高齢者の社会参加と健康
公開日:2018年1月13日 09時14分
更新日:2019年8月 6日 13時14分
藤原 佳典(ふじわら よしのり)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム研究部長
はじめに
少子高齢社会が進行するわが国では、高齢者は健康や社会経済的側面から最大多数の弱者となりうる。一方で、高齢者は持続可能な共生社会の実現をめざすうえでは、就労やボランティアといった有償・無償の社会貢献の担い手としても期待される。
筆者は、ライフコースに応じた健康度(=生活機能)と社会参加活動の枠組みを体系的に示した(図)1)。本来、人と社会との関わりとは長い人生の中で徐々に対象や形態を変えながらシームレスに継続されていくべきものである。
本稿の目的は、高齢期の社会参加について、ボランティア活動や生涯学習活動というように単一の活動に限局することなく、ライフコースに応じた社会参加が健康に及ぼす影響について整理することとする。
社会参加のステージと社会関係
「社会参加」(social participation)についての統一された定義はないが、実践的な活動と置き換えた場合には、「他者との相互関係を伴う活動に参加すること」と定義すると考えやすい。本稿では、高齢者の社会参加・社会貢献をプロダクティビティの理論2)に基づき操作的に、
- 就労
- ボランティア活動
- 自己啓発(趣味・学習・保健)活動
- 友人・隣人などとのインフォーマルな交流
- 要介護期の通所型サービス利用
の5つのステージを定義する。
高齢者の社会参加のステージは重層的であり、求められる生活機能や社会的責任により高次から低次へと階層構造をなす。また、社会参加の基盤には、社会的役割や社会関係がある。本稿では、人とのつながりや交流という側面を「社会関係(social relationships)」と呼ぶ。さらに社会関係は、友人や知人の数といった社会的ネットワークに代表される構造的側面と、対人的な資源やサービスのやり取りを表す社会的サポートに代表される機能的側面に大別する。
高齢期の就労と健康
近年、65~69歳の高齢男性の約50%、女性の約30%が就労している点から社会参加の第1ステージである「就労」に注目する必要がある。その背景には、高齢者の経済的自立や生きがいを促す点や、女性に比べて社会的孤立傾向が強いとされる男性の社会参加の機会3)として支持される可能性がある点が考えられる。
海外における高齢者の退職と健康に関する研究では、1.定年退職は精神的健康にポジティブな影響がみられるが、2.主観的健康感や身体的健康に対してはネガティブな影響がある場合もある。さらに、3.作業労働者と事務労働者といった職種による差、自発的退職と解雇や健康問題といった自発的でない退職による差など、諸要因による違いが報告されている4)。
筆者らの首都圏ベッドタウンにおける4年間の追跡研究によると、定年後、働いていた人が退職した場合に比べて就労を継続する場合は、フルタイム、パートタイムともに健康維持に有効であるとともに、定年以降の就労からの離脱により精神健康は、最初の2年間で低下し、生活機能は4年間にわたり徐々に低下することが示された。また、8年間の長期追跡により、男性では初回調査時点で就労している人は、地域にかかわらず基本的日常生活動作能力(BADL)の低下が有意に抑制されていた5)。
高齢期のボランティアや自己啓発活動と健康
ボランティア活動が心身の健康に及ぼす効果
筆者はボランティア活動と健康の関連について概観した6)。ボランティア活動が健康に及ぼす直接的な影響を分析した研究の大半は、生活満足度、抑うつ度、健康度自己評価といった心理尺度を目的変数としたものであり、横断研究と縦断研究のいずれにおいても、ボランティア活動と心理的な健康度とが関連している。
ボランティア活動が身体的健康に及ぼす影響を調べた研究では、死亡、身体機能障害や虚弱のリスクが抑制されるという報告や、動脈硬化性疾患のリスクファクターである高血圧や炎症反応の指標である血清CRP(C-reactiveprotein)を抑制するとの報告も散見されるが、心理的効果の研究と比べて不足している。
その理由の1つとして、ボランティア活動に参加する高齢者の特徴によるバイアスが考えられる。ボランティア活動への参加や継続を促進する要因として低年齢、高学歴、高年収、健康状態がよい、配偶者あり、過去のボランティア経験あり、といった特徴が列挙されている。概して、もともと心身社会的に健康度の高い高齢者がボランティア活動へ参加しているといえる。
健康にとって望ましいボランティア活動の内容、時間、所属団体数
ボランティア活動の内容による効果の違いを分析した研究はきわめて限定される。世代間交流のある群で生活満足度は高かったとの報告と、教会・宗教関係のボランティア活動がより心理的・身体的健康への効果が大きいとする報告がみられる。
高齢者のボランティア活動の従事量については、従事時間が長いほど好影響を与えるものの、至適時間を超えると効果は徐々に減少するとの研究が多い。自験例では月に1回以上の従事が生活機能の維持に有効であったが7)、その至適時間のカットオフポイントについては一致した見解は得られていない。
1つのボランティア活動に特化すべきか、複数の活動をバランスよく同時に継続することが心身の健康にとって好影響を与えるかといった議論は意見が分かれる。
自己啓発活動が心身の健康に及ぼす直接的な効果
自己啓発活動の主な要素である余暇活動は、認知機能の低下抑制に有効であることを支持するエビデンスは多い。例えば、音楽鑑賞やパズルなどに取り組む群と比して、カメラの撮影技術の学習やパソコンによる画像編集技術といった新しい事柄の学習を行った群において記憶機能の向上がみられたとの報告がある8)。認知機能の働きが向上することで、その後の認知機能低下が遅延することが期待できる。
新しい学習や社会的つながりが重要であるということに着目し、われわれは絵本の読み聞かせ技術の習得を目的とした介入研究を展開している。もの忘れの愁訴を持つ高齢者を対象に無作為化比較試験による効果検証を行ったところ、絵本の読み聞かせ技術の習得講座を前期に3か月間受講したグループにおいて記憶機能向上の介入効果がみられ、後期に3か月間受講したグループは前期(待機中)には変化なく、後期に受講すると前期参加グループと同様に記憶力検査の成績は向上した9)。
高齢者のボランティア活動と自己啓発活動は階層性がある一方で、重複することが多い。例えば、趣味や稽古ごとが長じて、ボランティア活動へと至る場合や、ボランティア活動の質を向上するうえで、修練・稽古を積み、これらがプラスの循環となり相乗効果を生み出す場合が多い。
例えば、世代間交流を基盤とした自己啓発型社会貢献の自験例としては、高齢者による学校支援ボランティアプロジェクト"REPRINTS"がある10)。前述の読み聞かせ講座を修了した高齢者ボランティアグループへと勧奨する。ボランティアとしての定期的な絵本の読み聞かせ活動を通した世代間交流により、聞き手である子ども、読み手である高齢者ボランティア自身、子どもの保護者への多面的な効果を検証してきた。
"REPRINTS"の9か月間の短期的な効果として、ボランティア群は対照群に比べて、健康度自己評価や社会的ネットワーク、体力の一部において有意な改善、または低下の抑制がみられた。子どもへの影響については、高齢者イメージは児童の成長とともに低下する可能性があるが、REPRINTSボランティアとの交流頻度が高い児童では、1年後も肯定的なイメージを維持しうることが示された。また、2年間の追跡からはREPRINTSボランティアにより保護者の学校への奉仕活動に関する心理的・物理的負担の軽減がみられた。
以上より、REPRINTSプロジェクトによる高齢者ボランティアと児童、保護者にわたる互恵的効果が検証された。
6~7年間にわたり、REPRINTSボランティアを継続した高齢者は、頭部MRI上の海馬の萎縮、転倒リスクを予測する体力指標や社会的ネットワーク指標の一部、老研式活動能力指標の「知的能動性」において、対照群に比較して有意に維持・低下が抑制された10)11)。
インフォーマルな社会関係と健康
プロダクティビティモデルの第4ステージである友人・隣人などとのインフォーマルな交流による社会参加については、必ずしもグループ・団体活動に属する必要がない。むしろ、先述の社会関係の重要性が強調される。
外出頻度が1日1回以下の場合を「閉じこもり傾向」とする。また、単独行動で人とのコミュニケーションを伴わない外出は、孤立している状態と同じである。毎日外出して孤立もしていない男女を基準におくと、男性は毎日外出していても、孤立していると4年後に生活機能の低下が約2倍になる。逆に女性は孤立していなくても、外出頻度が1日1回以下の閉じこもり傾向だと生活機能の低下リスクが約1.6倍になる。つまり、男性は「交流なき外出」に気をつけ、女性は「外出なき交流」に留意することが大切である3)。
おわりに
本稿では、ライフコースに応じた4つのステージにおける社会参加の枠組みと効果について紹介してきた。筆者は地域包括ケアシステムとはそもそも持続可能な地域社会を守る戦略・戦術と考えている。それは城(地域)を守るための堅固な内堀と広大な外堀に例えられる12)。介護予防、生活支援、見守り・気づきといった比較的専門性を問わないが圧倒的に多数を占める地域の課題(=ポピュレーションアプローチ)については、住民組織や地域資源とのネットワーク・互助(外堀)で可能な限り対応してもらい、専門性の高い困難事例への対応(=ハイリスクアプローチ)については、専門職や公的機関(内堀)が専念できる体制の構築が急務である。
2025年を控え背水の陣を構える今こそ、高齢者が多様な社会参加を通じて守ってくれる外堀を最大限活用する策を講じるときではなかろうか。
参考文献
- 藤原佳典(2014)高齢者のシームレスな社会参加と世代間交流-ライフコースに応じた重層的な支援とは,日本世代間交流学会誌,4,p.17-23
- Kahn,R.L. (1983) Productive behavior: assessment, determinants, and effects, Journal of American Geriatric Society, vol.31,no.12, p.750-757
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- 藤原佳典(2017)地域包括ケア時代における高齢者の社会参加・社会貢献,Geriatric Medicine, vol.55,No.2,p.137-138
筆者
- 藤原 佳典(ふじわら よしのり)
- 東京都健康長寿医療センター研究所
- 社会参加と地域保健研究チーム研究部長
- 略歴:
- 1993 年:北海道大学医学部卒業、京都大学病院老年科などに勤務、2000年:京都大学大学院医学研究科修了、東京都老人総合研究所地域保健部門研究員などを経て、2011年より現職
- 専門分野:
- 公衆衛生学、老年医学、老年社会科学。医学博士
転載元
公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84