のたんぱく質摂取の重要性などを鑑み、目標量の下限値が他の年齢区分よりも引き上げられており(15〜20%エネルギー)、参照体位を想定した限りにおいては、少なくとも1.0g/kg体重/日以上のレベルで目標量が示されている。

 最近では、1日のたんぱく質の摂取量だけでなく、朝食・昼食・夕食といった各食事の摂取配分(distribution)についても注目されている。フレイルの高齢者は、プレフレイルやノンフレイルの高齢者と比べて、3食(朝食・昼食・夕食)の摂取配分が均等でないことなどが報告されているが13)、たんぱく質の摂取配分と各種アウトカム(フレイル、筋量、筋力、歩行速度など)との関連に関する研究はまだ限られており、現段階では一貫した結果が得られていない14)。しかしながら、たんぱく質の摂取配分は夕食に偏っていることが多いため、特に1日のたんぱく質摂取量が不十分な高齢者では、朝食と昼食でより多くのたんぱく質を摂取し、1日のたんぱく質の摂取配分のバランスを改善することが、フレイル予防にも役立つ可能性がある14)

おわりに

 高齢期のフレイル予防において、日々の食事は重要な役割を担っており、本稿では「多様な食品摂取」と「たんぱく質摂取」に焦点をあて、地域高齢者のフレイル予防のための食事と栄養について概説した。フレイル対策の要は、「運動」「栄養」「社会参加」の三本柱に集約され、どれか1つを実践するよりも、複数実践することがフレイル予防や介護予防効果を高めることが報告されている15),16)。フレイル予防をはじめ、健康長寿の実現に向けては、「栄養」とともに、「運動」や「社会参加」も不可欠な要素であり、複合的な対策と地域環境の整備が今後ますます重要になると考えられる。

文献

  1. Morley JE, Vellas B, van Kan GA, et al.: Frailty consensus: a call to action. J Am Med Dir Assoc. 2013; 14(6): 392-397.
  2. 熊谷修, 渡辺修一郎, 柴田博, 他: 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能低下の関連. 日本公衆衛生雑誌 2003; 50(12): 1117-1124.
  3. 成田美紀, 北村明彦, 武見ゆかり, 他: 地域在宅高齢者における食品摂取多様性と栄養素等摂取量,食品群別摂取量および主食・主菜・副菜を組み合わせた食事日数との関連. 日本公衆衛生雑誌 2020; 67(3): 171-182.
  4. Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H, et al.: Association of Dietary Variety with Body Composition and Physical Function in Community-dwelling Elderly Japanese. J Nutr Health Aging. 2016; 20(7): 691-696.
  5. Yokoyama Y, Nishi M, Murayama H, et al.: Dietary Variety and Decline in Lean Mass and Physical Performance in Community-Dwelling Older Japanese: A 4-year Follow-Up Study. J Nutr Health Aging. 2017; 21(1): 11-16.
  6. 秦俊貴, 清野諭, 遠峰結衣, 他: 食品摂取の多様性向上を目的とした10食品群の摂取チェック表『食べポチェック表』の効果に関する検討. 日本公衆衛生雑誌 2021; 68(7): 477-492.
  7. Seino S, Nishi M, Murayama H, et al.: Effects of a multifactorial intervention comprising resistance exercise, nutritional and psychosocial programs on frailty and functional health in community-dwelling older adults: A randomized, controlled, cross-over trial. Geriatr Gerontol Int. 2017; 17(11): 2034-2045.
  8. 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム. フレイル予防「ちょい足しTM」コンテンツ(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2024年9月20日閲覧)
  9. Coelho-Junior HJ, Rodrigues B, Uchida M, et al.: Low Protein Intake Is Associated with Frailty in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients. 2018; 10(9): 1334.
  10. Bauer J, Biolo G, Cederholm T, et al.: Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group. J Am Med Dir Assoc. 2013; 14(8): 542-559.
  11. Deutz NE, Bauer JM, Barazzoni R, et al.: Protein intake and exercise for optimal muscle function with aging: recommendations from the ESPEN Expert Group. Clin Nutr. 2014; 33(6): 929-936.
  12. 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 (PDF:11.2MB)(外部サイト)(新しいウインドウが開きます)(2024年9月20日閲覧)
  13. Bollwein J, Diekmann R, Kaiser MJ, et al.: Dietary quality is related to frailty in community-dwelling older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2013; 68(4): 483-489.
  14. Hudson JL, Iii REB, Campbell WW: Protein Distribution and Muscle-Related Outcomes: Does the Evidence Support the Concept? Nutrients. 2020; 12(5): 1441.
  15. Seino S, Nofuji Y, Yokoyama Y, et al.: Combined Impacts of Physical Activity, Dietary Variety, and Social Interaction on Incident Functional Disability in Older Japanese Adults. J Epidemiol. 2023; 33(7): 350-359.
  16. Abe T, Seino S, Nofuji Y, et al.: Modifiable healthy behaviours and incident disability in older adults: Analysis of combined data from two cohort studies in Japan. Exp Gerontol. 2023; 173: 112094.

筆者

よこやまゆり氏の写真。
横山 友里(よこやま ゆり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム研究員
略歴
2014年:日本学術振興会特別研究員(DC2)、2016年3月:東京農業大学大学院(農学研究科食品栄養学専攻)博士後期課程修了、2016年4月より現職
専門分野
栄養疫学、公衆栄養学
過去の掲載記事
特集/健康長寿のための食事と栄養(Aging&Health 第26巻第4号)(新しいウインドウが開きます)

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health 2024年 第33巻第3号(PDF:6.0MB)(新しいウィンドウが開きます)

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