健康長寿ネット

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高齢期の生活機能の維持

公開日:2018年1月12日 09時49分
更新日:2022年7月26日 11時22分

鈴木 隆雄(すずき たかお)

桜美林大学老年学総合研究所所長

国立長寿医療研究センター理事長特任補佐

はじめに―生活機能について

 現在、一般的な「生活機能」といえば、ICF 分類が知られている。ICFはInternational Classification of Functioning,Disability and Health1)の略で、日本語では国際生活機能分類と称されており、この分類は2001年に世界保健機関(WHO)によって採択された(図1)。ここでいう「生活機能」とは簡単にいうと、「人が生きていくこと」のすべてを指している。ICFではこのような「生活機能」を構成している2つの大きな要素として「心身機能・身体構造」と「活動と参加」があるが、この2つの要素に関する項目は合わせて1,000個以上提示されている。

 ICFのモデルにおいては、それぞれの要素をつなぐ矢印が、すべて双方向に向いていることが特徴的である。このことは、いずれもが(一方向的な影響だけを有するのではなく)相互の影響することを表しており、たとえば「心身の機能」は当然「活動と参加」に影響を及ぼすが、同時にまた「活動と参加」を通じて「心身の機能」に影響を及ぼすといった、いわば双方向性の影響によって生活機能全体に良循環を生み出すことを示唆している。このように概念を拡大すると、最終的にはすべての因子がすべての因子に影響を与える可能性があるというのがICFの考え方の特徴となる。

図1:ICFによる生活機能を示す図。背景因子には環境因子と個人因子、生活機能は心身機能・身体機能、活動、参加の要素が含まれる。
図1:ICFによる「生活機能」1)

活動能力指標について

 ICF分類は「人が生きていくこと」のすべてとして「生活機能」を規定しているが、高齢期における日常生活での自立を論ずる際には「活動能力」と呼ばれる指標がより実用的であることから、それが用いられることが多い。ロートンは、高齢者が自立した生活を送るうえで必要となる総合的能力(「活動能力」)を7つの水準に体系化し、自立にはヒエラルヒー的な階層性が存在するとし、中でもより高度な能力(高次生活機能)として「手段的自立」「知的能動性」「社会的役割」であると述べ、自立に関するモデルを提示した2)

 このような高次生活機能を評価する尺度としてわが国では「老研式活動能力指標(TMIG-IC)」3)4)5)がよく知られている。本指標の信頼性・妥当性が確立された世界的にも認められた指標であり、これまで国内外で数多くのTMIG-ICを用いた研究がなされてきた。ここでは、TMIG-ICを高次の生活機能の指標として用いた最近の研究例として、わが国を代表する老化に関する長期縦断研究のひとつである、国立長寿医療研究センターの実施している老化に関する長期縦断研究NILS-LSAの成果を紹介する6)

 本研究はNILS-LSAに参加した40歳~79歳の地域在宅成人~高齢者を対象として1997年~2000年をベースラインとし、2013年に追跡調査を実施した縦断研究(平均追跡期間;14.3年)で、TMIG-ICを高次生活機能の指標として用い、変容可能な8つの健康習慣、すなわち「喫煙」、「アルコール飲酒」、「身体活動」、「睡眠時間」、「体格指数(BMI)」、「食事の多様性」、「生きがい」、そして「健診受診」を説明変数として、高次の生活機能低下をもたらす要因について分析したものである。

 その結果、追跡期間中にTMIG-ICの総合スコア(13点満点)で2点以上低下した者は196人(15%)であったが、8個の健康習慣の個数に基づく3群(「0-4」、「5-6」、「7-8」)での低下率はそれぞれ、25.6%、16.5%、12.4%となり、健康習慣の個数の多いほど高次の生活習慣の低下率は有意に減少していた(p=0.03)。さらに性、年齢、ベースラインのTMIG-IC得点、年収、教育歴などを調整した高次生活機能低下のリスクに関しても、図2に示すように、健康習慣の個数(カテゴリー化)の多いものほど低下するオッズ比は有意に低下した(Trend p=0.02)。

図2:健康習慣の個数(カテゴリー化)の多いものほど低下するオッズ比は有意に低下していることを示す棒グラフ。
図2:健康習慣に基づく高次生活機能の低下リスク6)より引用改変

JST版活動能力指標

 TMIG-ICは妥当性、信頼性に優れた高齢者の生活機能評価の指標として使用されてきたが、一方、近年、急速な高齢化や生活環境の変化、高齢者の健康状態、ライフスタイルの変化に応じた高次生活機能の中でもより高い能力を測定可能な尺度の開発が求められてきた。こうした状況をふまえ、「JST版活動能力指標(JST-Index of Competence: JST-IC)」7)は、老研式活動能力指標を基盤としつつ、現代そして近い将来の日本の高齢者における高次生活機能の中でもより高い能力、すなわち「1人暮らし高齢者が自立し活動的に暮らす」ために必要な能力を測定する尺度として開発された。

 JST-ICは16項目から構成され、4項目ずつ4つの下位領域(新機器利用、情報収集、生活マネジメント、社会参加)を含んでいる(表1)。「新機器利用」は生活に使う新しい機器を使いこなす能力、「情報収集」はよりよい生活を送るため自ら情報収集し活用する能力、「生活マネジメント」は自分や家族、周辺の人びとの生活を見渡し管理(マネジメント)する能力、「社会参加」は活動に参加し地域での役割を果たす能力を示している。

 これまでJST-ICについては、65歳から84歳までの全国サンプルを用いて、尺度の信頼性、4因子構造(因子的妥当性)が確認されている。また、このサンプルの同一対象者で老研式活動能力指標とJST-ICとの分布を比較したところ、老研式活動能力指標では13点満点の者が48.9%と強い天井効果を示していたのに対して、JST-ICは満点よりも低い点の者が最も多く、天井効果が回避され、老研式活動能力指標よりも難易度が高く、より高いレベルで高次生活機能が測定できる指標であること(構成概念妥当性)が確認された8)

 加えて、本指標は、高齢期の健康を構成する身体的側面(自記式の体力指標)、社会的側面(ソーシャルネットワーク、参加している組織数)、心理的側面(精神的健康)などといずれも中程度以上の相関を示しており、高齢期の健康を包括的に簡便にとらえる指標としても使用可能である9)

 JST-Iの信頼性や妥当性に関するデータは、採点可能な地域在宅高齢者2,398名(男性1,001名、女性1,397名;平均年齢=73.17±5.4歳)について分析を行い、4因子構造の確認や信頼係数の高さなどが確認されている。具体的には、JST-ICの16項目について、「はい」「いいえ」の2択式で回答をいただき、「はい」を1点、「いいえ」を0点として得点を合計し、尺度得点としている(得点範囲:0-16)。また、表1の各項目の領域にしたがい、新機器利用、情報収集、生活マネジメント、社会参加の下位領域ごとに合計点を算出し、下位領域得点とすることも可能である。

表1:JST版活動能力指標。老研式活動能力指標を基盤とし1人暮らし高齢者が自立し活動的に暮らすために必要な能力を測定する項目を示す。
表1:JST版活動能力指標7)

 次に、分析対象者全体のJST-ICの尺度全体および各下位尺度の記述統計値について、集団全体および性・年齢別の4群に分けて、表2に示した。なお、各尺度得点に対して、性別×年齢群(前期高齢者、後期高齢者)の2要因の分散分析を行い、性差、年齢差があるかも確認されている。すなわち、すべての尺度において、前期高齢者が後期高齢者より有意に得点が高かった。また、新機器利用、情報収集にでは男性が女性より有意に高く、生活マネジメントについては女性の方が有意に高かった。また、JST-ICの合計得点と社会参加については性差が有意でなかった。

表2:JST版活動能力指標の年齢別・男女別の全国標準値7)
全体
(N=2580)
平均(標準偏差)
65-74歳男性
(N=731)
平均(標準偏差)
65-74歳女性
(N=774)
平均(標準偏差)
75-84歳男性
(N=469)
平均(標準偏差)
75-84歳女性
(N=606)
平均(標準偏差)
JST版活動能力指標合計 9.7(4.2) 11.0(3.9) 10.6(3.8) 8.9(4.4) 7.7(4.2)
新機能利用 2.3(1.5) 2.9(1.3) 2.6(1.3) 2.0(1.5) 1.4(1.4)
情報収集 2.9(1.3) 3.1(1.2) 3.1(1.2) 2.8(1.3) 2.5(1.5)
生活マネジメント 2.8(1.2) 3.0(1.2) 3.1(1.1) 2.5(1.3) 2.5(1.3)
社会参加 1.7(1.6) 2.0(1.6) 1.8(1.5) 1.6(1.6) 1.2(1.4)

 このように高齢者、特に地域で自立し、比較的高い活動能力を有する高齢者において、新たに開発されたJST-ICは、1.健康度の高い高齢者の活動能力が測定できること、2.包括的な健康度の向上も間接的に測定できること、3.比較的高度な社会参加の側面も測定できること──などの点から、地域住民と行政と研究者が共同で健康増進のための事業やグループ活動を立ち上げ、地域の健康増進を目標に掲げるようなさまざまな調査、研究、事業などの場面において、基本調査はもちろんのこと、介入効果を検討するための指標としても十分活用が期待できることが示され、今後の展開が期待される。

参考文献

  1. WHO(外部サイト)(新しいウィンドウが開きます)
  2. Lawton, MP:Assessing the competence of older people. In Research planning and action for the elderly;The power and potential of social science, ed. by Kent DP, Kastenbaum R, Sherwood S, 122-143, Behavioral Publications, New York(1972)
  3. 古谷野亘,柴田博,中里克治,芳賀博,須山靖男:地域老人における活動能力の測定をめざして、社会老年学、23、35-43、1986.
  4. 古谷野亘,柴田博:老研式活動能力指標の交差妥当性:因子構造の不変性と予測的妥当性、老年社会科学、14、34-42、1992.
  5. 古谷野亘,橋本廸生,府川哲夫,柴田博,郡司篤晃:地域老人の生活機能:老研式活動能力指標による測定値の分布、日本公衆衛生雑誌、40(6)、468-474、1993.
  6. Otsuka R, Nishita Y, Tange C, Suzuki T et al.: The effects of modifiable healthy practices on higher-level functional capacity decline among Japanese community dwellers. Prev Med Rep, 5: 205-209, 2017
  7. 科学技術振興機構(JST);JST版新活動能力指標 利用マニュアル,2013
  8. Iwasa H,Masui Y, Suzuki T, et al.: Development of the Japan Science and Technology Agency Index of Competence to Assess Functional Capacity in Older Adults: Conceptual Definitions and Preliminary Items. Gerontol Geriat Med. 2015,DOI: 10.1177/ 2333721415609490
  9. Iwasa H, Masui Y, Suzuki T et al.: Assessing competence at a higher level among older adults: development of the Japan Science and Technology Agency Index of Competence (JST-IC). Aging Clin Exp Res. 2017, DOI 10.1007/s40520-017-0786-8.

筆者

鈴木隆雄先生

鈴木 隆雄(すずき たかお)
桜美林大学老年学総合研究所所長
国立長寿医療研究センター理事長特任補佐
略歴:
1976 年:札幌医科大学医学部卒業、1982 年:東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、1988 年:札幌医科大学助教授、1990 年:東京都老人総合研究所研究室長(疫学)、1995年:東京大学大学院客員教授(生命科学専攻分野)、1996 年:同研究所部長、2000年:同研究所副所長、2003年:首都大学東京大学院客員教授、2009年:国立長寿医療センター研究所所長、2015年より現職
専門分野:
老年学、疫学。理学博士

転載元

公益財団法人長寿科学振興財団発行 機関誌 Aging&Health No.84

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